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第80話「魔王 対 神力 -決着-」

「動くな、動くなといっているだろう!!」

ラファエルは冷や汗を垂らし、声をうわずらせながら、魔法を発現させる。その魔法が向かう先は、空を黒翼で羽ばたき、ゆっくりと接近する魔王フィリアル。

「なぜだ!! なぜ、私の魔法が効かない!?」

勇者を除けば人族最強。勇聖教会『七星』の一番。この時まで、ラファエルの魔法は何者にも完全に無力化されることは無かった。しかしその無かった現象が現実として、今ラファエルの眼の前で起こっていた。

「アナタの魔法はモノとモノとが引っ張り合う力に作用する魔法でしょ? 言うならば引力、引力魔法といったところかしら?」

動揺するラファエルに対して、フィリアルは魔法の解説と言う言葉で追い討ちをかけた。


「なぜそれが分かる!? 神が私にお与えくださった力であり、賢者様の叡智だぞ!! 王とは言え、一時の攻防で、1人の魔族などに分かるものではないはずだろう!?」

「大体、見れば理解るわ。魔素の動きが不自然だったから。」

「ふざけるな!! それだけで世界の理が分かるわけがない!! この悪魔が!!!」

苦し紛れに、ラファエルは地に伏しているアドナロ王国兵たちの武器を引力魔法で操り、数百の刃をフィリアルに飛ばした。

「『退いて』。」

もう魔詞でもないフィリアルのただの言葉が詠唱となり、魔法が発現する。フィリアルに向かってくる剣、槍、斧。その全てがフィリアルに到達する前に、刃を折られ、柄をひしゃげられ、武器ではなく鉄塊と化して、地面に落下した。

「見ただけで理解るから、私は魔王なのよ。」

またゆっくりとフィリアルはラファエルに近づく。


「私は、私はキリア神様の加護を…。」

茫然自失間近となり、顔を両の手で覆うラファエル。整っていた金色の髪も本人によって掻きむしられ、くしゃくしゃに崩れている。

「ねえ、キリア神のことなんて一回忘れたらどうかしら。この世界に神はいないわ。今ここにいるのは魔族と人族。罰だとか、教えだとか、全部無しにして友達にならない? アナタが手のひらを私に向けてくれるのなら、私はその手を握るわ。」

フィリアルはそう言って手を差し伸べる。風が彼女の黒髪を揺らす。暗雲の隙間から差し込んだ光が彼女の褐色肌と黒い魔石角を照らした。


「魔族に与せと? 世迷言を吐かすな。私は勇聖教会、七星一番『神力のラファエル・ラファン』。魔族と手を結ぶくらいならば、両の手を失ってでも魔族を殺すッ!!!」

ラファエルはフィリアルの言葉に反して、その両手を空に掲げた。

「我を守護しキリア神よ。我にその御力を貸し給え。」

黄金の魔素が掲げたラファエルの両手に集まる。フィリアルは悲しげな表情でただ黄金の集約を見ていた。

「神の御力は黄金を純黒へと塗り替え、世の全てをその御身へと抱き締める。」

集約された黄金が純黒へと変貌し、それは一点に集約された。傍観しているフィリアルに対して、ラファエルは唄うように詠唱を完了させた。

「―神力の特異点―。」

それは世の全てを吸い込む神の両腕。魔法を発現させたラファエルを除いた全てが純黒の一点に引き込まれる。大気、大地。大地に伏していた人族兵たち。彼らの叫び声すらも全てが黒点により無となった。


「はははははははっ!!! 魔王といえど、神の力の前にはやはり無力っ!!  はははははははっ!!!」

笑うラファエル。神の使いを自負する者。その両手は黒点に吸い込まれ無くなり、両腕の先から血肉と骨を露出させていた。それでも魔王の死亡を確信して、勇聖教会、七星一番ラファエル・ラファンは高笑いをする。


「残念だわ、アナタと友達になれなくて。」

魔王の言葉が世界に響いた。

「は?」

高笑った顔のまま、ラファエルは神の見せる幻想ではなく、魔王の顕す現実を見た。


「私は『魔王フィリアル』。魔で私を殺すことは不可能よ。」

ラファエルの引力による魔法を看破したフィリアルにとって、ラファエルの魔法はもうただの無だった。ラファエルの純黒を超えた漆黒がフィリアルを包んで、彼の存在をそこに確立させていた。魔素の質、量。その魔に関する全てにおいて、フィリアルがラファエルを凌駕していた。

「この世に神なんていないわ。さようなら、『ラファエル・ラファン』。」

そう言って、フィリアルが剣を振った。それだけで世界が裂け、ラファエルの上半身と下半身は離れ離れとなった。断末魔を上げることもできず、神の使いを自負する者は魔王のもとに斬り伏せられ殺された。

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