第39話「龍の尾道を通るべく」
イグレブ山『龍の尾道』、大型の馬車が一台走っていく。手綱を握るのはゼベルトとアニア。引かれる小屋の中にはプラグマとハンネローレが乗り、それぞれ個別に本を読んでいる。荷台には数人・数日分の物資。
「おーい、ゼベっちとアニアちゃん。そろそろ限界っぽいよ~!」
馬車の前方から響くのはヴェルニャの声、かろうじてゼベルトが聞きとる。
「停めよう、アニア。」
「はい、ゼベルト様。」
ヴェルニャの声に反応して、二人が馬車を停めた。
「着いたのかい?」
小屋からプラグマが降りる。ハンネローレは恐る恐る顔を出した。
「ああ。ヴェルニャいわく、ここら辺が限界らしい。」
「そうか。僕の見立てより早く着いたようだね。」
空はまだ明るく、夕方まで少し時間がある。以前人族と争った場所より先に行ったこの場所は静かな森だった。ゼベルト、アニア、プラグマ、ハンネローレ、ヴェルニャ。魔王軍の主力とも呼べる五人がイグレブ山に来た理由は『龍の尾道』を通行可能にするためだ。
「ニャハハ~。もう『龍』に挑んじゃう?」
馬車の元にヴェルニャも戻ってきた。龍の縄張りとなっている尾道を通ることができれば、人族領に直接攻め入ることが可能になる。さらに、前回のイグレブ平原での戦いで得た捕虜から、現在人族軍は三年間の侵攻失敗により弱体化しているという情報があった。
「いや、一晩休憩しよう。中途半端な状態で挑んで勝てる相手じゃないだろう。」
「そっか~。」
この機を逃してはならないと、魔王フィリアル直々に組んだ隊がこの五人組だった。そしてプラグマの判断に従って、一同は山中で野営することになった。
道から少し森に入った空き地で、五人は焚き火を囲む。火の上には鍋型の魔具が置かれ、その中には肉と野菜のスープが煮られていた。
「水の湧き出る魔具とは便利な物ですね。ハンネローレさんが作られたのですか?」
「はい。空気中から青素を集めて、水を湧き出す仕組みになっています。」
喋りながら、アニアとハンネローレがスープを椀によそい、三人に分ける。パンをスープに浸し、五人は腹ごしらえをした。
「ヴェルニャ? 何か面白いことでもあるかい?」
食事中、ヴェルニャの口角が少し上がっていた。プラグマが不思議に思って聞いた。
「ニャハハ~、いや面白い面々だニャあって。」
ヴェルニャが口角を上げ切り、微笑みながら四人を見回した。
「確かに、私はあまり外に出ないですもんね…。」
苦笑いをして、ハンネローレが下を向く。白色で小さい魔石角がヴェルニャに向けられた。ハンネローレは滅多なことがないと、研究室に篭り切っている。
「いやいや、そうじゃなくって。そこの二人の並びが面白いニャって。」
ヴェルニャが否定して、ゼベルトとプラグマに視線を送った。
「それは俺も思ってるよ。」
「それは僕も思ってるよ。」
二人の声が重なった。
「ニャハハ! 仲良しだねぇ。」
軽快に笑うヴェルニャ。対してゼベルトとプラグマは口をへの字にした。
「私も、あれほどまで剣呑だったお二方が並んでいるのを見ると不思議な感覚になります。」
アニアも微笑む。
「え、お二人は仲が悪かったんですか?」
ハンネローレは驚いて思ったことをそのまま口にした。
「いや、あれはコイツのせいだ。」
「いやいや、あれは君のせいだろう?」
「はあ!? どう考えてもお前の態度が悪かったろうが。」
「はなはだ心外だね。どう考えても君の受け答えが悪かった。」
ハンネローレの言葉に反応して、ゼベルトとプラグマが言い争い始めた。
「仲良くしようねぇ。ニャハハ!!」
「す、すみません、私のせいで蒸し返してしまって。」
「子供みたいに言い争うゼベルト様、可愛いです…。」
二人の言い争いを見て、面白がる者が一人。謝る者が一人。なぜか喜ぶ者が一人。
「は、話を変えましょう! ヴェルニャさん、何か話題をお願いします!」
ハンネローレが責任を感じて、ヴェルニャに話を振った。
「ニャ~、面白いのに…。う~ん、そうだ。プラグマ、魔王様まだ来ないのー?」
「魔王様は翌朝こちらに着く予定だ。」
即答するプラグマ。魔王のこととなると切り替えが早い。
「…。」
ゼベルトは少し呆気に取られて口を閉じた。
「ちなみに魔王様は別件が立て込んでいて、今日我々と同行することは困難と判断された。翌朝、文字通り『飛んで』来るそうだ。」
「おお~、流石プラグマ。フィリアっちのことになると早口。」
「ヴェルニャ。軽々しくあだ名で呼ぶんじゃない。名前で呼ぶならフィリアル様にしてくれ。」
「過激派だニャ~、別にいいじゃん。ここにいるみーんな、フィリアっちの友達だし~。」
厳しいプラグマの物言いをヴェルニャはのらりくらりとかわす。
「プラグマさん、私は気にしませんよ。」
「私も、ハンネローレさんに同じです。」
アニアとハンネローレがヴェルニャに加勢した。アニアに関しては『宿敵』と書いて『友』と読む、そんな感じだった。
「俺も女性陣に同じだな。そうフィリアルのことを神格化するもんじゃないと思うぞ、プラグマ。友人に行き過ぎた敬意は厄介だ。」
ゼベルトがプラグマに注意する。
「…そうだね。僕としたことが少し熱くなりすぎたみたいだ。」
プラグマは眼を伏せて周りの言葉を肯定した。しかしゼベルトには、そのプラグマの姿が周りの言葉に納得しているようには見えなかった。ただ場を優先し、自分を律したように見えた。




