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第67話「 対 鳴動 」

 戦場の最前線。バルトルトは4人の近衛隊を1人で相手取っていた。

「ヌゥンッ!!!」

バルトルトが斧槍を振るう。

「くっ。」

一国の近衛隊隊長でも、バルトルトと剛腕を止めきれない。

「「「隊長っ!!」」」

魔王軍四天王の中で対人において無類の強さを発揮するバルトルトは近衛隊4人を押し込んでいた。


「オイッ!! 近衛隊の小童ら、ここはワシに任せいッ!!!!」

低く野太い声が響く。槍を片手に空中から現れ、地面に片膝をついて着地し、大地を震わしながら現れる豪傑。七星四番『鳴動のドミニク・オハナ』が最前線に駆けつけた。

「地の槍ッ。」

ドミニクが槍を地面に突き立て、黄素を解き放つ。すると地面が一本の槍状に隆起し、バルトルトを突き刺さんと差し迫った。


「硬化ッ。」

銀色の光を纏った斧槍をバルトルトが土の槍に振るう。伸びていた土の槍は銀の斧槍に触れると伸拡を止め、砕け散った。

「ホゥ…、やるな魔族の小童ッ!!!」

シワの刻まれた口角を上げて、ドミニクは笑う。


「ドミニク様、援護感謝します。」

「感謝など戦争が終わった後でいいわッ。お主らは右翼の転移魔術使いを仕留めに行けッ!!」

『承知しましたっ!!』

戦場に変化が訪れる。バルトルトとドミニクは一騎討ち。そして近衛隊は戦場をかき乱すレオンを討つべく動きを変えた。


(くっ。バルトルトさんの手助けができればいいのですが…。)

ハンネローレは敵陣に広げる広範囲の白色妨害魔法を制御することで手一杯。ドミニクに集中するあまり、戦場がアドナロ王国優勢になっては元も子もない。ハンネローレは前方で戦うバルトルトを眼にとどめておくほかなかった。

「ハンネローレ様!! 焦らないでください。俺たちがあなたを守りますんで!!!」

「そうです!! あんたの魔法がなくなったら、俺ら劣勢です!!」

「今まで後ろで何やってるんだと思ってたんですけど、めっちゃ助かります!!」

焦りが顔に現れるハンネローレに足して、兵たちがそれぞれ言葉を送った。

「分かりました…。」

兵たちの声で冷静になるハンネローレ。魔法を継続さるため、精神を集中する。


「地の剣ッ!!」

ドミニクが魔法を発現させる。幾本もの土の剣がバルトルトを襲う。

「硬化ッ!!」

土の槍と同じように、硬化魔法でバルトルトは土を固め、斧槍で破壊する。


「埒があかんなぁッ!!」

ドミニクは魔法を単発で打っても意味がないと確信し、魔素を練り始める。

「簡単に練られるとでも思ったか!!」

その隙をバルトルトが逃すわけがない。ドミニクに接近し、斧槍を振るう。

「ハッハッ!! 簡単に獲れるとでも思ったか!!」

片手で槍を振るい、バルトルトの斧槍をドミニクは受ける。そして片手で魔素を練り続けている。

「まだ、まだっ!!」

一度弾かれても、バルトルトは斧槍を何度も放つ。

「やるなあ、魔族の小童ッ!!」

重い武器同士がぶつかり、重低音が響く。槍は突く武器。振られることは想定されていない。しかしドミニクの筋骨隆々の体が扱うその槍は、バルトルトの振るう斧槍に折られず、弾き返していた。対人性能ならば、ドミニクも七星の中で最も高かった。


「さあ、準備完了だッ!!」

ドミニクの片手に黄素が集まり、黄土色の濃い光を放っている。

「大地の鳴動ッ!!!」

槍を両手にし、そのまま地面に突き刺す。そこから生まれるのは土の槍でも剣でもなかった。大地がそのままにして揺れた。

「ぐっ!!??」

いくら体を鍛えようとも、地面の揺れに適応できるほど強くはなれない。バルトルトが膝を地面につく。


「なんだこれはっ!!!」

「っ!??」

「うわああああ!!??」

突然の地震に魔王軍兵たちは混乱に陥った。

「今だっ!! 前線を上げろおおお!!!」

『ウオオオォォォー!!!!』

ここぞと、アドナロ王国軍が魔族軍兵へ襲いかかる。


「これはっ、まずいなっ!!」

バルトルトは斧槍を支えに立ち上がる。しかし眼前にドミニクが差し迫っていた。

「死ねいッ!!」

「くっ!!」

バルトルトはかろうじてドミニクの槍の点撃を防ぐ。地面が揺れているのは魔族たちの足元だけだった。途轍もない魔法制御。バルトルトは揺れ動く地面の上で、ドミニクの攻撃を捌くだけになった。

