第68話「燃える空」
俺の名前はイサマク・イステル、魔王軍序列二十二位の二十五歳、独身貴族だ。イステル家は魔王城から西に行った領土を持つ中堅貴族。メルクル家との決闘に負けてから、逆に俺は出世した。今も小隊の隊長としてイザークさん、レオンと共に、アドナロ王国近衛隊を相手取っている。
「「ハアッ!!!」」
「くっ。」
一糸乱れぬ、近衛隊の連携に俺たちは手こずる。
「イサマクさん、危ないっ!!!」
2人の敵の攻撃を凌いだと思ったら、眼の前に魔術が飛んできていた。
「助かった!!!」
レオンの転移魔術によって俺は助けられた。これで3回目。イザークさんは敵の近衛隊長と一騎討ちをしている。俺は自分の力が若干この戦いに追いついていないことを悟る。
「だからって、逃げるわけには行かねえよなァ!!! 魔術・焔嵐の迅矢っ!!!」
俺史上渾身の魔術を放った。
「「ぐっ。」」
よし、敵を一旦引かせた。イザークさんの援護に回ろう。レオンは近衛隊以外の敵兵をほぼ1人で相手取っている。これ以上彼女に負担はかけられない。
「オラァ!!! 近衛隊がなんぼのもんだァ!!!」
「くっ、ただのオッサンではなかったか!!!」
前方でイザークさんと敵隊長がやり合っている。様子を見るに互角。いや、イザークさんが少し押されてるか? 片腕から血が滴っていた。
「イザークさんっ!! 今行きます!!!」
「しょ、小隊長、あ、あれはなんすか…?」
声を駆けてきたのは、戦争前にも質問をしてきた新兵。
「今はそれどころじゃない!! お前も1人でも敵を多く…。」
新兵の眼線は空に向かっていた。俺もその眼線に引かれて空を見た。
空が燃えていた。戦いに夢中で気づかなかった。曇り、夜ほどに暗くなっていた空は、朝が訪れていたかのように明るくなっていた。
「なんだよ、アレ。」
アレがまさか魔法だっていうのか? 天候操作の魔法どころの話じゃないぞ!? よく見ると、何かが空に登っていき、薪をくべるようにして空の炎をさらに燃え上がらしていた。敵兵も空の異変に気づいたのか、動きを止めている。しかし空の炎は確実に魔王軍側へと押し寄せていた。
「冗談じゃねえぞ…。」
「おい!! イサマクっ!!」
俺が呆けていると、イザークさんが後退しながら俺の名を呼んだ。
「なんですか!!!」
「今から俺ができるだけ敵を引きつける。その間に軍全体をレオンの転移魔術で移動させろ!!!」
「な、そんなことできるんですか!?」
「俺の娘ならできるさ。なあ、レオン。」
振り返ると、後ろにレオンが立っていた。
「分からない。私のはまだ魔術だから、もし魔法にできたらなんとかなるかもしれないけど…。ていうかお父さんはどうするの? 1人残るなんて言わないよね?」
「はっ、俺もまだ死にたくねえからよ。すぐにそっち行くぜ。」
そこで眼を合わせていた2人は間違いなく父と娘だった。
「分かりました。俺の小隊でレオンを守ります。その間にレオンは最大級の転移魔術を作ってくれ。イザークさん、囮は任せました。」
力量的に囮としての役割を果たせそうなのはイザークさんしかいない。
「おうよ、頼んだぜ。」
「すぐ来てね。」
そうして、父と娘は反対方向に駆けていった。俺はレオンの方についていく。
「イサマク小隊っ!! レオンが転移魔術を用意する、死んでもレオンを守れ!!!」
『りょ、了解っ!!!』
俺たちの命を賭けた時間稼ぎが始まった。




