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第86話「親友か、宿敵か」

「やあ、ゼベルト。いい朝だね。アニアは一緒じゃないのかい?」

アドナロ王城の一室。プラグマが業務を進める事務室に、ゼベルトは来ていた。プラグマは椅子を入り口に向けて座り、ゼベルトを出迎えていた。

「ああ。アニアは魔王城にいるよ。今日は俺一人で来た。」

「驚きだね。彼女が君と長距離離れることを許すなんて。」

わざとらしくプラグマは両手を上に向けて驚きを表す。

「アドナロ王国はどんな感じだ?」

ぶっきらぼうにゼベルトは質問をする。プラグマの言葉は耳に入っていなかった。

「良好だよ。暴動は起こっていないし、交易に関して順調。魔族領の根菜類とアドナロ王国の葉果類がいい具合で取引されているよ。魔王様が望んだ通りの『友好的外交』だね。」

「流石プラグマだな。」

またぶっきらぼうにゼベルトは返事をした。


「ゼベルト、早く本題に入ったらどうだい? 君一人でいち早くアドナロ王国に戻り僕のとこへ来た。そしてさっきからどこか心ここに在らずの態度。何か僕に相談したいことがあるんだろう?」

プラグマはゼベルトに指を刺して言った。

「ああ、その通りだ。」

ゼベルトはやっとプラグマをしっかりと視界に入れた。

「驚くだろうし、嘘だと思うかもしれないが、まずは何も言わずに聞いて欲しい。いいか?」

「ああ、わかった。」

前置きをして、二人は一度黙る。そしてゼベルトが話し出す。


「フィリアルは『賢者』と通じていた。そして彼女は新しい勇者に殺されて死ぬ。」

ゼベルトは自身の耳で聞いたことをそのままプラグマに言い切った。

「…。」

当然プラグマは無言になる。

「なぜそんなことを言うのか、最初から最期まで、君がそんなことを言う経緯を説明してくれるか?」

額を抑えながら、プラグマはゼベルトに説明を求める。それは当然のこと。

「ああ、説明する。」

ゼベルトは魔王座の間の前で聴いたことをプラグマに全て話した。フィリアルが賢者と話していたこと。彼女が勇者に殺されるということ。それを彼女は否定しなかったこと。そして彼女がこの先の魔族の動向について賢者から助言を得ていたこと。全てを話した。


「…君が、魔王様のことで嘘をつくはずがない。そして冗談だったとして、度が過ぎている。よって、僕は君の言葉を、君の耳が聴いたことを信じるほかない…。」

大きなため息を吐いて、プラグマはゼベルトに言葉を返す。

「なあ、プラグマ。俺は何をしたらいい? 俺は何をするべきか、全くわからない。だから、俺は俺が一番賢いと思う魔族のとこに来たんだ。」

ゼベルトはフィリアルに関してはプラグマを信頼していた。

「お前は俺よりフィリアルといる時間が長い。俺以上に彼女について知ってる。いや今回のこともお前は先に知っていたかもしれないと思ってさ。」

ゼベルトは短く息を吐いて、プラグマに問うた。


「魔王様が賢者と繋がっているなんて、僕が知るはずないだろう!!!」

プラグマが立ち上がり、ゼベルトに詰め寄った。

「そうだよな、悪い…。」

ゼベルトはプラグマに肩を掴まれながら謝る。

「いや、すまない。感情的になってしまった。」

プラグマはゼベルトから手を離す。


「まず、君が最初に僕のところへ来てくれてよかった。もし魔王様本人に話していたら、魔王様は死んでいたかもしれない。」

「どういうことだ?」

「魔王が賢者と繋がっている。全ての前提が覆る事実だ。そんなことは外に漏れないようにするために、きっと大陸最強固の契約魔法を使っているはずだ。それこそ命をかけるはずの。だからこれから無闇に人に話さないほうがいい。」

「そうだな…。」

ゼベルトは理解した。もし自分に秘密が漏れたことが、フィリアル自身、もしくは賢者にバレたのなら、契約魔法が発動して彼女が死ぬ可能性があった。

「君の言葉は信じよう。ただ、あまりにも突拍子もないことだ。僕の方でこのことについては一旦調べさせてもらう。幸い、ここには人族視点の史料が山ほどある。」

そう言ってプラグマは床を指差した。そう、アドナロ王国城には人族しか見ることのできなかったはずの史料が多く置かれている。その史料の中から賢者に関することをプラグマは再度調べるつもりだった。

「わかった。俺は学術的な文章は読めない。お前に頼んだ。」

「ああ。それじゃあ。また何かあったら僕に言ってくれ。」

早速、プラグマは部屋に置かれている本を物色し始めた。


「どうした?」

話が終わっても、ゼベルトは部屋にとどまったままだった。

「俺は、俺はどうしたらいい…?」

ゼベルトは悔しさと無力さを滲ませた声で言った。それはプラグマだけではなく、ゼベルト自身に向けられた言葉でもあった。

「君は、君はもっと強くなれ。魔王様を支えることができるよう、強くなってくれ。頭脳面は僕に任せてくれ。君は君らしく実直であれ。」

プラグマが本心を言った。ゼベルトのフィリアルを思う気持ち。その気持ちをプラグマは心の中で密かに高く評価し、同時に嫉妬していた。プラグマはあれほどまで純真にフィリアルを思う人物をゼベルト以外に知らない。

「わかった。ありがとう、プラグマ。」

真っ直ぐに感謝され、プラグマは少し恥ずかしかった。しかしそれは言葉にせず、ゼベルトが部屋から出ていくのを黙って見ていた。

「…? まだ何かあるのかい?」

ゼベルトがドアノブに手をかけて止まっていた。


「お前に相談して良かった。」

そう言ってゼベルトは部屋から出て行った。

「…君に感謝されると小恥ずかしいよ。」

少し笑いながら、プラグマはついに恥ずかしさを言葉にした。ゼベルトとプラグマはフィリアルを思う気持ちは同じ。宿敵のような、親友のような不思議な二人の関係がそこにあった。

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