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第65話「開戦」

 俺の名前はイサマク・イステル、魔王軍序列二十二位の十五歳。イステル家は魔王城から西に行った領土を持つ中堅貴族。メルクル家との決闘に負けてから、逆に俺は出世した。今もアドナロ王国軍を前に、小隊の隊長となって、戦場で開戦の合図を待っている。

「イサマクさん、ちょっと質問があるんすけど…。」

1人の新兵が話しかけてきた。敵軍を前にして、質問とは随分余裕だな。まあ、緊張でガチガチよりはマシか。

「なんだ、質問って。」

「いや、本当に単純なことなんすけど、なんで俺ら雑兵同士がやり合わないといけないんすか?」

茶化しているわけではなく、目の前の新兵は本当に疑問に思っているらしかった。

「まあ、魔王様や四天王たちが本気を出せば、俺らみたいな雑兵は吹き飛ぶだろうな。10,000集まったってきっと勝てないだろうな。」

「そうっすよね。」

「ただ、10,000もいれば、魔王様も四天王たちも無傷じゃいられないだろうな。それに10,000も吹き飛ばすとなれば、相応の魔素消費を強制できる。」

「塵も積もれば、ってことっすね。」

「ああ、そう言うことだ。それに弱い兵が敵の強い兵の力を削ぐことに意味がある。力の減った敵の強い駒に、こっちの強い駒を当てれば随分楽に勝てるようになる。」

だからこそ、俺たちは雑兵として雑兵と戦い合う。無駄に強い駒を消費させる道理はない。

「なるほど、わかったっす。」

「そろそろ始まる。持ち場についとけ。」

「うっす。」

そう言って新兵は持ち場に戻っていく。


 そう、今から始まるのは雑兵の小競り合い。命を火花のように散らす前哨戦。ただ魔王軍は攻める側。強い駒を多少消耗してでも、攻めなければならない。頑張れ、俺。死ぬな、俺。まだ結婚もしてねえんだ。

『ウオオオォォォー!!!!』

前方から雄叫びが聞こえてきた。魔王軍対アドナロ王国の戦争が始まる。



戦場の上空を火の矢と岩の弾が飛ぶ。アドナロ王国軍が放ったそれらは無慈悲に魔王軍の頭上へ降り注いでいく。しかしそれらが魔王軍兵の命を奪いはしなかった。

「いーらないっ、てね!!」

「侵食の呪術。」

魔王軍の左翼ではレオンが魔術を跳ね返し、右翼ではアニアが魔術を瓦解させた。


 アドナロ王国軍の出鼻は挫かれた。バルトルトが先頭を走り、その後ろを馬に乗ったハンネローレが追いかける。そしてそのまた後ろを一般兵たちが続く。

「霜踏みの氷縛 -零度なる雪原-」

そしてハンネローレが広範囲の魔法を放った。それは敵の身体の自由を奪う、足元から敵を縛る氷の鎖。


「なんだこれは!」

「か、体が重い!」

「お、落ち着け、炎系統の魔術で相殺…」

アドナロ王国兵たちの脚が止まる。魔術で相殺しようとするが、その予備動作を魔王軍が待つはずなかった。


「小生に続けえええ!!!」

『ウオオオォォォー!!!!』

バルトルトを先頭にして、魔王軍兵が前線を強引に上げていく。固まったアドナロ王国の兵に、魔王軍の魔族が剣を振るい、命を奪っていく。戦場に多量の赤い液体が迸り、悲鳴が轟く。


「ヌゥン!!」

「「「ぐわあああ!!!」」」

バルトルトが斧槍を振るうと、敵兵が3人、周りを巻き込んで吹き飛んでいく。

「進めええええ!!」

『ウオオオォォォー!!!!』

戦争の始まり、魔王軍が優勢。


「いいねえ、この調子で行こう!!!」

レオンは戦場のあらゆるところへ顔を出し、敵の魔術を跳ね返す。戦場をかき乱しているのは間違いなく、彼女だった。

「いいぜえ、レオン!! 流石だ、オッサンも頑張らねえとなぁ!!」

イザークも軍の左翼にて、魔術と剣術を駆使し、敵兵を討っていく。


「服従の呪術、骸たちよ、我に従え。」

軍の右翼。アドナロ王国兵が多い場だったが、アニアの呪術がその数的優位さえも崩す。倒れた人族の亡骸を操り、兵としていく。

(アニアが味方で良かった。)

ゼベルトは心の中で改めて思いながら、敵兵を斬り刻んでいく。

「ぐっ。」

「づはっ。」

「や、やめっ!!」

敵の戦闘意欲など気にしている暇はない。無慈悲に無感情に、ゼベルトは剣を振っていく。友達になる。今は不可能なことだ。フィリアルと目指すのは、先の未来で人族と魔族が友達になること。そのための礎として、この戦争には勝たなければならない。


