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第42話「ゼベルト 対 ウォーレン」

「ゼベルト、無理しちゃダメよ。まず自分の命優先で動くこと。わかった?」

「大丈夫ですよー、魔王様。俺そこそこ強くなってますから。」

決闘の場へ向かう道中、フィリアルがゼベルトを心配して話しかけた。やはり自分はフィリアルに弟みたいなものだと思われていると、ゼベルトは再認識する。

「そうですよ、ゼベルト様は負けません。」

「私も余裕だと思うニャ~。」

アニアとヴェンデルはゼベルトの勝ちを確信していた。

「勝つだろうけれど、心配なのよ。」

「魔王様の気持ちは分かりますが、問題ないと思いますよ。」

フィリアルの不安に理解を示しながらも、ハンネローレもゼベルトへの信頼を表す。

「魔王様。少し癪ですが、僕がゼベルトの強さを保証しますよ。」

「心配性のプラグマまで…。」

眼を細めるフィリアル。

「はっ。お前がそんなこと言うとはな。」

ゼベルトは皆の信頼からくる恥ずかしさをプラグマへの小言で誤魔化した。

「君の強さは認めているさ。徹底的に魔族の強さを思い知らせてやってくれ。」

「…りょーかい。徹底的ね。」

ゼベルトはそっぽを向いて返事をした。

(ううむ、ウォーレンもワシらの中では強いのじゃがなぁ。相手が悪かったようだのう…。)

魔族一同の話を聞きながら、モーガンはウォーレンを憐れんだ。ちなみにウォーレンは魔族一同とは違う道で決闘の場へ向かっている。


 森の中、決闘の場所に二人が立った。ウォーレンは大剣を背負い、ゼベルトは新しい漆黒の剣を手にして向かい合う。観客は魔族一同と決闘を見に来た獣族たち。モーガンの合図で決闘が始まろうとしていた。

「両者、準備は良いな。」

「ああ。」

「さっさとしてくれ、爺さん。」

モーガンの確認に二人はあっさりと答える。


「それでは…、始めッ!」

掛け声が響いても二人は動かなかった。両者睨み合い、剣を構えるのみ。

「魔術使っても俺は文句言わねえぞ。使いたけりゃ使え。」

剣を交える前にウォーレンがゼベルトに言葉を振るった。

「律儀だな。でも俺は魔術を使えないんだ。」

「下手な嘘つくんじゃねえよ。」

ウォーレンの反応は当然のもの。魔術の使えない魔族など、本来なら存在しない。


「いやー、本当なんだが…。まあ、魔術を使わず俺がアンタを倒したら、アンタは魔術を使う俺の同僚たちに勝てないって納得してくれ。」

「うるせぇ。獣族が魔術抜きの力で魔族に負けるわけねえだろッ!」

ゼベルトに言い放って、ウォーレンがそのままゼベルトに突っ込む。ウォーレンの垂直斬りがゼベルトに振りかざされた。

(荒削りだな。)

ゼベルトは一歩体をずらすだけで斬撃を避けた。

「オラァ!」

今度は水平斬り。また一歩体引くだけでゼベルトが回避する。

(徹底的か…。取り敢えず全部避けてやろう。)

決闘開始からウォーレンが一方的に攻撃し続ける。しかしゼベルトには擦りもしない。最小限の動きで避ける避ける。ウォーレンは攻撃しているのではなく、攻撃させられていた。観客の誰が見てもそれは明らかだった。


「結構、やるみてえだな。」

息を整えながら、ウォーレンは虚勢を張る。

「本気になってくれるか?」

ゼベルトは余裕のたっぷりに返す。

「うるせぇ、死んでも知らねえからなァ!」

ウォーレンの体が怪しい光を発する。魔素身体強化。

(獣族でさえ魔素強化なら使えるんだな。俺はこの身一つなんだが…。)

考え事をしながらも、ゼベルトはウォーレンの攻撃を避ける。大剣が空気を裂く音、相手の筋肉の音、息づかいの音。静かな森の中、観客たちも黙っている。洗練されたゼベルトの体捌き。魔素を持たないからこそ、向き合い続けた自分の体。まだゼベルトは剣を一度も振っていなかった。


「ガァァァッ!!!」

ウォーレンが吠えた。自分よりも弱いはずの魔族に一撃も与えられていない。それどころか防御を取らせることもできていない。信じられない光景の一部となっている自分。

(なんだよ、なんで魔素強化を使ってない魔族に俺は勝ててないんだ。)

焦れば焦るほど、ウォーレンの攻撃は雑になっていった。

(やるしかねえのか…。)

