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第52話「歓迎会」

 ゼベルトたちが魔王城に帰ってきた日の夜。魔王城内で最も豪勢な部屋に魔王、龍人、序列上位者たちが集まっていた。主役のフィラウディアとフィリアル。プラグマ、ヴェルニャ、ハンネローレ、アニア、ゼベルト。魔王城で待機していたバルトルト、レオン、イザーク、ヴェンデルも呼ばれている。


長い机の上には豪勢な食事と酒が並べられている。フィラウディアはそれらの料理に眼を輝かせながら、机の中心に座っている。左にフィリアル、右にヴェルニャで、可憐な少女の龍人が、美麗な魔王と獣族と魔族の間の子に挟まれている。そしてその周りをまた魔族たちが囲んだ、神話絵画のような光景。


「恥ずかしながら、小生が乾杯の音頭を足らせていただきます。」

そう言って、バルトルトがグラスを手にして立ち上がる。誰もそれを咎める者はいない。むしろ乾杯が待ちきれないと顔に表していた。

「龍人フィラウディアと魔王フィリアル様の友情を祝して、乾杯!」

『乾杯っ!』

魔族たちと龍人の宴が始まった。


「ニャハハ〜、いっぱい食べるぞ〜、フィラウディア.」

「うん。」

そう言ってヴェルニャとフィラウディアが料理を手当たり次第に食べ始める。二人は獣族と近しいからなのか、波長がとても合っていた。

「ん! すごい美味しいわね、誰が作ってくれたのかしら。」

いつも質の高い料理を食べているはずのフィリアルの舌を唸らせるほどの料理だった。

「私が腕によりをかけて作らせていただきました。」

名乗りを挙げたのはヴェンデル。エカル領はもうあの親子に任せて、魔王城で働くようになっていた。

「ヴェンデルさん、料理もできるんですか。すげえなあ。」

「メルクル家の敏腕執事ですので。」

「イザークおじさんとは違うんだよ〜。」

驚くイザークに声をかけるのはアニアとレオン。アニアの右隣はもちろんゼベルトが座っていたが、左隣にはレオンが座っている。二人はお互いに心を許していた。

「なんか、俺に当たり強くねえか?」

「まあまあ、イザークさん。僕がお酒を注ぎますよ。」

「お、悪いねえ。」

即座にイザークの機嫌を取るのはプラグマ。名家貴族出身者ならではの対応だった。


「そういえば、どうやってフィラウディア殿とフィリアル様が友になられたのか詳しく訊かせてもらっても良いですかな?」

バルトルトがイグレブ山に行った面子に声をかけた。

「あー、ボクもそれ知りたい!」

「確かに、龍人様と一体どうやって仲良くなったんだ?」

レオンとイザークもバルトルトに乗っかった。

「うーん、話すと長くなるわよね。」

「確かに、要点だけ話しても長いな。」

フィリアルとゼベルトがどう話したものかと悩む。

「僕が話しましょう。」

「いや、お前が話すとフィリアルのところで時間食うからダメだ。」

手を上げたプラグマをゼベルトが抑えた。

「では私が話しましょう!」

「アニアちゃんもゼベっちのとこで時間を食うでしょ! ニャハハ!」

それでは、と手を上げたアニアはヴェルニャに抑えられる。


『そうなると…。』

皆の視線が一箇所に集まった。

「えっ!? わ、私ですか!?」

ハンネローレが皆の視線に気づく。

「うん、ハンネの話ってわかりやすいもの。」

「いいねえ、頼んだよハンネ〜。」

「まあ、ハンネさんなら…。」

「そうですね、問題ないでしょう。」

「説明うまいですもんね。」

ハンネローレ以外のイグレブ山に向かった面子が彼女を推す。


「むむむむ、無理ですよぉ。」

首をぶんぶんと振るハンネローレ。

「小生はぜひハンネローレ殿から聞きたいですな。皆様、特にフィラウディア様もそう思いませんかな?」

「うん。ハンネローレの話わかりやすい。」

バルトルトの意見に、料理を食べる手を一瞬止めたフィラウディアが賛成した。

「うぅ、フィラウディアちゃんが言うなら…。」

フィラウディアの言葉が決め手となって、フィリアルとフィラウディアが友達になるまでの話をハンネローレがすることになった。



「-と、言った感じですね。」

ハンネローレの話が終わった。途中、若干2名が話に割り込んで熱弁をしていたがハンネローレの手腕によって話は上手くまとまっていた。料理と酒を味わいながら、皆は話にのめり込んでいた。皆の拍手がハンネローレを包む。

