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第47話「龍 対 魔王」

 プラグマ・キシュルネライト、魔王軍序列一位、四天王最強。加えて魔族領貴族の中で、事実上最も有力な家系の次期当主。さらに彼は家の歴史においても麒麟児だった。言葉を喋れるようになった幼子の頃から上級魔術を駆使し、剣術でも大人を打ち負かす。

 

 そんな彼でも魔族領を甦生させることは不可能だった。前魔王死後の魔族領はどうしようもないほどに腐っていた。民は飢えて内戦勃発寸前。貴族は俗欲のため悪事を働く。身内はプラグマを隠れ蓑に自己保身へ奔走する。


 たかが一人の天才。世界を覆すほどの力は無かった。それでも流れるように自身の地位だけは腐った世界の中で向上していき、気づけば四天王の頂点に君臨していた。向かってくる者を赤子の手をひねるように倒す日々。そんな日々の中で彼女が現れた。

 

 フィリアル。『魔族最強のあなたをぶっ飛ばして友達になってもらうわ。』そんなことを宣言して決闘に挑んできた。プラグマはいつも通りの調子で淡々と戦った。実際、その時のフィリアルはプラグマとほぼ同等の力量で、冷静なプラグマが一歩先を行っていた。結局、あと一撃でプラグマの勝利だという瞬間が訪れた。

 

 その瞬間、プラグマの前に魔王が現れた。魔の王。魔術を極めたはずのプラグマを凌駕したフィリアル。プラグマは、その彼女の気高く、力強く、美しい姿に永遠を誓った。魔王フィリアルに全てを捧げるために、天才はただ一人のために、その魔術を磨き続ける秀才となった。魔の王には成れずとも、魔の王に仕える者として、彼女に一歩でも近づくために。


 此の日、此の時、此の一瞬まで、鍛錬を怠ることは無かった。相対するは龍。魔王と同等の存在。プラグマは魔法を使えない。しかし彼は四天王最強、彼の極めた『魔術』は、魔王を除く全魔族の『魔法』使いを超えていた。今現在氷界で龍を閉じ込めているハンネローレの魔法さえもプラグマは極めた魔術には敵わない。


「...。」

プラグマが無言で魔素を操る。彼の振るう魔杖に集まる色は一つでも、二つでも、三つでもない。七色さえも越えて練られる魔素がプラグマの掲げた魔杖の先で一つになった。極彩色の魔素が混ざり合い生まれたのは漆黒。プラグマが永遠を誓った、魔王の纏う黒だった。

「魔王永誓の我が魅せよう、極級超えし究極の魔術。」

その口上は魔詞ではなく、使える魔王に恥じぬための宣誓。

「昏天黒地。」

一瞬、世界が暗転した。龍が暗黒に包まれる。光を飲み込むほどの黒が龍を引き裂いた。魔王に永遠を誓った者が発現させた究極の魔術。それは魔王が剣を振った時と同じように、世界を遅らせた。その結果にプラグマは全身を満足で震わせ、美顔を歪ませるように笑った。


「グギャアアアアッ…。」

龍の雄叫びが響く。色を取り戻す世界。散らばる雪と土が龍の巨体を隠した。轟音が響いて、山が静まり返る。


「す、すごいですね!! プラグマさん!! 今のは魔術なんですか?」

龍が倒れたかよりも、ハンネローレはプラグマの魔術に興味を示した。

「はい、れっきとした魔術ですよ。とは言っても僕の知っている極級魔術を全て混ぜ合わせた、名付けるなら究極の魔術ですね。」

謙遜することなく、プラグマが事実を伝えた。

「四天王最強なんだからそれくらいやってもらわないと困るけどな。」

「君が僕を信頼してくれてるみたいで嬉しいよ。」

ゼベルトの皮肉にプラグマが笑いながら返す。

「二人って何だかんだ仲良いよね~。」

「アニアもそう思います。」

二人のやり取りを見て、ヴェルニャとアニアが少し茶化した。

「「仲良くはない。」」

ヴェルニャとアニアの茶化しに、二人は仲良く声を被せたその時。


『――ッ カ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!』


 怒れる龍の咆哮が世界に響き渡った。談笑していた魔族たちは再度戦闘体勢を取ろうとする。取ろうとしたが、身体がまた動かなくなった。今回はゼベルトも指一つ動かせない。武器を落とさないのが精一杯。何とか眼球だけ動かして、土埃のおさまった龍の方を見ると、そこに龍の巨体はもう無かった。


