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第32話「ゼベっちに助太刀」

「おー、あっちもすげェことになってんなァ。」

ヴェンデルの極級炎魔術によって部下が死んでも、セザールは他人事のように捉えていた。さらにはゼベルトとアニアに笑みを見せる。セザールの風によって千切り飛ばされた魔軍兵の生臭い血の匂いとヴェンデルが燃やした肉の焼けた匂いが充満する。

「それじゃァ、行くぜェー!」

セザールは子供のごっこ遊びのように剣を振り回す。幼いとき誰もが頭の中で妄想する、剣を自由自在に振り回す立ち回り。それをセザールは才能だけで行う。ゼベルトの実直な剣はセザールの煩雑な剣と相性が悪かった。それでも辛うじて捌いていく。

「んー、じゃあお嬢ちゃんの方から攻めちゃおっかなァ~。」

セザールはゼベルトを崩し切るのを止めて、アニアを襲う暴風魔術の苛烈さを強化した。

「気色悪いですね。」

アニアもゼベルトと同じく辛うじて暴風を捌く。しかしこのままでは確実にセザールの方が有利。イザークとヴェンデルの抑えている神風隊が加勢したら一気に詰んでしまう状況だった。アニアは覚悟を決める。

(ゼベルト様、こちらは構いませんよね。)

『自分の命を第一に』というゼベルトの言葉に言い訳をしながら、アニアは最大の魔素を練る。


「憑依の呪術-四代目当主アメリア・メルクル-敬愛なる祖よ、我に宿り、力を貸し給え。」

アニアの呪術練度が飛躍的に向上した。強固かつ強力になった『侵蝕の呪術』は血刀だけにとどまらず、アニアの体から同心円状に広がり、セザールの風を弱めていった。

「服従の呪術、消えゆく魔の素よ、我に従え。」

四代目当主は歴代で最も呪術の扱いが長けていた人物。アニアの純粋な力量では『契縛の呪術』無しでは不可能だったことを可能にした。相手の魔術によって消えゆく魔素を自身に服従させる。そして『憑依の呪術』によって切れかける魔素をギリギリのところで繋ぐ。

「死んでくださいませ。」

アニアが暴風を完全に捌いて、押し返し始めた。


「チッ、まじかよォ!」

舌打ちをして、セザールが初めて焦りを見せ、再度の魔素を練り始めた。流石に魔素量が限界に近いのか、二度目よりは魔素強度が弱い。この状況をゼベルトは待っていた。

「緑素:茂り澱む樹々。そんでもっかい、緑素ォ:暴れ狂う風ッ!!」

ゼベルトはセザールの剣を迎撃するだけでセザールの魔詞を止めない。アニアも暴風に全力を注ぎそれどころではなかった。セザールは顔を歪めて笑い、自身の勝ちを予感した。


「魔術:威風ッ!!!」

ゼベルトの至近距離からセザールは極級風魔術を放った。深緑色の魔素による威風が発現する。それは悪戯に命を弄ぶ童にも見えた。


「死ぬのはそっちだ。」

ゼベルトが威風に突っ込んでいく。ゼベルトに触れた魔術は如何に強固に練っていようと、魔法ではない限り、その形を保っていられない。威風がゼベルトの体によって止んだ。

「ハァッ!?」

今までゼベルトが執拗に魔術の対処をアニアに任せた理由が今の状況だった。魔素を完全に持たない者との戦闘経験がセザールには無いと、二人は見抜いていた。強力な魔術を持つ者は必ずそれを切り札として最後まで取っておく。そしてそれを使うときは自身が勝利を確信する時。魔素を持たない弱者であるゼベルトの勝機はそこにあった。ゼベルトの剣がセザールの首に迫る。


「…イ・ヤ・ダァァァ!」

稚拙で悪辣なセザールの声が響くと突然強化された風の鎧によって、首を狙ったゼベルトの剣がズレた。渾身の一撃がセザールの頬と口を切り裂くだけになる。

「ハァ…ハァ…。」

息を切らすセザール。彼の暴風も剣撃も止んだが、ゼベルトとアニアは慎重に距離を取った。今の戦闘中にセザールの身に何か変化が起きた。

「ふざけんなよ、オマエら。俺様は五歳んときに『神風』って呼ばれた天才なんだぞ!! なのにどいつもこいつも俺様をバカにしやがって。なんだよォ、なんで俺様が『七星』の五番に格下げなんだよォ、ふざけんなよォ!!!」

口から血を垂らしながら、セザールは独り言を喚いた。魔素が無くなる寸前だったにも関わらず、また彼の周りに風が吹き荒れ始めた。


「死ねよォ!きったねえ魔族どもがァ!!!」

叫びと同時にゼベルトとアニアは暴風に吹き飛ばされた。二人ともなんとか着地する。

「アニア、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。しかし先ほどの『憑依』で魔素が枯渇気味になってしまいました…。」

