第51話「魔王城へ帰着」
往路と同じで、馬車の手綱を握るのはゼベルトとアニア。引かれる小屋の中にはプラグマとハンネローレが乗り、それぞれ個別に本を読んでいる。空は快晴で、林に囲まれた道には、心地よい風が吹く。ヴェルニャは体を動かしたいという理由で馬車と並走していた。魔王城まであと少しの距離だった。
「ニャハ〜、愛しの魔王城が見えてきたねえ〜。」
走っていたヴェルニャの眼に魔王城が映った。
「長い旅路でしたね。」
「ああ、…ん?」
アニアに返事をする際にゼベルトは何かを察知した。
「どうかいたしましたか? ゼベルト様。」
「空からでかい音が聴こえる…。」
ゼベルトの言葉からアニアが空を見ると黒い何かがこちらに急接近していた。ゼベルトが馬車を一時停止させる。
「なんだか既視感のある光景です。」
「でかい鳥型魔獣か…?」
推測をするゼベルト。アニアはその言葉にさえ既視感を覚えた。
「ニャンかこっちに向かってきてない?」
ヴェルニャも黒い何かに気がついた。
「何か緊急事態でも起きたかい?」
「…。」
プラグマも止まったままの馬車に違和感を覚えて小屋から降りてきた。ハンネローレは窓から心配そうに顔だけ出している。
「アレ急降下してきてないか、アニア。」
「はい、アニアもそう思います…。」
速度変わらず近づいてくる黒い影。
「まあ、私がなんとかするから心配するニャ!」
謎の自信を見せるヴェルニャ。
「みんな〜っ!!」
黒い影から声が聞こえた。
「「この声は…。」」
耳の良いゼベルトとヴェルニャが近づいてくる影の正体に気づいた。
「フィラウディア〜!!」
ヴェルニャが彼女の名前を呼んだ。近づく黒い影は友達の龍人だった。
「ヴェルニャ〜!!」
フィラウディアもヴェルニャの名前を呼び返す。突っ込んでくる速度は変わらず速い。
(私たちは少し離れておきましょう。)
(ああ、俺もそうした方がいい気がする。)
(うん、僕もそう思うよ。)
ヴェルニャとフィラウディアが名前を呼び合っている間に他四人は馬車ごと少し後退した。
「ヴェルニャ〜!!」
「フィラウディア〜!!」
また名前を呼び合う二人。フィラウディアの速度は変わらない。
「ヴェルニャ〜!!」
「フィラウディア〜!!」
お互いの顔を視認できる距離になってもフィラウディアの速度は変わらない。
「ヴェルニャ〜!!」
「フィラウディ…、ぶべほおおおっ!!!」
案の定、ヴェルニャにフィラウディアがそのまま突っ込んだ。二人の衝突地点に土埃が立ち込める。ゼベルトたちは『言わんこっちゃない』を表情にして、後ろから二人の衝突を見ていた。
「ニャハハ…、愛は速くて重くて痛かったぜ…。」
「ご、ごめんね、ヴェルニャ!!」
土埃がおさまると、ヴェルニャの上に馬乗りになったフィラウディアが現れる。道が二人の衝突で窪んでいた。
「大丈夫、大丈夫。私は頑丈なのだよ!!」
「良かった…。」
安全を確認してから、ゼベルトたちも二人のところへ近づく。
「やあ、フィラウディア。お出迎えありがとう。」
「うん、どういたしまして。」
「よ、良かった。緊急事態というわけではないんですね。」
「うん、キンキュウジタイじゃないよ。」
プラグマとハンネローレとの会話で、フィラウディアが火急の件で飛んできたわけではないと、ゼベルトたちは状況把握した。
「お出迎えにしては少し早い気がしますけれども、何かあるのですか? フィラウディアさん。嬉しそうなお顔もしていますし。」
「うん、歓迎会する。」
フィラウディアが満面の笑みを見せて答えた。
「歓迎会ってニャに〜?」
「わっ。」
フィラウディアの下敷きになっていたヴェルニャが、そのままフィラウディアを肩車して立ち上がった。
「歓迎会は歓迎会。」
「えっと、それは誰の?」
質問の意図を汲み取れきれていないフィラウディアにゼベルトが補足して質問する。
「フィラウディアの。」
当たり前でしょ、と言わんばかりの表情をして、フィラウディアが答える。
「レオンが歓迎会しようって言ったから、みんなが帰ってくるまで待ってた。」
「レオンさんとお会いになられたのですね。」
「うん。イザークとバルトルトと、ヴェンデルとも会ったよ。他は知らない。」
「なるほど、なるほど。」
この会話でフィラウディアの存在が魔王軍序列上位者と関係者のみに知らされているとゼベルトたちは察した。魔王軍全体に知らせたら面倒なことになるからだろう、と理解する。
「そーれで、こんな早くにお出迎えしてくれたってことだね〜。」
「うん。ダメだった?」
「ダメなわけあるまいよ! ほら魔王城まで超早で帰るぞー!!」
「うん!」
ヴェルニャがフィラウディを肩にのせたまま、走り出した。
「私たちも急ぎましょうか。」
「そうだな。」
ゼベルトたちも馬車に乗り込み、ヴェルニャとフィラウディアを追いかけた。