 そこには『龍人』が在った。二足の脚で立ち、二本の腕先で拳を握り、天に咆える姿はまさに人。しかし、赤黒い鱗に覆われた皮膚、指先の鋭い鉤爪、龍を宿した美麗な人面、螺旋を描く双角、背にある剛翼と尖尾、それらがその生物を人ではなく『龍人』だと世界に表していた。


 『勝てない、戦いにすらならない』。目線の先にある自らとほぼ同じ背丈の生物。世界と一体化するほど巨体だった龍の全てが、あの背丈に詰められている。プラグマたちの放った攻撃による傷はもう無くなっている。魔族たちはどんな足掻きも無駄になると直感した。


 龍人が地面を蹴った。砂塵が上がり、破裂音が響く、龍人の姿が消える。消えた龍人の姿を捉えようと、魔族たちが瞬きした次の瞬間。

「―!?」

視界に超低空飛行で急接近してくる龍人が現れた。誰も動けない。武器を構えることもできず、魔素を練ることもできず、声を上げることもできず、ただ迫り来る憤怒の龍人を待つのみ。


 しかし魔族たちは死を覚悟することは無かった。振り返りはできないが背中で彼女の存在を感じていた。


『退いてッ!!!』


 フィリアルの声が響く。固まって動けなかった魔族たちの体が即座に反応した。後方から超高速飛行で急降下してくるフィリアルに道を開ける。すれ違い様にフィリアルはそれぞれと眼を合わした。


 恍惚満面の笑みを見せるプラグマ。尻尾を立て喉を鳴らすヴェルニャ。半泣きで嬉しそうに頷くハンネローレ。可憐なカーテシーで敬意を表すアニア。そして、ゼベルトは片眼を瞑って柔らかい笑みを見せた。友人たちの無事を確認したフィリアルはついに魔王として龍人と激突する。


真正面に現れた魔王に驚いて一瞬龍人も眼を見開く。しかし憤怒に包まれた龍人は止まることなく低空飛行を続け、魔王を龍爪で裂くべく腕を構える。魔王も龍と一直線上で激突するため急降下から低空飛行に移り、漆黒の剣を構えて龍爪を迎え撃つ。


「「―――。」」


 無音の衝撃。龍人の爪と魔王の剣が激突した。一瞬、世界が黒白になったかと思えば、その黒と白の世界が弾けた。天と大地の震えと痺れが止まった時、衝突の結果が世界に提示された。


「―ッ!?」

「…折れちゃったわね。」

龍人の爪と腕、魔王の剣と腕が折れた。龍人は衝突の結果に驚く。自身の爪は生誕から今日までの永い生の中で傷つくことさえ無かった。有機物・無機物問わず、龍爪を振るった対象は有無を言わせず斬り刻めていた。魔王は冷静に結果を受容した。魔王の剣は希少な黒金剛石を魔族一の鍛治師に加工させた物だった。その漆黒の剣に今日まで斬れないモノは無かった。


 龍人と魔王は無言で魔法を発現させて、両者共に衝突でできた傷を癒した。


「起こした後に私の友達が攻撃したのは謝るわ。だから少し話さない?」

「...。」

フィリアルの問いかけに龍人は答えなかった。折れた爪に対する驚きが引き、思い出したかのようにそのまま拳を振るう。

「っ!! そうよね、謝って済めばこの世に死刑は無いものね!」

軽口を挟みながら、フィリアルは龍人の攻撃を回避する。フィリアルと龍人の戦闘が始まった。


 龍人が攻撃をする度、魔王が攻撃を防ぐ度に世界が揺れて天と地に衝撃が走る。龍人は拳を、脚を、尾を、翼を、力任せに振るう。魔王はそれらを冷静に避け、防ぎ、叩き、払った。空中で繰り広げられる三次元の格闘戦。ゼベルトたちはその余波に当てられながら、戦いの行く末を見守ることしかできない。足元の雪が二人から起こる風で散っていった。


「フィリアっち、勝てるかな…。」

「勝てるさ、魔王様なら。」

「フィリアルちゃん、頑張って…!!」

「信じましょう、フィリアル様を。」

「そうだな、フィリアルなら龍人だってぶっ飛ばして友達になるさ。」

心配と信頼。二つを抱えて、五人の魔族たちは王の姿を眼に焼き付けのだった。


描きだめができたので、また投稿再開します!! 投稿が止むことが多々あると思いますが、完結まで必ず描くので、お付き合いいただけたら幸いです!!

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