ゼベルトから距離を取り、ウォーレンは自分の体と剣に集中した。


 距離を取ったウォーレンを敢えてゼベルトは追わない。『徹底的』。プラグマから言われた言葉を意識していた。ウォーレンの体と剣が怪しい光を強めても、傍観するのみ。

「…ホントに、死んでも知らねえからな。」

ウォーレンが怪光を放つ大剣を振りかざした。獣族に可能な最大威力の攻撃。自身の体だけでなく武器にも魔素強化を施す。獣族特有の第六感を持ち、そして身体感覚を武器にまで拡張することのできる者のみが可能な一撃だった。

(お前はそう『認識』したんだな。)

ゼベルトもついに剣を振るう。頭上から迫る大剣を漆黒の直剣が迎え撃つ。


『ピシッ…』

何かにヒビが入る音。時間差でウォーレンの大剣が半分に折れた。そしてウォーレン自身も膝をついて倒れた。ゼベルトは剣をウォーレンの首に添え、勝者宣言を待った。

「勝者ゼベルト。」

モーガンが静かに勝者の名を上げた。観客たちも見たままの事実を受け入れた。モーガンは膝をついたままのウォーレンのところへ近づく。

「ウォーレン。満足したかの…。」

「おい、お前。さっきのは何だ?」

モーガンの言葉を無視して、ウォーレンはゼベルトに大剣の折れた理由を聞いた。

「『お前』じゃなくて、名前で呼んでくれないか?」

「チッ。ゼベルトさん、俺の大剣が折れた理由を教えてください。」

舌打ちをして、ウォーレンはわざとらしく敬語を使う。


「俺ら魔族と友達になってくれたら、教える。」

「テメエ…。分かったよ、友達になるから教えてくれゼベルト。」

「漢に二言は無しだぞ?」

「分かったからさっさと教えろ。」

ウォーレンは立ち上がり、ゼベルトの肩を掴んだ。

「魔術を使えないって言ったけど、そもそも魔素を全く持ってないんだよ、俺。」

「はぁ!?」

「なんと…。」

モーガンとウォーレンが驚く。ゼベルトの体質は獣族にとっても自然の摂理に反したもの。

「久しぶりだな、その反応。つまり俺の体は魔素を通さない絶縁体かつ魔術・呪術を壊す阻害物っていうことだ。」

「でも俺はお前の体に触れてねえぞ?」

ゼベルトの説明に対して抱いた疑問をウォーレンはそのままぶつける。


「この剣にカラクリがある。」

ゼベルトが漆黒の剣を指差す。

「ただの黒い剣にしか見えねぇが…?」

「ワシにもそう見える。」

「これ実は呪具なんだよ。『魔喰らいの剣』っていう触れたモノから無制限に魔素を奪って霧散させる呪術が施されてる。使用者からすら無制限に魔素を奪う。」

この『魔喰らいの剣』は魔王城の倉庫にしまわれていた。それをアニアとハンネローレが見つけ出し、ゼベルトのものとなった。

「そいつが俺の剣を媒介にして、俺の魔素を奪ったってことか。」

「しかしおぬしは魔術・呪術を壊す阻害物のはず、なぜその呪具が機能したのじゃ?」

モーガンがゼベルトの説明の矛盾点をついた。

「『認識』の問題です。俺は魔術・呪術を壊すこともできるし、無干渉でもいられる。そう認識することで、この剣の機能を意識的に使うことができるんです。」

「なんだそりゃ、屁理屈じゃねえか。」

「確かにそうかもな。でもウォーレンのさっきの一撃も同じ原理じゃないか? 武器を自分の一部として『認識』するっていう。」

ゼベルトの言葉にウォーレンは反論できなかった。

「ほっほっほ。反省会はここらへんにしておこう。皆がこちらに来て良いものか迷っておる。」

モーガンが視線を送る先では、そわそわしているアニアとフィリアルがいた。

「そうですね。ウォーレン、いい戦いだった。」

「はっ。やめろ、気持ち悪い。」

ゼベルトがウォーレンとモーガンの元から、魔族一同のもとへ歩いていく。


「ゼベルト様!! アニアは信じておりましたっ!!」

アニアが駆け寄ってきて、ゼベルトに抱きついた。

「ああ、ありがとう。」

もう慣れたはずだったが、フィリアルに見られてゼベルトは少し気まずかった。

「やるわね、ゼベルト。流石私の最初の友達。」

フィリアルは全く気にせず、ゼベルトの背中を叩いた。

「へえ、ゼベルトさんって魔王様の最初の友達だったんですね。」

ハンネローレはその事実を初めて知った。

「知らニャかったの? だからプラグマとバチってたんだよね~。って痛い痛いプラグマ!! 尻尾引っ張るニャ!!!」

「…。」

プラグマは無言でヴェルニャの尻尾を引っ張っていた。それを見て皆も笑う。ゼベルトとウォーレンの決闘により少し時間は掛かったが、こうして魔王軍一同は龍に一歩近づいたのだった。


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