「小生、感動いたしました。素晴らしかったですよ、ハンネローレ殿。」

立ち上がり拍手をするバルトルト。

「あ、ありがとうございます。」

ハンネローレはそう言うと照れ隠しに酒を飲んだ。


「いやあ、話を聞くと眼の前にいるフィラウディア嬢ちゃんとフィリアル様がやべえなって改めて感じるぜ…。」

「うん。フィラウディアすごいでしょ。」

イザークの言葉にフィラウディアは自慢げに答える。フィリアルはそんな可愛らしいフィラウディアの頭を撫でた。

「うーん、もちろんフィラウディアちゃんとフィリアル様もすごいんだけど、やっぱり四天王様たちはボクらと格が違うねー。」

レオンは片眼を積むってお手上げの仕草をする。


「小生はその四天王についていけるアニア殿とゼベルト殿に驚愕しますな。」

「あー、確かに。なんだかんだ言って二人もおかしいよね。特に魔素持ってないはずのお兄さん。」

バルトルトの言葉に賛同して、レオンがゼベルトに指を向けた。

「流石レオンさん。ゼベルト様の凄さが分かりますか!」

「俺が謙遜する前に全力で喜ばないでくれアニア…。」

「はい、喜びいっぱいのアニアです!」

「いや、返事じゃなくって…。」

いつも通りの二人のやり取り。皆がそれを見て笑う。


「あ、そうだ。ゼベルト。」

「どうしたフィラウディア?」

口に入っていた食べ物を飲み込んで、フィラウディアがゼベルトの名前を呼んだ。

「なんでゼベルトは魔素持ってないのに、私の息吹が防げたの?」

「ああー、あれか。」

フィラウディアがまだ山頂で龍だった時、ゼベルトは魔素を持たない身で彼女の息吹を防いでいた。フィラウディアにはその事実が心底理解できなかった。


「俺の持ってる剣のおかげだな。アニアとハンネローレさんが見繕ってくれたんだけど…。」

ゼベルトは部屋の武器置き場に置いておいた『魔喰らいの剣』を指差した。

「どんな剣なの?」

「あー、説明すると長くなるんだけども…。」

ウォーレンにも話たな、と思い出してゼベルトは『魔喰らいの剣』についてフィラウディアに説明した。

「実は呪具でもあって、触れたモノから無制限に魔素を奪って霧散させる呪術が施されてる。使用者からすら無制限に魔素を奪うけど、俺には魔素がないから問題ないし。俺の認識でその呪術を阻害するかしないかを選べるんだよ。」

「う〜ん。なんとなくわかった…。」

ゼベルトの説明に少し顔を渋らせ、首を斜めにしながらも、なんとかフィラウディアは納得したらしかった。


「そういえば、ヴェルニャの剣なんで折れなかったの?」

「ニャっ!!」

フィラウディアがおもむろにヴェルニャの尻尾を掴みながら聞いた。

「にゃ〜、私の剣は魔封鉱でできてるからね〜。」

「マフウコウって何?」

「にゃ〜、ハンネ教えてあげてえ〜。」

「え、はい。」

尻尾を掴まれ、力の抜けたヴェルニャは答えをハンネローレに丸投げした。


「魔封鉱というのは文字通り魔素を封じる鉱石・石ですね。ほぼ魔素を通さないため手錠や盾に使われます。数が少なく貴重なのであまり普及はしていません。魔王城内では牢屋に利用されているくらいですね。あれで首、手首、足首を拘束すると私でも無力化されてしまうんです。」