ゼベルトも万全な状態とは言えなかった。致命傷は食らってはいないものの、体に傷をいくつも携えていた。

「アイツ、もしかして今、魔術が魔法に変わったのか?」

「おそらくそうでしょうね…。最悪の事態です。」

イザークとヴェンデルの方はまだ決着がついていなかった。敵は人数の減少により、逆に自由に動くことができるようになっていた。加勢は望めない。


「ゼベルト様、私が契縛の呪術で―」

「それは絶対にダメだ。」

今回の戦いでは、アニアに命を賭けさせない。ゼベルトはそう決めていた。能動的に命を賭ける戦いをずっと繰り返していたら、それに頼らなければ勝てなくなってしまう。そして賭けはずっと勝つことのできるものではない。


「だァかァらァ、無視すんなよォ~。でも今なんか俺、めっちゃくっちゃ気分いいわ。やっぱ怒りたいときは怒らなきゃダメだよなァ~?」

セザールの凶風を自身の体中に吹かせる。ゼベルトとアニアは窮地に追いやられた。前方からセザールが不快な笑みを見せながらゆっくりと歩いてくる。

「ゼベルト様。このままでは共倒れしてしまいます。」

「ダメだ。命を賭けるのはダメだ。」

強引に呪術を発動させようとするアニアの手を握って、ゼベルトは魔素を練らせない。母が命を懸けて繋いだ、兄の命を思い出す。その命は儚くも消えてしまった。あの日と同じことは絶対に起こさせない。ゼベルトは自分に誓っていた。

「では、他に方法があるのですか!?」

「無い、 無いけど...。」


「!?」

不意にゼベルトの耳が異音を捉えた。眼の前から迫るセザールではない、背後から高速で近づく獣の音。ゼベルトが振り返ると、その音の正体は止まることなく、セザールに突っ込んだ。


「ニャハハ!! ゼベっちに助太刀っ!!!」


 特徴的な笑い方。特徴的な呼び方。突っ込む音の正体はヴェルニャだった。凶風をまとったセザールに双剣を叩きつけてそのまま吹き飛ばした。

「ヴェルニャさん、 ありがとうございます!!」

「ニャハハ、礼には及ばんよ!!」

ヴェルニャの全身が魔素強化で怪しく輝いていた。獣人の屈強な肉体と魔族の豊富な魔素。その二つがヴェルニャの強さの由来であり生半可な魔術など通しはしない。双剣も短剣を二刀流で扱っているのではなく、直剣をそのまま二刀流で使い、自由自在に振り回していた。


「邪魔すんじゃねェクソ猫もどきッ!」

吹き飛ばされたセザールがヴェルニャに斬りかかる。

「ニャハ、君あんま強くないね。」

猫眼を細くして見つめ、セザールを煽るヴェルニャ。実際ヴェルニャは剣一本で攻撃を受け止めていた。さらに二本目の剣で反撃を行う。

「クソがッ!」

セザールは初めて敵の攻撃に恐怖して後退した。


「ニャハハ! 君ゼベっちとアニアちゃんに追い詰められて、魔族にビビってんでしょ。」

ヴェルニャが間合いを詰めて双剣を振るう。一撃一撃が重い。敵を斬るのではなく、滅ぼさんとする勢いだった。

「ビビってねェよ!」

魔法が覚醒したセザールは何とか風と剣を駆使して、ヴェルニャの攻撃を捌いていく。しかしそれはセザールにとって人生初めての出来事だった。


(俺様が押されてる…。しかもさっきは死にそうになった…。)

恐怖。今まで自分の才能だけで成り上がってきたセザールには無かった感情。魔族など弄び殺すモノのはず、しかし今はそんな魔族に殺されかけていた。

「クソ、クソ、クッソ...。」

着々とセザールが追い詰められていく。ヴェルニャは本能でセザールの不可思議な剣を完封していた。第六感とも呼べる獣族の本能は戦場で無類の強さを誇る。

「凄まじいですね。四天王、序列二位ヴェルニャ。」

「ああ。」

ゼベルトとアニアは格の違うヴェルニャの戦闘を眺めていることしかできなかった。

(俺は弱いな。)

ヴェルニャ以上にフィリアルは強いのかと、戦場の中でゼベルトは心の中で愕然とした。


「ニャハ!! あと三手ぐらいかニャ?」

「クッッッソがァ!!」

ヴェルニャとセザールの戦闘は終わりに近づいていた。明らかにセザールが劣勢。この時セザールは人生で初めて、『逃走』という2文字が頭に浮かんでいたのだった。

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