第66話「 対 神風」
戦場の左翼。ここでも、新たな敵、いやゼベルトたちにとっては久しぶりに顔を合わす敵が現れた。
「よおォよおォ!! クソ魔族共ッ!! 俺様が殺しに来てやったぜェ!!!」
不敵な笑みを浮かべる緑髪の男。七星五番『神風のセザール・シュロン』。
「旋烈風の刃嵐ッ!!!」
『ぐわあああ!!!』
登場ざまに、上級魔術を放ち、数多くの魔王軍兵を斬り飛ばすセザール。
「また、懲りずに来たのですね、負け犬が。」
「破ッ!!」
現れたセザールをアニアが煽り、ゼベルトが斬りかかる。
「よおォよおォ!! ゲロクソ魔族2人ッ!! 会いたかったぜェ!!! 今日ここでテメエらをぶっ殺す!!!」
「やれるものならやってみろ、返り討ちにしてやる。」
ゼベルトとセザールの剣がぶつかる。
「ハッハッハァ!!! じゃあ、遠慮なくゥ、制裁の戒嵐!!!」
セザールが溜めも魔詞もなく、天候操作の魔法を発現させた。ゼベルト、アニア、セザールの周りに風の檻が吹き荒れ、3人を閉じ込めた。
「さあさあ、これで3人っきりだぜェ、楽しんで行こうやァ!!!」
セザールの剣がゼベルトを襲う。そして、空いた片手で魔法を放ち、アニアに風の刃を飛ばす。
「侵食の呪術。」
天候操作の魔法を打ち破れはしないものの、アニアの呪術がセザールの魔法を跡形もなく瓦解させる。前回の戦いでセザールはゼベルトに魔術を放っても意味のないことを学習している。魔法は確かめてはいなかったが、そちらに攻撃の手を割くよりも、アニアに魔法を集中させていた。
「ハッハァ!! テメエらも強くなってんだなァ、でも俺の方が強えぜェ!! 連風刃嵐ッ!!!」
セザールが連続するの刃嵐をアニアに飛ばす。
「侵食の呪術、凶嵐を瓦解せよ。」
流石のアニアもゼベルトへの加勢に進めた足を止めて、再度呪術で迎撃する。
「オラァ!!」
セザールの剣技は彼自身が言った通り、磨きがかかっていた。以前ゼベルトが龍の尾道で戦った際は、単にやりずらい不可思議な剣だったが、その不可思議さが残ったまま、実直な剣使いも可能となっていた。増えた手数がゼベルトを襲う。
「うっせえな、黙って戦えないのかオマエは。」
しかし、ゼベルトも強くなっている。不可思議な剣を遅れなく捌いていく。後の先、まだそれを完璧にモノにしているわけではないが、研ぎ澄まされた聴覚と先読みで、セザールを追い詰めていく。ゼベルトとアニア対セザールの戦いは全くの互角だった。
「嬲り殺してェところなんだけどよォ、ラファエルに急げって言われてるもんでなァ!! 緑素ォ:暴れ狂う風ッ!!」
セザールが手のひらに緑素を練り始め、それがセザールの全身に激る。
「威風堂々ッ!!!!」
セザールの身体が深緑の荒れ狂う風に包まれた。
「オラァッ!!!」
「ぐっ。」
初めて、セザールの剣撃がゼベルトの体を掠めた。
「ゼベルト様っ!!」
アニアが援護に急ぐ。
「そちらが全力というのなら、こちらも全力で行きましょう。」
アニアが血刀に呪素を溜める。
「憑依の呪術―二代目当主アウレール・メルクル―敬愛なる祖よ、我に宿り、力を貸し給え。」
アニアの少女らしく可愛らしかった赤い瞳は吊り上がり、表情が険しくなる。姿勢も貴族騎士のそれに変わる。洗練された足取りから、セザールに剣撃を放つ。
「破ッ!!」
「いいなァ!! 楽しくなってきたぜェ!!!」
威風を纏ったセザールの剣と祖を降ろしたアニアの刃がぶつかり合う。その隙に、ゼベルトは剣撃が掠め崩れた体勢を立て直す。
「「破っ!!」」
完璧に重なった剣撃をアニアとゼベルトは振るう。
「シィッ!!」
蛇のような声を上げて、セザールはそれを迎撃する。纏った風はセザールを守り、そして攻撃に鋭さを加える。一瞬のうちにゼベルトとアニア、セザールは幾重も剣撃を交差させる。戦場に、命を取り合う武器による音楽が鳴り響く。
「オラァァァ!!!」
セザールが吠えた。威風を纏った剣撃を暴力的に薙ぎ払う。一歩、ゼベルトとアニアが押される。
(ゼベルト様、このままだと、私たちが劣勢です。契縛の呪術の使用許可をください!!)