「へえ〜。ヴェルニャはなんでそんな剣を使えるの?」

ハンネローレの解説がフィラウディアにまた疑問を抱かせた。

「気合だにゃ〜。」

冗談か本気か分からないことをヴェルニャが言う。


「僕が代わりに説明すると、柄の部分が別の鉱石でできているからだね。黒金剛石という現状世界で最も硬い鉱石で、魔王様の剣にも使われていたよ。」

「ふ〜ん。」

頷いて、フィラウディアは料理に手を伸ばした。もう疑問はないようだ。

「そうだ、私の剣折れちゃってたんだ。また作ってもらわないといけないわね。」

「おすすめの鍛冶屋を紹介しましょうか?」

フィリアルの言葉に鉱業家出身のバルトルトが提案をした。

「私の行きつけがあるから大丈夫よ。」

「いえ、出過ぎた真似をしました。いつも通り鉱石の方だけ送らさせていただきます。」

「ええ、いつもありがとう。」

フィリアルが武器を新調するという話を聞いて、ゼベルトも一つ思いついた。


「そうだ、アニア。魔喰らいの剣が呪術で作れるなら、魔喰らいの鎧みたいなものも作れるのか?」

「理論上は可能ですね。ただあの剣を見る限り相当な呪術を長い時間かけて作ったと思われるので、時間がかかりそうです。」

「なるほど。アニア、鎧の方を頼んでもいいか?」

「はい! アニアにお任せあれ!」

久しぶりにゼベルトに頼られ、気分の上がるアニアだった。


「もー、お兄さんたち折角の歓迎会なのに、物騒な武器の話ばっかりしないでよ〜。」

レオンが武器話に一段落つけた。

「すまん、礼儀がなってなかった。」

しっかりと謝るゼベルト。

「謝罪代わりにピアノでも弾いたらどうだい、ゼベルト?」

酒を飲んで顔を少し赤らめたプラグマが揶揄った。

「え!? ゼベルト、ピアノ弾けるの?」

フィラウディアが食いついた。

「まあ、一応弾けるけど…。」

「じゃあ弾いて! 私音楽好き!」

フィラウディアが料理から手を離して、ゼベルトに飛びついた。

「のわっ。わかった、わかったから降りてくれ。」

「嫌だ。弾いてくれるまで降りない。」

ゼベルトにフィラウディアが引っ付く。

「ヴェンデル! イザークさん! 早くピアノを持ってきてください!!」

「承知しました。」

「え、俺も!?」

アニアがヴェンデルとイザークにピアノを持ってくるよう言いつけた。一刻も早くフィラウディアをゼベルトから離したい嫉妬の一心だった。



「いやー、そんな見つめられると緊張するんだが…。」

ヴェンデルとイザークが持ってきたピアノの前に座るゼベルト。皆からの視線が集まる。特にフィラウディアが興味津々だった。

「それじゃあ、軽快な舞踏曲でも一つ。」

ゼベルトが鍵盤を叩き始めると、部屋の中に心地よい音楽が響き渡った。音楽に合わせてフィラウディアが尻尾と首を揺らす。

「ニャハハー、いいねえ。踊ろうフィラウディアっ!!」

「うん!」

同じように尻尾を揺らすヴェルニャがフィラウディアの手をとって踊り始めた。


「アニアちゃん、ボクらも踊ろうよ!」

「ゼベルト様と踊りたいのですが…。(わかりました。)」

「アニアちゃん、本音と建前が逆になってる…。」

「これは失礼。」

そんなやり取りをしながらも、レオンとアニアも踊り出す。

「ハンネローレ殿、小生と踊りませんか?」

「え、えっと…、私で良ければ…。」

ハンネローレとバルトルトも踊り始める。歓迎会は皆楽しく足を打つ、舞踏会に変わっていく。ゼベルトも興が乗ってきてピアノの心地よく奏でる。


「フィリアル様、僕と踊りましょう。」

「いいわよ。でもちゃんと私についてきなさい? 遅れを取ったら許さないから。」

プラグマとフィリアルが踊り出す。フィリアルの踊りは力強く軽快だった。それに合わせてゼベルトも曲調を激しくする。ゼベルトの記憶の中の、子供の頃から変わらない彼女の踊り方がそこにあった。プラグマもなんとかフィリアルの足取りについていく。


 ゼベルトとフィリアル、プラグマの視線が交錯する。もっと速く、もっと強く、もっと軽快に。三人は情熱的な舞踏を作り上げていく。他の踊り手たちは足を止めて、彼らに夢中になった。戦うような舞踏が部屋の中を彩る。永遠に続くような激烈で凛美な舞踏だった。しかしそんな舞踏も、三人の息が切れるころには、盛大なピアノと共に終わりを迎えた。三人を拍手喝采が包んだ。


「すごいっ!! 私もやる!!」

フィラウディアは音楽と踊りが大好きだった。ラディアがよく笛を演奏してくれていた。あの日を思い出して身体をピアノに任せる。

「ニャハハ! いいねえ、踊ろう踊ろう!!」

フィラウディアに倣ってヴェルニャも音楽に身を委ねる。

「おじさんも踊ろ!」

「わかったから引っ張らないでくれ!」

レオンがイザークの手を引っ張って強引に踊る。

「ヴェンデル、私たちの優雅な踊りを見せましょう。」

「御意に、お嬢様。」

少女と老紳士も手を取り、穏やかな歩調で揺れた。

「ハンネローレ殿、一度休みますか?」

「いえ! 踊りましょう!!」

いつもは引っ込み思案なハンネローレも興奮して、もう一度バルトルトの手を取った。こうしてゼベルトとフィリアル、プラグマに勢いづけられた皆は夜が吹けても、酒が周っても、腹が膨れても、足取りがぐちゃぐちゃになっても、歌い踊るのだった。

 

ピアノを弾きながら、ゼベルトは昔を思い出していた。父の弾くピアノで母と一緒に踊ったあの日。自分の弾くピアノで兄とフィリアルが踊り、それを母が見守っていたあの日。血の繋がった家族たちは死んでしまったが、家族のような友達が集まっていた。ゼベルトは指先まで幸福感を満たして、夜が深まるまでピアノをその指で奏でていた。

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