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第79話「 対 炎天 -決着-」

「…。」

美丈夫の敵、プラグマへ振り抜いた剣に確かな手応えをクロエは感じた。最も強力な技の一つ『燎爛一閃』、敵はその灰になった。クロエは剣を鞘に収め、兜の中で初めて無表情以外の表情、安堵の表情をする。振り返り、プラグマが自らの炎に包まれ焼かれているのを確認する。クロエは勝利を確信した。

「っ!?」

勝利を確信したクロエの体を突然の冷気が襲った。戦場の最前線に眼を向けると、そこでは燃え盛っていたはずの炎が凍らされ、炎天の魔法も破壊されていた。バルトルトの魔法とハンネローレの魔法が炎天を凍らせたのだった。


「…。」

無表情に戻ったクロエ。最前線に急行するべく、体に赤色魔素を激らせる。その時だった。

「僕を置いてどこへ行く?」

背後から禍々しいほどに美しい男声が響いた。振り返るとそこには、服を炎で焦がし、肌を露出させ、傷から滴る自身の血で赤く染まったプラグマがいた。その姿はまるで悪魔のようだった。


「僕が単なる青色魔術の使い手だと思ったら大間違いだ。僕の名は『プラグマ・キシュルネライト』。魔王軍序列一位、四天王最強。魔王に永遠を誓う男だ。貴様に殺される程度の男ではない。」

プラグマの傷が黄色の光に包まれると、クロエが与えた致命傷が塞がっていく。プラグマは魔族の中で最も魔術に秀でている。回復魔術においてもそれは変わらない。千切れ飛び出し焼かれていたプラグマの全身が元に戻っていった。服、肌に残った血液のみがプラグマが傷付けられた事実を証明していた。


「…ならばもう一度殺すまで。」

剣を抜刀し、再びクロエはプラグマと正対する。

「もう一度など存在しない…。」

プラグマが青色魔素を練る。ハンネローレの冷気が立ち込める今、状況的有利はプラグマにあった。

「冷気元なる千を流す万水。水滴石穿なら水斬山壊なり。」

白色の冷気を青色の水分に変換する。プラグマの掲げる魔杖の上に膨大な量の流水が渦巻く。

「千斬万水。」

水刃の大瀑布が幾千万とクロエに降り注ぐ。水刃の雨は空を斬り裂きながら降り、地につけば土を抉る。死を降らせる雨に佇む女騎士が1人。降り始めは無傷だったが、降り頻る雨の中、ついに肌に裂傷が走り、血が服に滲んでいく。


「神炎。」

雨に血を混じらせ、空から赤を降らせていたクロエが力強く呟く。その魔法はクロエの最大火力。自らの血さえも赤色魔素に変えて、神の炎を自らの身体に顕現させた。降り止まない水刃の豪雨の中、煌々と1人の炎が猛る。その神の炎は爆発するように空に広がり、降っていた雨を一瞬で蒸発させた。

「次の一刀で貴様を殺す。」

剣にも神炎を纏わせ、爆炎、灼炎、劫炎、極炎を靡かせ、クロエはプラグマに超高速接近する。クロエの掲げる神の炎剣は空に一筋の炎の線を描いていた。


「言ったはずだ。もう一度はない、と。」

向かってくるクロエではなく、天に向けてプラグマは魔杖を掲げた。魔杖の先で極彩色の魔素が発現する。そして極彩色は混ざり合いプラグマが永遠を誓う魔王の纏う黒となった。

「天漂う水蒸、天覆う黒雲と成る。火炎に焦がされし乾天に迸るは雷霆。」

「まさか…!?」

プラグマに急接近していたクロエは天を仰ぐ。蒸発した水蒸気が厚い雷雲を作り、炎により乾いた空気へ今まさに雷撃が降ろうとしていた。

(ここまでの攻防はこのための布石…!?)

驚きながらも、剣に纏わせていた神炎を自らの身体に戻し、クロエは防御の体勢をとる。


「黒天ノ霹靂。」

魔詞と共に、プラグマの魔杖から放たれた一筋の黄色魔素が黒雲に繋がる。その瞬間、漆黒の電撃が閃いた。

「―っ。」

黒雷がクロエを貫いた。叫びすらも追い越す速度で電撃が走る。

「冥土の土産に教えよう、雷は炎以上の熱を持つ。…もう聴こえていないか。」

魔王軍四天王一位『プラグマ・キシュルネライト』が勇聖教会七星『炎天のクロエ・クローズ』を殺した。雷に命を焼かれ黒く焦げたクロエの死体が、ゆっくりと空から地へと落下する。その光景をプラグマは髪をかき上げながら、無味乾燥に眺めた。

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