第48話「龍人 対 魔王」
「ねえっ!! そろそろ落ち着いてきたんじゃないっ?」
幾重にも重なる攻防を繰り返す最中、再度フィリアルは龍人に声をかける。
「―ッ!!!」
しかし龍人は攻撃に集中して、言葉は返さない。
「私っ!! 貴女とっ!! 友達になりたい、のっ!!」
フィリアルは龍人の連撃を捌きながら、また自分の想いを伝えた。
「カ゛ァ゛ッ!!!」
煩いと言わんばかりに龍人が咆える。初めて龍人がフィリアルの声に反応した。
「やっぱり!! 言葉の意味わかるのね、貴女!!」
「ァ…。」
『しまった』、そんな声が聴こえてくるような反応をする龍人。攻撃を一旦止め、フィリアルから露骨に距離を取った。
「もう誤魔化してもダメよ、言葉が通じるなら話し合いましょ!!」
「グルルル…。」
それでも龍人は戦闘体勢を崩さず、フィリアルを睨みつける。龍人には全てが理解できなかった。寝ぼけ眼で何かを腕で払ったら魔族たちに襲われ、その後急に来た魔王と名乗る者には友達になろうと言われる。ここ数百年、ずっと独りで寝ていた龍人。脳の処理が追いつかなかった。
「カ゛ァ゛ッ!!!」
整理のつかない頭を空っぽにするために龍人はもう一度フィリアルに襲いかかった。
「ねえ、貴女の名前、教えてくれないっ?」
龍人の攻撃はずっとフィリアルに捌かれていた。言葉を話す余裕さえフィリアルにはある。それがまた龍人の頭に負荷をかけた。今まで触れてきた生き物は力加減を間違えるとすぐに死んでしまっていたのに、眼の前の生き物は生きているどころか、怒り任せに暴力を尽くしてもピンピンしている。山を削ったことのある拳も、地龍を踏み潰したことのある脚も、竜巻を起こしたことのある翼も、翼竜を貫いたことのある尾も、フィリアルに通じなかった。
「なんか、フィリアっち余裕そうじゃない?」
「確かに、思ったよりも大分魔王様が押している…?」
「龍人が魔素を使い始めたらわかりませんが、今の所そう見えますね…。」
戦いを見守っているヴェルニャ、プラグマ、ハンネローレがおかしな戦況に気づいた。
「ゼベルト様なら何か聴こえているのではないですか?」
「あー、なんか、フィリアルらしいことをずっと言ってるよ。」
アニアの質問にゼベルトが微笑みながら答える。
「もしかして龍人は今までまともに戦ったことないんじゃニャい?」
「なるほど…。あの強さなら対等に戦う相手はいないだろうしね。」
ヴェルニャとプラグマはおかしな戦況の原因に当たりをつけた。
「つまりどういうことですか?」
戦闘に明るくないハンネローレが解説を求める。
「龍が振るっているのは、それこそ山を砕くほどの力でしょう。しかしそれはただの暴力です。『柔よく剛を制す』。戦い方、力の振り方を知っているフィリアル様が優位なのは当然のことかもしれませんね。」
アニアの解説に全員がなるほどと頷いた。
「ここからどうなるのかニャ~。」
「それは魔王様のみぞ知るってとこだろうな。」
ヴェルニャとゼベルトが言う。魔族五人は変わらずフィリアルを信じて戦いを見守るのだった。
龍人は苛ついていた。不明瞭な頭と感情。苛つきを発散しようと暴力を振るっても、発散どころか魔王には全て受け流される。苛つきが腑で煮えくりかえって、体中が怒りに溢れた。
「わかったわ。貴女の怒り、私が全部受け止める。受け止め切ったら私と友達になってね。」
フィリアルはそんな龍の怒りを理解して言葉をかけた。フィリアルの言葉を聞いて、龍人がまたフィリアルから距離を取る。
「いいわ、全力で来なさい。」
フィリアルは龍人の攻撃を妨害しない。自身が言った通り龍人の怒りを受け切るつもりだった。
『 カ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ッ――!!!』
龍人は全力の息吹を吐き出した。翼竜の熱線を超えた、龍の黒く焦げた赤熱がフィリアルに向かう。それはゼベルトが剣で防いだ息吹の何倍もの威力。山の頂上を覆っていた雪は溶け散らされ、空には地平線とは別にもう一本の線が描かれた。黒焦の赤熱が魔王と激突する。世界が赤と黒に染められた。




