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第84話「帰還」

「見送りありがとう。プラグマ、ヴェルニャ。アドナロ王国の方は二人に頼むわ。」

アドナロ王国の城下町。大門に魔族兵たちが集まり、そこにフィリアル、プラグマ、ヴェルニャ、ハンネローレ、ゼベルト、アニア、レオンというお馴染みの面子もいた。プラグマとヴェルニャは馬車に乗らず立っており、ゼベルトとアニアが馬の手綱を握り、その他の面子は馬車に乗り込んでいた。ちなみにハンネローレは足が動かないため、フィリアルに支えられ、馬車に乗った。

「もちろん。魔王様の不在、このプラグマにお任せください。」

「ええ、期待してるわ。ヴェルニャも暴動が起きるようなら真っ先に鎮圧してちょうだい。」

プラグマが魔族領とアドナロ王国の交易を、ヴェルニャが城下町の警備を担うことになっていた。その他の面子は戦勝の報告のため、四分の三の魔族兵たちを引き連れ、一度魔王城に戻る。

「ニャハハ〜、私に任せい!!」

ヴェルニャはいつも通り元気よく返事をした。


「ごめんね、ヴェルニャ。ヴェンデルさんの葬儀、貴女も参加したいでしょうに。」

フィリアルは申し訳なさを顔に表す。

「大丈夫だぜ。もう挨拶は済んだからさ。あとはアニアちゃんとゼベっちに任せるよ。」

猫耳を伏せながら、ヴェルニャはゼベルトとアニアの方を見る。

「はい、ヴェルニャ様。メルクル家にお任せあれ。」

アニアは頭を下げる。ゼベルトも黙って頷いた。


 フィリアル、ハンネローレ、ゼベルト、アニア、レオン。少なくなってしまった魔王軍序列上位者たち。それぞれ、胸中にやるせない思いを抱えながら、馬車に揺られ魔王城へ帰る。帰路中は何事も起こらず、天気もずっと快晴で暖かかったが、戦争で傷ついた兵たちの冷たい空気が一同を包んでいた。


 長い帰路が終わり、戦争から生き残った魔族たちは魔王城城下町に着いた。故郷にたどり着いた安心感で涙を流す兵もいた。フィリアル、ハンネローレ、ゼベルト、アニア、レオンも安堵感で体の緊張が解けた。そこに一人。空から出迎えをする者がいた。


「おっかえりー!!」

龍人フィラウディアがフィリアルたちを出迎えた。

「ただいま、フィラウディア。」

フィリアルはフィラウディアを抱きしめる。

「約束、守ったわ。私死んでないでしょう?」

「うん!! フィリアル大好き!!」

戦争で仲間を失い、疲弊したゼベルトたちにとって、フィラウディアの笑顔は少し眩しかった。

「ただいま、フィラウディア。」

彼女の笑顔にあやかるように、レオンもフィラウディアを抱きしめる。

「どうしたの、レオン? 悲しいことあった?」

「…うん。おじさん、ううん、お父さんが、イザークさんが死んじゃった。」

「…。」

レオンの言葉にフィラウディアは言葉を失う。フィリアルが帰ってきて嬉しい。しかし仲間が死んでしまったらしい。どんなことを言えばいいか、フィラウディアには分からなかった。

「バルトルトさんも、ヴェンデルさんも同じく戦死してしまいました。」

ハンネローレも悲しみも言葉に滲ませながら、仲間の死を告げた。

「…。」

再度、フィラウディアは無言になる。

「そっか、それは悲しいことだね。」

フィラウディアの言葉。ゼベルトは自分の耳を疑った。なぜならその言葉は嘘だったからだ。彼女は仲間の死を憂いてはいなかった。

「でも、フィリアルが、みんなが死ななくてよかったよ!!」

続くフィラウディアの言葉。その言葉に偽りはなかった。ゼベルトは今やっとフィラウディアという生き物、龍人を理解した。彼女はフィリアルという友達一人が生きていればいい。それは彼女を思っているようで友達という存在を持っている自身に対する愛情だった。ゼベルトはフィラウディアの認識を改めた。そしてこれは後に、転換点となる。


「それじゃ、みんな帰りましょ。」

「うん、帰ろう!! 魔王城に!!」

フィリアルとフィラウディアの声で再び皆は魔王城へ歩みを始めた



 戦勝の報告。魔王城城下町での凱旋もあっという間に過ぎ去った。そして気づけば戦死した兵たちの葬儀も終わり、喪服に身を包んだゼベルトはアニアと共にヴェンデルの墓の前に立っていた。

「ヴェンデル。最期までメルクル家への従事、お疲れ様でした。」

アニアも黙祷を捧げた。そこには彼の命を生贄にした謝罪の意も含まれていた。

「ヴェンデルさん。貴方にもらった命、無駄にしません。安らかに眠ってください。」

眼を瞑り、黙祷するゼベルト。


 墓地には大勢の啜り泣く声が響いていた。戦勝の犠牲となった兵たちの親族、恋人たちが墓石に縋り付いて泣いている。残酷な戦争の跡がここにあった。その中にはゼベルトとアニアの親しい二人もいた。一人はハンネローレ。バルトルトの振るっていた斧槍を抱きしめながら大粒の涙を流し、彼が死んでしまったことを改めて痛感していた。一人はレオン。普段明るい彼女もイザークという父親も失い。膝をつき墓石に抱きついて、泣き叫び、全身で悲しみを表していた。


 悲しみに暮れる魔族たちをフィリアルも眼に映していた。魔王として覚悟。それを今また試されている。まだ一度の戦争に勝利しただけ、この先も夢のために戦争は避けられない。同じような戦略をとるのならば、また犠牲はでる。拳を握りしめて、己の無力を感じるフィリアル。何かを心の中で決心し、墓地から離れていった。

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