(ダメだ!! まだ余力はある。その時には速いッ!!)
押されていることを自覚しながらも、ゼベルトとアニアは次の一手を放たないでいた。
「オイオイ!! このままだとテメエら俺様にぶっ殺されちまうぞォ!!!」
セザールが踏み込み、威風を纏う剣を振るう。また一歩、ゼベルトとアニアが押された。
「風刃ッ!!」
できた隙を利用し、さらにセザールはゼベルトに魔法を放った。
「っ!!」
ゼベルトはその魔法を迎撃せざるを得ない。魔喰らいの剣を振り、魔法から魔素を霧散させ防御する。
「なるほどなァ、魔法は体じゃ無理なんだなァ!!!」
不敵な笑みで、セザールはさらに顔を歪ませる。ゼベルトを剣撃だけではなく、魔法も襲うようになり、ゼベルトとアニアの攻め手がさらに少なくなった。さらにまた一歩、ゼベルトとアニアが押された。
「ゼベルト様!! このままではっ!!」
「チッ。」
舌打ちをするゼベルト。意を決しようとしたその時、ゼベルトの耳に聞き慣れた低い声が届いた。
「極炎。」
片角の折れた老兵魔族が極級の炎と共に現れた。ヴェンデルが嵐の檻を炎で破り、3人の戦場へ乱入する。
「なんだァ!? このジジイはァ!! 邪魔すんな殺すぞ!! 威風ッ!!!!」
乱入者にセザールは極級の凶風を迸らせる。
「覚えておけ、小僧。風に煽られた炎はより猛る。」
ヴェンデルは眼前に迸る威風に怯みもしない。
「炎魔。」
ヴェンデルの身体が悪魔の炎を纏う。手に持った剣すら燃やし溶かすほどの熱。文字通り身を焦がしながら、ヴェンデルは同じように威風を纏ったセザールに直進していく。
「破ァッ!!!!」
「げはァっ!!!!」
炎を纏ったヴェンデルの掌打がセザールの腹を貫いた。
決着ついたと思われたが、セザールは倒れなかった。二つの足で地面を踏みしめ、血を吐きながら、ヴェンデルを睨みつけ、全身の風を激らせ、再度魔素を練る。
「ざァっけやがって、このクソジジイがァ!!!」
セザールの両手から、螺旋状に吹き荒れる風が生み出される。その風の勢いと鋭さは威風を超えていた。
「神風ッ!!!!!」
「がっ…。」
セザール最大の魔法がヴェンデルの身体を襲う。自身の炎で身を焦がし、風で全身を斬られながら、ヴェンデルは吹き飛んだ。
「ヴェンデルっ!? っ、侵食の呪術ッ!!!!」
アニアが吹き飛ぶヴェンデルの体に呪術を当て、魔法の威力を抑える。速度を失い、宙に舞うヴェンデルの体をアニアが抱き止めた。
「次はテメエの番だァ!!!」
怒りと勢いそのまま、セザールはゼベルトに斬りかかる。
「くっ。」
ゼベルトは顔を歪ませ、勢いの強まった風を纏うセザールの剣をかろうじて防いだ。
「その剣なきゃ、魔法は受けられねェよなァ!!! 神風ッ!!!!!」
この時をゼベルトは待っていた。襲いかかる神風に左手の籠手を合わせる。神風が霧散した。
「破ァッ!!!!!」
ヴェンデルと同じように声を上げて、ゼベルトは魔喰らいの剣でセザールの首を斬り飛ばした。
「…ッ!!!!????」
鮮血が飛び散る。そして風と嵐が止んだ。『七星五番:神風のセザール・シュロン』は『魔王軍メルクル家:騎士ゼベルト』の剣によって命を斬り伏せられた。




