第43話「龍と会うために」
ゼベルトとウォーレンの決闘後、モーガンとゼベルトたちは巨木のうろに戻り、龍に会うための方法について教えられていた。
「龍に会う方法は至って単純じゃ。龍の寝床に行けば合える。」
「単純とは言っても、簡単ではないですよね?」
「その通りじゃ。山の頂上近くに寝床がある、この時期はもう雪が被り、生半可な装備じゃ登れんじゃろう。」
「では一度、装備を整えるために僕らは戻ったほうが賢明ですか?」
モーガンとプラグマが中心になって話を進める。ハンネローレはその話を手記に記録し、ゼベルトとアニアは話を聞きながらヴェンデル直伝の珈琲を淹れていた。アニアとヴェルニャは獣族の子供たちと遊んで、友達作りに勤しんでいる。
「いや、戻る必要はない。ワシらの装備を貸そう。なるたけ早く龍に合いたいのじゃろう?」
「助かります。」
「代わりと言ってはなんじゃが、道中で荒れている地竜と翼竜を狩ってくれんか。度々子供たちが襲われそうになっておってな…。」
「任せてください。元々僕らの戦争のせいで竜が平原からこちらに来ていたのでしょう? 後始末ぐらいはむしろやらせていただきたい。」
モーガンとプラグマが話を詰めている間に、ゼベルトとアニアが珈琲を持ってきた。
「ニャ~、いい匂いがする~。」
珈琲にヴェルニャが誘われた。
「ヴェルニャさん、珈琲がお好きなのですか?」
「ニャ~んか誘われるんだよねぇ。ほら。」
アニアの問いに答えるヴェルニャ。彼女が指差す方には獣族たちが顔を出し、鼻をひくひくさせて、空の中を覗いていた。
「皆さんも飲みますか?」
「飲みます!」
「下さい!」
「ぜひぜひ!」
獣族たちがうろの中に押しかける。中には果物を手に持ってきた者もいた。
「ニャハハ~、賑やかでいいねぇ!」
「これでみんなまとめて友達ね!」
フィリアルとヴェルニャが喜ぶ。
「流石、ゼベルト様。こうなることを予期して珈琲を持ち込んでいたのですね!」
「いや、別にそんなつもりじゃないんだが…。」
ゼベルトに抱きつくアニア。ゼベルトに触れることができれば、彼女にとって理由などもう何でもよかった。
「珈琲っていうのか、コレ。」
「すげえ美味いな。」
「苦い、けど美味しい…。」
獣族たちが感想を矢継ぎ早に喋る。
「豆を潰してたよな。それの種かなんかを分けて欲しいぜ。」
「あー、分けることはできても、栽培はできないと思うぞ?」
「特殊な環境が必要なのか?」
「ああ、コレはこの大陸より南方から来たものでな。寒い地域じゃ育たない。それを魔族は魔術で温室を作って栽培してる。」
「なるほどなぁ。そうなると高級品でもあるのか、コレは。」
ゼベルトが珈琲についての疑問に答える。
「わたしものみたいよー!」
「ぼくもー!」
「おれもー!」
獣族の子供もねだり始めた。
「お子さんのものには砂糖、山羊乳、果汁など甘いものを混ぜるといいですよ。」
アニアもゼベルトにならって獣族たちと交流する。和気藹々とした雰囲気が生まれた。
「騒がしくてすまんのう。」
「フィリアル様が楽しければ、僕はかまいませんよ。」
「獣族さんたち、みんな可愛い…。」
魔族も獣族も関係なく、皆は珈琲を嗜んだ。しかし、そこにはウォーレンの姿は無かった。
「そういえば、ウォーレンはいないのか?」
ゼベルトが気づく。
「流石に決闘で敗北した後ですから、皆さんに顔を見せられないのでは?」
アニアが真っ当な意見を言った。
「いやあ、アイツは来ねえよ。」
猪種獣族の男が答えた。
「ああ、アイツはな…。」
「おい!」
鹿種獣族の男が何かを言いかけたところで猪種の男が制止した。その声が響き、うろの中は静かになってしまった。
「なになに~、あいつがどうかしたの?」
ヴェルニャが鹿種の男を問いただす。
「いや、別に…。」
「友達として、隠し事は良くないと思うわよ?」
フィリアルもヴェルニャに加勢した。
「ま、魔王様。怒らないで聞いてくださいね?」
「ええ、怒らないわ。」
鹿種の男は恐る恐る話し始めた。
「ウォーレンはガキん時に魔族と人族の戦争に巻き込まれて親が死んでるんです。だから、あんたらと一緒に仲良くはできねえかもしれねえです…。」
「ニャ~るほどね~。」
ヴェルニャが気のぬけた声で返事をする。
「ウォーレンと似たような境遇のやつはたくさんおっての。魔族に対して良い印象を持ってない者は多い。実はワシも、最初はお主らに龍に会う方法を教えようとは考えておらんかった…。」
モーガンが思っていたことを明かした。
「しかし魔王様がおると分かり、ワシは考えを変えた。魔王様に逆らうとはとんでもない。嫌悪感や怒りを押し殺して、ワシとおぬしらの話を聞いていた者もおるじゃろう。」
モーガンが獣族たちの顔を見回す。肯定の声や手は上がらなかったが、顔を見れば該当する者が少なくないとわかる。
「今まで魔族が迷惑をかけて申し訳ないわ。この先はあなた達のことも考慮して戦うわね。」
フィリアルは頭を下げて謝った。彼女の強さは彼女の知らないところで他者に生き方を強制させてしまう。それはフィリアルの考える友達として正しい在り方ではなかった。
「そう言ってくれるだけでありがたい。おぬしら魔族が人族と戦うのはもはや運命じゃ。それに魔王様がワシらの問題も解決すると宣言したときには、なぜか不思議と信じられた。」
ゼベルトが感じていたフィリアルの不思議な『熱さ』を獣族たちも感じていた。
「それにウォーレンが自ら決闘を申し込んでワシらの怒りと鬱憤も晴らしてくれたしの。ワシらの中で最も強いウォーレンが手も足も出ないなら、もうおぬしら魔族を信用する他なかろう。」
言い切り、モーガンが珈琲を飲んで微笑んだ。静寂が流れる。
「おねえちゃんたちがりゅうをやっつけてくれるの?」
静かになった空気の中、猫種獣族の子供が一人が言った。
「ええ、私たちに任せなさい。竜は全部ぶっ飛ばして、大きい龍とは友達になってくるわ。」
フィリアルが屈み、その子と眼を合わせて、また宣言した。
「そうと決まれば、お前たち。魔族さんらに合う装備を準備するのじゃ!」
『オオォーッ!!!』
獣族たちの雄叫びが響いた。




