第33話「嵐が去る」
イザークとヴェンデルは神風隊に止めをさせていなかった。三人の敵が逃げるように立ち回り、攻撃を避けられていた。無視してゼベルトたちに加勢しようとすれば、背後から魔術が襲いかかってくる。いかに敵が子供じみていても才能と魔術だけは本物だった。
「申し訳ありません、イザーク殿。私が最初の一撃で全滅させていれば。」
「大丈夫ですよ。向こうにはヴェルニャが来たみたいですし、こっちも終わらせましょう。」
「ヴェルニャ…!?」
イザークの言葉にヴェンデルは一瞬動きを止めて振り返ってしまった。そして、その隙を敵は見逃してくれなかった。
「魔術・旋風の迅矢。」
「魔術・烈風の迅矢。」
「魔術・疾風の迅矢。」
敵三人の魔術がヴェンデルを襲う。イザークはヴェンデルを突き飛ばした。
「ヴェンデルさんっ!」
イザークはヴェンデルを突き飛ばして代わりに魔術を受けた。イザークの体が血を迸らせながら吹き飛ぶ。
「はっはっは。やったぜ!」
「いい気味ですね。」
「ね、後悔するって言ったでしょ?」
敵が喋っている間にヴェンデルが吹き飛ばされたイザークに駆け寄る。
「イザーク殿っ!」
「…うっ。」
イザークの体から血が流れ出る。返事もできないほどの怪我を負っていた。すぐに回復魔術をかけるべきだが、敵は絶対にそれを許さないだろう。
「イザーク殿、少々お待ちくだされ。」
イザークに声をかけるが、ヴェンデルは焦っていた。敵を追いかけているうちに魔素を大分消費している。ここから三人相手取るのは厳しいものがあった。
「御老人、ここは僕に任せてください。」
綺麗な男声が響いた。イザークの頭上に紫色の魔法陣と魔杖を持った美丈夫が現れた。
「だ、誰だオマエ!」
「なんか急に出てきたぞ。」
「美、美男子…。」
敵も急な来訪者に対して声を上げた。
「魔王軍四天王、序列一位。プラグマ・キシュルネライト。僕は魔王様の次に強い、覚悟しろ。」
「「「か、かっこいい。」」」
プラグマの名乗りに敵は感銘を受けていた。プラグマはやれやれと息を吐く。
「援護…? どうやって、いや転移魔術…?」
「御老人、彼をお願いします。話は後です。」
ヴェンデルに回復薬の入った瓶を手渡すと、プラグマは呼吸をするように両手で魔素を練り始めた。その様子はヴェンデルが生涯見てきた中で最も洗練されていた。
「喰らえ!魔術・旋風の刃ッ!」
「行けっ!魔術・烈風の刃ッ!」
魔素を練ろうとしている相手を自由にさせるはずがない。プラグマの容姿に見惚れていた女を除いて、敵二人が上級魔術を放つ。
「刃風の魔術。」
対してプラグマが放ったものは初級魔術。学術書通りに考えれば、負けるのはプラグマの方だった。しかし学術書通りにならないから、彼は四天王なのであった。
『はぁっ!?』
敵の声が重なる。初級魔術が上級魔術を打ち破る。そしてそのまま二人の命を刈りとった。老練なヴェンデルにとっても、初級魔術が人間の心臓を貫くという信じ難い光景。
(とんでもない魔術練度ですな…。あれほどの者は私の現役時代も見たことがない。)
イザークを治療しながら、ヴェンデルはプラグマの力量に驚愕する。
「さあ、あとは君だけだね。」
正々たる足取りでプラグマが一人残った敵に向かっていく。
「ま、待ってください! お願いします。殺さないでください!」
疾風と名乗った女だったがプラグマの前では微風にも満たなかった。また大きく息を吐いて、プラグマは魔杖を女の首に打ち付ける。
「僕は殺したいけれどもね。魔王様の流儀に則るよ。」
心底不服そうな表情をして、プラグマは女を捕虜とすることにした。
「申し訳ない、プラグマ殿。本当に―-」
「僕ではなく感謝すべき人が別にいますよ、御老人。それにまだ終わっていません。」
ヴェンデルの謝罪と感謝を遮ったプラグマ。彼の瞳にはセザールとヴェルニャが映っていた。
「俺様は『神風』だぞッ、クソ魔族共ォ死んでたまるかァ!!」
押されていたはずのセザールの剣がまた勢いを取り戻した。追い風でも吹いているかの如く、セザールがヴェルニャの力量に追いついていく。
(ニャハハ…。これは笑えないかも…。)
ヴェルニャは少し焦る。彼女は決して手加減はしていない。ただセザールの生への執着と眠っていた才能が彼を強くしていた。
「弾岩の魔術。」
プラグマが加勢し魔術を放つ。しかしそれはセザールを仕留めるに至らなかった。
「いってえなァ!」
放った魔術はセザールを包む凶風に弾道をずらされ、彼の肩を弾くにとどまる。
「ヴェルニャ! コイツはここで殺しておくべきだ!」
「言われなくても分かってるよっ!。」
プラグマとヴェルニャがセザールを前後で挟む。彼を野放しにしていたら、どこまで強くなるか分からない。
「うっせえなァ!! だから死なねえって言ってんだろうがァ!!」
ゼベルトに傷つけられた口から血を垂らしながら宣言するセザール。また彼を中心に風が吹き荒れていった。
「オイ、オマエら! 俺ばっかりに集中してていいのかァ!!」
セザールがヴェンデルとイザーク、そしてゼベルトとアニアに凶風を放った。ヴェンデルとアニアがそれぞれ凶風を迎撃したが、プラグマとヴェルニャの意識が一瞬外れてしまった。
「じゃあなァ、オマエら、次会ったら全員ぶっ殺すッ!!!」
風に包まれ小さな台風となったセザールが空へ上昇する。プラグマもヴェルニャも最大威力の攻撃を準備していたが、一瞬遅かった。そしてセザールはそのまま飛び去り姿を消した。龍の尾道での戦闘は魔王軍の勝利。しかしメルクル小隊の戦闘兵たちは全滅し、敵の七星も殺し損ねてしまったのだった。




