第31話「イザーク、ヴェンデル 対 勇聖教会『神風隊』」
ゼベルトとアニアがセザールと交戦している間、イザークとヴェンデルも敵小隊と相対する。敵の数は少なく見積もって十五人。イザークとヴェンデルでも真正面からやり合ったら負けることは必然だった。逃げ回って戦う方法もあれど、それではゼベルトとアニアの方に敵が行ってしまう。足止めも二人はしなければならなかった。
「ちっとばかし数が多いですね、ヴェンデルさん。」
「そうですね…。イザーク殿、数十秒ばかり時間を稼いでもらっても?」
執事らしい姿勢のまま、ヴェンデルは片手に魔素を練り始めた。
「了解!」
イザークから小隊に突撃する。
「ほう、かかってくるか。我々は『神風隊』。そして私は旋風の―。」
「うるせえ!テメエの名前なんざ聞いてねえんだよ。弾岩の魔術!」
イザークは敵の名乗りなど無視して魔術を放った。
「まだ名乗りの途中だろうが!」
「ふざけんな!」
「空気読めねえオッサン魔族だな!」
敵もその魔術に反応して攻撃を始めた。幾重もの風の刃がイザークに襲い掛かる。
「オッサンで悪かったな!」
岩壁を発現させて風の刃をイザークは凌ぐ。そして着実に敵との距離を近づける。
(どうせコイツらは魔術を大勢で打つのが集団戦だと思ってるクチだ。近距離でその魔術を使えると思ってんのか?)
イザークは伊達に戦闘経験を詰んでいない。多対少でもあえて近づき敵に制限をかけた。
「ちっ、やるぞ神風隊!」
「お、おう!」
「こいやー!」
掛け声さえもチグハグな神風隊。イザーク一人に各々が武器を振るうが擦りもしない。
「そんなもんかっ?」
黄色系統の魔術を駆使してイザークが立ち回る。岩を壁に、足場に、盾に利用して戦場を掻き乱す。その間にヴェンデルが魔素をさらに練っていく。
「くっそ、おめえら攻撃当てろよ!」
「おい! 俺に当たるとこだったぞ。」
「邪魔しないで!」
神風隊はイザークに攻撃を当てられない状況に焦燥を募らせていった。ヴェンデルが魔素を練っていることも、セザールに加勢することも考慮できていない。
(やっぱアタマがあの様子じゃあ、部下もこんなもんだよなあ。)
立ち回りながらイザークはゼベルトたちが戦うセザールを横目に捉える。良くも悪くも隊長の性格は部下にうつる。魔術や才能という兵器玩具を持っただけの子供じみた集団だった。
「イザークさん、お待たせいたしました。」
「お、待ってました!」
ヴェンデルの掛け声を聞いてイザークは後退する。そしてイザークは自分の眼を疑った。詠唱を長くしていたとは言え、眼前に発現しようとしている魔術は四天王のものと遜色なかった。それだけの魔素を練っても、ヴェンデル本人の掌以外には赤素が漏れ出ていなかった。
「魔術:極炎。」
真紅の炎がヴェンデルの掌から解き放たれた。真紅は小隊を丸ごと飲み込み、燃やし尽くさんと轟々と猛る。敵の声すらも焦し、数十秒後に炎は収まった。
「なるほど…。今のを耐えますか。」
「意外とやるなあ、アンタら。」
イザークとヴェンデルの前に残ったのは三人。男が二人と女が一人。三者三様に反応を見せる。
「し、死ぬかと思ったぜ。」
「…生きてるのか?」
「この悪魔め…。」
自身の魔素を全て防御に費やし、ヴェンデルの炎を耐えていた。
「ふん、神風隊をなめるなよ。俺は旋風の―」
「この僕を追い詰めるとはな。僕は烈風の―」
「アナタたち、後悔しなさい。私は疾風の―」
三人が好き勝手に名乗り始めた。
「あー、分かった分かった。ほら始めるぞ!」
イザークは痺れを切らして、戦闘を再開した。ヴェンデルもそれについて行く。