「さあ、このままだと圧勝だぞ、アドナロ王国。」

「圧勝。いい響きですね、ゼベルト様。」

ゼベルトの隣にアニアがやってきた。2人の連携が敵兵を蹴散らす。呪術で敵の動きを絡め取り、ゼベルトが丁寧にそして効率的に屠っていく。2人で半年以上、魔族狩りを狩ってきた。その連携の練度は完璧だった。

「ぐわあぁ。」

「あ、あくまだ…。」

「もうだめだっ!!」

2人を止められるものは今、戦場にいない。ゼベルトとアニアの通る場所に死体が積み上がり倒れていく。

「奴らを止めろお!!!」

「「「「魔術・焔の迅矢ッ!!!」」」

アドナロ王国兵も黙って見ているわけではない。上級魔術を三つ重ねて、ゼベルトとアニアに放つ。


「ここは私にお任せを。」

2人の背後に1人の老兵が現れる。

「豪炎。」

ヴェンデル。彼の魔術が火の矢を飲み込み、そのままその魔術を放った者たちのところへ、襲い掛かる。その轟々と炊ける炎は悲鳴さえも燃やし尽くした。


「ありがとうございます。」

「ありがとう、ヴェンデル。」

「いえいえ、礼には及びません。2人の歩みを邪魔するモノがありましたら、私が排除しますので、存分に2人での戦闘をお楽しみください。」

ヴェンデルには冗談を言う余裕すらあった。

「そうさせてもらいます。」

「嗚呼、ゼベルト様と2人きり!!」

戦場でも戦争でもいつも通りのアニアと共に、またゼベルトは敵陣へ斬り込んでいく。最前線のバルトルト、ハンネローレ。左翼のレオン、イザーク。右翼のゼベルト、アニア、ヴェンデル。彼らの強さは波の兵で止まるものではなかった。魔王軍は前線を勢いのままに上げていった。



「ニャハハ〜、いい感じだねえ。」

「ああ、このままいけばいいけれど、そうはいかないだろうね。」

「ええ、きっと勇聖教会が出てくるわ。」

拠点にて、ヴェルニャとプラグマ、フィリアルは待機している。戦争の後半で出現するである強敵に備えていた。戦場は火と岩の魔術が飛び交い、戦う者たちの血と肉塊が飛び散っていた。その残酷な命の取り合いを憂うるように、空には濃い雲がかかり、昼だというのに夜のような暗闇が戦場を包んでいた。



 戦場の最前線。ハンネローレの氷魔法により、敵の動きは鈍り魔王軍が快進を続けている。

「ヌゥンッ!! ハァッ!!!」

先頭のバルトルトの斧槍が敵を変わらず蹴散らしていく。まさに一騎当千。

「よし、このままバルトルトさんに続くぞぉ!!」

「うおおおお!!!」

「行くぞおお!!!」

最前線の魔王軍の士気は高い。ただ、この現状をアドナロ王国軍が黙って見ているわけがなかった。


「王国軍よ!! 我らアドナロ王国近衛隊が来た!! 反撃の時だ!!! 再度剣を取り、立ち上がれ!!!!」

『ウオオオォォォ!!!!』

アドナロ王国の近衛隊が最前線に登場した。彼らは体に赤素を激らせ、ハンネローレの氷魔法を相殺している。バルトルトは現れた敵兵が只者ではないことを理解する。

「奴らは小生に任せろ!!! 魔王軍、変わらず進めえええ!!!」

『ウオオオォォォ!!!!』

士気の好調した両軍がぶつかる。


「あの大男を殺るぞ!! 近衛隊ッ!!」

「「「オウ!!!」」」

近衛隊がバルトルトに襲いかかる。四方をバルトルトは囲まれ、八方から命を斬る剣が振りかざされた。

「ハァッ!!!」

『なっ!!??』

しかし、剣はバルトルトの体を引き裂かない。硬化魔法。鋼よりも硬い、銀色に光るバルトルトの肉体は剣を弾き返した。そして、バルトルトが斧槍を振り回す。

「ヌゥンッ!!!」

『ぐっ!!』

硬化した斧槍は敵を斬りはしないものの、鈍痛を響かせ、敵を弾き飛ばした。

「小生の名はバルトルト・ヴェルガー!!! かかってこい、アドナロ王国近衛隊。」

斧槍を正中に構え、地面に突き立て、バルトルトは名乗りを挙げた。彼の二本の魔石角は彼の存在を強く主張するように、銀色に光り輝き、そびえていた。

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