「どうしたッ!! これで終いか、魔族の小童ッ!!!」

「ぐっ!!!!」

バルトルトが歯を食いしばる。しかし遂に限界が来た。

「ハッ!!!」

「ぐはっ。」

斧槍を槍の間に滑り込ませ、直撃は避けたものの、バルトルトはドミニクから重い一撃をもらった。バルトルトの口に土と血の味が広がる。


「バルトルトさんっ!!!!」

不意に、ハンネローレの声がバルトルトの鼓膜に届いた。地面に伏しながらも、後方をバルトルトは確認する。鳴動する地面の上で、馬から振り落とされても、氷魔法を継続して保っているハンネローレの姿がバルトルトの瞳に映った。

(そうだ、小生は、破れるわけには、死ぬわけには、行かないッ!!!!)

斧槍を地面に突き刺し、バルトルトは立ち上がる。


「フンッ、これで今度こそ終いだッ!! 魔族の小童ッ!!!」

立ち上がったバルトルトにドミニクは槍を投擲する、高速の槍がバルトルトを刺し貫かんと迫る。

「硬化ッ!!」

「なぬっ!!??」

ドミニクの槍はバルトルトの体を確実に捉えていた。しかし刺し貫きはしなかった。金剛と同等に硬くなったバルトルトの身体が槍を弾いていた。

「小生は、『魔王軍四天王バルトルト・ヴェルガー』ッ!!! ただの小童ではないッ!!!!」

「絶・硬化ッ!!!」

バルトルトが叫ぶ。すると地面の鳴動が止まった。大地の揺れさえも、バルトルトは硬化させるに至ったのだった。


「ただの小童ではないようだなッ。ワシは七星四番、『鳴動のドミニク・オハナ』。小細工は止めとしよう、バルトルト・ヴェルガー。ド突き合いだァッ!!!!」

老兵の人族と若兵の魔族による一騎討ちが始まった。お互いの槍捌きも、魔法練度も互角。この2人の決着を決める要因は心意気のみ。槍と斧槍がぶつかる。何度も重低音と火花を散らしながら、魔素強化により膨れ上がった筋肉と筋肉が武器を振るいあう。


「ハッ!!」

「ヌゥン!!」

ドミニクの攻撃は地面のみならず、空気さえも揺らした。


「セェイッ!!!」

「ダァッ!!!」

バルトルトの攻撃は地面のみならず、空気さえも硬める。2人の一騎討ちに他の介入は許されなかった。


「ザァッ!!!!」

「デェイッ!!!!」

引き絞られた両者の筋肉から、豪速の槍が、豪力の斧槍が放たれる。

『ガギィィィィン!!!』

耳をつん裂くような鋼鉄と鋼鉄の音が響き渡る。


「ぬっ!?」

いきなり、ドミニクがバルトルトから強引に距離をとり、後退した。

「どうしたッ!! 怖気付いたかッ!!」

バルトルトが煽る。しかし、ドミニクはつまらなそうな表情をしながら、槍を地面に突き刺し、魔素を放った。

「すまんな、バルトルト・ヴェルガー。やりあっている暇はないようだ。」

「―地の壁。」

ドミニクが魔詞を唱える。するとドミニクの周囲に円形の土の防壁がそびえ立った。

「あのままやり合っていたら、ワシが負けていたじゃろうな…。」

防壁の中で、呟くドミニク。彼が見つめる自身の槍の刃は、刃こぼれでボロボロになっていた。


「なぜ逃げる!!」

叫ぶバルトルト。罠かもしれない。すぐに土の防壁に迫ることはできなかった。とりあえず、声をあげドミニクを煽り、バルトルトは周囲を見渡す。どこにも異変はない。

「バルトルトさん!! 上ですっ!!」

バルトルトの隣にハンネローレが駆けてきた。

「ハンネローレ殿っ!! 上?」

バルトルトが眼を上に向ける。そこには眼を疑う空があった。

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