第74話「焼死へ」
魔王軍とアドナロ王国軍がぶつかり合う最前線。バルトルトは七星のドミニクと激戦を繰り広げていた。しかし空が燃え始めると、ドミニクは最前線から後退し、土壁を作り火から自身のみを守ることを最優先とした。空の様子に気づいていないバルトルトはその行動に驚き、一度、自らの動きを止める。
「バルトルトさん!! 上ですっ!!」
ハンネローレがバルトルトのもとへ来て、空を指差す。
「ハンネローレ殿!! 上?」
バルトルトが眼を上に向ける。そこには燃え盛る空があった。そしてその炎はバルトルトたちの方、魔王軍の方へ降りてきていた。
「これは…。」
未だ見たこともない規模の魔法にバルトルトは言葉を失う。
「空が燃えてるぞ!?」
「み、みんな逃げろぉー!!」
「なんだよ、あれ…。」
魔族兵たちは突如燃えた空に動揺し、兵の動きが乱れる。無理もない。その場に留まっていたら、死は免れ
「ハンネローレ殿、アレを止めることは可能ですか?」
「わ、私では時間稼ぎが精一杯です。数多くの死体の血肉を利用して赤色魔素を途轍もないほど集めています。フィリアルちゃん、もしくはプラグマさんなら…。」
既にハンネローレは敵軍に対して発現させていた魔法を止めて、空を燃やす魔法を迎撃するべく白色魔素を身体から溢れさせる。口から吐く息は白くなっていた。
「なるほど。小生は変わらずハンネローレ殿を御守りいたします。敵は命をも投げ出す覚悟のようだ…。」
ハンネローレの前に立ち、斧槍を構えるバルトルト。2人の前方には、先ほどまで威勢をなくしていた人族兵たちが向かってきていた。
「今だあああ!!!」
「行くぞー!! 我々にはキリア神様の加護がついている!!」
「うおおお!! 悪魔どもを、魔族どもを殺せえええ!!!」
空が燃えているというのにも関わらず、人族たちは自身らの命を顧みていなかった。
「ヌゥンッ!!!」
迫り来る人族兵を、バルトルトは斧槍を一振りして吹き飛ばす。
「怯むな!! 進めえええ!!!」
『うおおお!!!』
しかし人族たちの足と勢いは止まらない。
「くっ、流石に敵が多い…。」
鋼の硬さを持つバルトルトも多勢に無勢。少しずつ前線が下がっていく。他の魔族兵は燃え盛る空に怯え、前線から皆逃げてしまっていた。
「地覆う雪、激る冷気、我が白き魔素を辿り銀界を顕現し、天に再び静寂と冷寂を与えよ―」
バルトルトが敵兵を全て相手取る間にハンネローレが魔詞を唱えきり、彼女の掌に凍てつく魔素が練られた。
「零度なる氷絶界。」
ハンネローレの手から生み出された氷世界が天の炎と拮抗する。しかし以前フィラウディアと戦った場所である寒い高山とは違い、周りは血と肉の赤色に覆われる戦場。
「くっ…。圧倒的力不足ですね…。」
先ほどまでハンネローレ自身が地面に発現させていた魔法の残骸を利用するも、その威力は空を燃やす魔法に対してあまりに弱い。彼女自身が言ったように、冷気を放つ魔法は時間稼ぎにしかならなかった。次第にバルトルトとハンネローレは次第に肌を直接焼かれる感覚を覚え始める。
「押せえええ!!!」
「行けるぞ、銀髪の男を殺せるぞ!!」
「うおおお!!!」
人族たちも肌を焼かれている。しかしその熱を自身らの熱気に変えて、人族たちはバルトルトに襲いかかる。数瞬の間に、バルトルトとハンネローレは敵兵に囲まれた。
「ヌァアアッ!!」
傷を負いながら、バルトルトは全方位から迫る殺意を捌いていく。
「ハンネローレ殿には指一本触れさせんッ!!!」
愛する人を守る。戦争の結果などもうバルトルトの頭にはない。ハンネローレを想う気持ちだけがバルトルトを突き動かしていた。しかし気持ちだけでは生き残ることは不可能。ハンネローレとバルトルトは戦場の最前線にて孤立し、死へと着々と近づいていた。




