第77話「魔王 対 神力」
「そろそろ限界だろう魔王。『堕ちろ』。」
魔族たちが劣勢に陥っている間、フィリアルはラファエルの魔法に拘束され続けていた。
「ぐはっ…。」
フィリアルの魔素はラファエルの正体不明の魔法を相殺するために、その半分超を費やしてしまっていた。自身の判断を悔やみながら、フィリアルは空から地面へと落ちる。
「なんだこいつ!?」
「おわっ!?」
「急に魔族が落ちてきたぞ!?」
周りにはアドナロ王国の兵たち、突然降ってきた魔族に困惑する。フィリアルは空から地面に叩き落とされ、膝をついて動くことができない。
「ソレは我らがキリア神様の敵、すなわち人族の敵。魔族の王だ。皆のもの、ソレに粛清を与えよ。」
困惑する兵たちにラファエルが導きを示した。一瞬の静寂を貸して、人族たちが魔素を練り始める。
「死ねえ魔王!!」
「このクソ魔族がッ!!」
「キリア神様の冒涜者!!」
兵たちの魔術が地に伏したフィリアルを襲う。四方から恨みをぶつけられ、八方から殺意が飛んでくる。その一撃一撃は軽いものの、ラファエルの魔法に耐えるので精一杯のフィリアルの体力を着実に奪っていった。
(このままだと、まずい。なんとかして、アイツの魔法を看破しないと…。)
全身を痛めつけられながら、フィリアルはラファエルの魔法について思考を巡らす。自身にかかっている圧力は風によるものでも水によるものでもない。フィリアルの全く知らない何か。その何かを操ってラファエルはフィリアルを拘束していた。
「死ねえ!!」
「クソ魔族ッ!!」
「冒涜者!!」
フィリアルは人族兵たちの憎悪と暴力で思考を邪魔される。なんとしてでもここから抜け出し、あの魔法を打ち砕かなければならない。
「魔王よ、お前はこの世に生まれたことが間違いだったのだ。『潰れろ。』」
ラファエルがさらに追い討ちをかける。
「ぐぁあっ…。」
フィリアルの全身が軋む。
(私の解釈が及ばない謎の力。私の記憶を辿っても無意味。今この場で何が起こってるかを一から分析するしかないッ。)
痛みに耐えながら、フィリアルは大きく息を吸い、眼を見開く。自分の周りに蠢くラファエルの黄金の魔素の動きに集中する。
(押されるように動く魔素と、引っ張られるよう動く魔素が混在している…?)
ふと自分の腕を見ると、血の滴が傷から溢れた瞬間に、血の滴が何かに押されるようにして広がった。
(通常であれば、血は腕を伝って滴り堕ちるはず…。高いところにあるものは低いところに落ちる。それがこの世界の理。それに反する魔法? いや高いところにあるものは低いところに落ちるという解釈事態が間違っている?)
フィリアルの保有している魔素はもう三分の一を切った。残された時間はあと僅か。ラファエルと空の炎の魔法に勢い付けられたアドナロ王国兵たちの攻撃は時が進むごとに苛烈さを増す。
(固定観念を取っ払わないとダメ。アイツの魔素だけじゃなく、この世界に漂う全ての魔素を観る。)
眼に魔素を巡らせ、その視力を強化するフィリアル。普段は見えないほどの極小の魔素を観測する。そして向かってくる敵兵の魔術の魔素が、地面に向かって滴り堕ちるようになっているのを観て、フィリアルは気づいた。
「なるほど、そういうことね。」
フィリアルが立ち上がる。黒い髪が風で翻り、彼女の髪飾りのような黒い魔石角が漆黒に輝いた。一瞬前まで自身に掛かっていた圧力を全て無に返す。
「なっ!?」
ラファエルは驚愕する。自身の魔法を打ち破られた、それは彼の人生で初めてのことだった。
「ま、魔王が立ち上がったぞ!!」
「もっと魔術を放てぇ!!」
『―の魔術』
立ち上がったフィリアルに向かって、アドナロ王国兵たちは魔術を撃つ。しかしそれらの魔術がフィリアルに到達することはなかった。
「『堕ちろ。』」
ラファエルがしていた端的な詠唱をフィリアルも口にする。すると無数の魔術は何かに引っ張られるようにして、地面に落下した。
「何が起きて…。」
兵たちが驚きの言葉を発する前にフィリアルが空に手を掲げ、それをそのまま振り下ろす。
「『跪け。』」
フィリアルがまた詠唱する。
「ぐあああ!!!」
「うっ…。」
「おえええ…。」
周囲の兵たちが地面に膝をつく。自身らにかかる謎の圧力に人族たちは平伏すのみ。圧力に全身を潰されないよう、魔素強化を体に施すことが精一杯だった。
「流石、魔王と言ったところか…。」
冷や汗を垂らしながら、上空にいたラファエルは地に降りて、フィリアルと向かい合う。
「ええ、私は魔族の王。『魔王』フィリアル。こんなところで倒れている暇はないの。死にたくないのなら逃げなさい。今から全力であなたを殺しにかかるわ。」
黒翼を発現させ、片手で漆黒の剣を抜刀し、それをラファエルに向けて、フィリアルは宣言した。
「ならばこちらは勇聖教会・七星一番『ラファエル・ラファン』だ。キリア神様に変わって魔の王、貴様をここで地に還す!!!」
ラファエルも名乗り、この戦場における人族最強と魔族最強が再び衝突する。




