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第5話「家族」

 フランツが村に住むようになってから、3年ほど経った。村は順調に大きくなり、以前より魔族も少し増えた。フィリアルは可憐な少女から女性へと成長し、ゼベルトも背が伸び、もう青年と呼ばれる頃だった。

「なんか久しぶりだね、こうやって二人で薪を拾うのも。」

「そうね。フランツ兄さんと会ったのも、この辺りだったかしら。」

幼い時に背負っていた倍以上の薪を拾い、二人は森を歩いていく。

「街ではどんな感じ?」

「そんなに変わらないわ、この村と。魔族とお店は多いけれど。」

あれからフィリアルは、熊型魔獣を真正面から狩るほど強くなり、今では近くの街の兵士団で戦闘訓練を受けるようになっていた。

「そういえば、エリザベトさんの体調はどうなの?」

エリザベトは1年ほど前から病にかかっていた。

「いい調子とはいえないかな。でもきっと治るよ。」

「そうね、もし必要なものがあったら言って、街で買ってくるから。」

血は繋がっていなくても、エリザベトはフィリアルにとっての母だった。


「そういえば! 魔術も教わったわ。ゼベルトはなんで魔素が色で分けられてるか知ってる?」

暗い話を断ち切るように、フィリアルがゼベルトに問題を出した。

「え、何でだろう。僕魔術使えないから分かんないや…。」

「もう、すぐそうやって自分を卑下するんだから。ゼベルトは魔術使えなくても魔術が効かないでしょ。それは強い武器になるのよ。」

「そっか、ありがとう。」

「どういたしまして。」

フィリアルはいつも前向きでゼベルトはそんな彼女の明るさが大好きだった。『自分は戦うほど強くないよ』思ったが、フィリアルに今さっき言われたから卑下するのはやめた。


「えっと何の話だっけ。そうそう、魔素の色の話。

 『昔、世界には白と黒しかありませんでした。そんなとき、キリア神様が現れて炎や血には赤、水や空には青って具合に色を塗りました。その色には魔素が混ぜてあったので魔素は色で分けられるようになりました。』ってね。」

「へえ~、そうなんだ。なんでキリア神様は色を塗ったんだろうね。」

ゼベルトは思いつきの疑問を口にした。

「きっと世界が色に溢れてた方が楽しいからよ。私たち魔族だって肌の色も、髪の色も、魔石角の色も、みんな違って楽しいじゃない。」

「確かに。」

やっぱりフィリアルの明るさが好きだと思うゼベルト。

「だからね、やっぱり私は魔族も人族も友達になれると思うの。容姿が違うだけ、得意なのが魔術と技術っていう違いだけ。それで殺し合いをするなんてちゃんちゃらおかしいわ。神話のせいで争ってるって街では教わったけど、殺し合いに繋がる神話なんて忘れちゃった方がいいに決まってると思わない?」

フィリアルがいつも通りの考えを言った。その数秒後ハッとした様子で、珍しくフィリアルが苦しそうな表情を見せた。


「…この前、人を殺したわ。」

ポツリとフィリアルが言葉をこぼす。

「そっか。」

ゼベルトは少し眉をひそめ、ただ返事を返す。

「人族も、魔族も、両方。結託して街を襲う計画を立てていた連中を殺したわ。」

「そうなんだ。」

ゼベルトは、また返事を返すのみ、彼女が話すことをただ受けとめたかった。

「友達になるどころじゃなかったわ…。」

フィリアルが珍しく落ち込んでいると、気づくゼベルト。

「そのときはダメだったかもしれないけど、フィリアルならできると、僕は思うよ。」

ゼベルトの前を歩いていたフィリアルが振り返る。日光が彼女の顔を照らす。

「当然よ。実際、みんな弱っちかったもの。世界平和はまだ遠いけど、悪い奴全員ぶっ飛ばして友達にしてやるんだから。」

いつも通り、腰に両手を当ててフィリアルは宣言した。

「うん、応援してるよ。」

元気な顔のフィリアルを見て、ゼベルトは笑顔になる。


「そうだ、ゼベルトはどうなの?『みんな友達になる曲』できた?」

あの日の約束を二人は叶えようとしていた。

「うーん、まだかなあ。やっぱり難しいんだよね。」

音楽家の母に習って、ゼベルトは作曲に勤しんでいた。ただ一つ問題があった。

「途中から自分で作曲してて、よくわからなくなっちゃうんだよね。」

「どういうこと?」

十分に薪を拾った二人は、森の道を帰りながら話す。

「うーん、誰のために作ってるんだろうっていうか、何というか。」

フィリアルにまじまじと見つめられ、少し顔を赤らめるゼベルト、頭をかいて誤魔化す。

「私、そういう難しい話はよくわかんないわ。でもゼベルトならできるはずよ。」

真剣な眼差しでゼベルトを見つめるフィリアル、彼女は二人の約束に夢中だった。

「…うん、ありがとう。」

歩く二人に秋風が吹く。

「寒くなってきたわね。」

「うん、冬の準備しなきゃね。」

厳しい冬の接近を感じながら、二人は帰宅した。


 その日の夜、ゼベルトはフィリアル、エリザベト、フランツの四人で食卓を囲んでいた。

「フランツ兄さん、おかわりもらえますか?」

「もちろん、はいフィリアル。」

あれから、フランツは自分の家を持ったが、ゼベルト家でよく料理をする。そして自分を救ってくれた恩返しにと、エリザベトの看病をしている。

「フィリアルがいると賑やかでいいね、母さん。」

「そうね、私も元気になれるわ。」

そういうエリザベトのスープはあまり減っていなかった。どんどんと食が細くなっていた。

「そうだ、エリザベトさん。私、街で果物買ってきたの、後で食べよう?。」

「ええ、ありがとう。」

咳をしながら感謝を述べるエリザベト。ゼベルトが言っていたように、彼女の体調は良くない。

「果物、僕が切ってきますね。」

フランツが食卓から離れ、台所へ果物を用意しに行った。


「ゼベルト、あなたも街に行ってフィリアルと暮らしてもいいのよ。」

いきなり、エリザベトがか細い声で提案した。

「…母さん、僕は母さんと一緒にいるよ。フィリアルも定期的に帰ってきてくれるし、寂しくなんかないよ。」

「そうよ、エリザベトさん。ゼベルトも立派な男なんだから。私がいなくたって大丈夫だわ。」

エリザベトは苦笑いをする。

「あら、そういう意味で言ったんじゃないのよ。」

フィリアルはそれでも頭に疑問符を浮かべる。

「母さん! この通り大丈夫だから。ほらみんなで食べようよ。」

運ばれてきた果物を食卓に置き、ゼベルトは遮った。

「何の話してたんですか?」

果物を取られたフランツも面白がって話に入る。

「そうね~。」

エリザベトが微笑む。

「ちょっと、フランツ兄さんまで。」

ゼベルトは恥ずかしく思いながら、こうやって四人で話すことに、喜びを感じていた。世界なんてどうでもいいから、これからも自分達が幸せであることを、ゼベルトは願った。夜が更けていくなか、1つの家族の笑い声が響いていた。


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