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第28話「侵攻防衛戦争開始」

 序列決めの決闘が行われた日から三日後の早朝。魔王座の間にゼベルトとアニアは招集された。覚えたての魔王城内を歩いていく。

「何があったんだろうな。聞いてるか、アニア?」

「いいえ、何も聞いていないですね。」

少しゼベルトは足を早める。この招集は序列20位以上の者たちにかかっていた。ゼベルトは決闘前日からフィリアルと会っていない。そんなゼベルトにとって、フィリアルの状況は魔王軍の状況から判断するしかなかった。二人は魔王座の間に入る。


「全員集まったようだな…。」

ゼベルトとアニアが最後に来たらしい。イザークとレオンが手を振っている。玉座にはフィリアルが座り、その隣にいたプラグマが話し始める。

「事態は急を要する。よって率直に言う。現在、魔王領は危機的状況にある。」

プラグマの言葉に緊張感が走り部屋に冷たい空気が漂う。


「魔王軍南西、イグレブ平原にて人族軍の侵攻が確認された。規模はそこまで大きくないが現地の兵だけでは対処しきれない。よって我ら魔王軍本陣も出向することになった。大雑把に言うと、ヴェルニャとバルトルトが前衛、僕とハンネローレさんが後衛の指揮を取る。今から渡す紙にそれぞれの持ち場を記載している。確認してくれ。」

ゼベルトの手元に紙が浮遊してきた。自身の名前を探しながらざっと眼を通す。他の者たちも紙に眼を通している。


「尚、序列十一位イザークと序列五位メルクル家には小隊と共に『龍の尾道』へ向かってもらう。万が一、敵が攻め入ってきた場合を考えての配置だ。抜かりないよう頼む。」

龍の尾道とはイグレブ山を抜けるための道である。イグレブ山には龍が住み着いており、人族も魔族も中継地にすることの適わない場所だ。しかし山という高台を得るために敵が博打を打つ可能性もあった。

「ちなみに配置は魔王様が自ら選んだ。意見のある者は手を上げてくれ。」

上げられるわけがない。しかしゼベルトは、フィリアルがゼベルト自身を戦う可能性の低い場に配置したのではないかと、少し思ってしまった。


「最後に、魔王様からの御言葉だ。」

プラグマが手をフィリアルに向けて頭を下げた。彼女が玉座から立ち上がる。


「我が魔王としてこの椅子に座ってから三年が経った。そして三年間、我々は魔王領を共に守ってきた。これを防戦一方だと揶揄する者もいるだろう。だが我々は防戦を強いられてきたのではない、防戦を選んできたのだ。」

最初は小さかった魔王フィリアルの声が次第に大きくなっていく。


「三年間の戦いは確実に人族の戦力を削いでいる。その証拠に今回の侵攻は大規模なものではない。今までは敵の方が圧倒的に戦力があった、しかし今は、拮抗している。」

魔王が翼を発現させ、剣を抜いて高く掲げた。王の言葉によって冷えた空気が熱を帯びた。ゼベルトも心に熱を激らせる。言葉遣いは変わっても彼女は変わっていなかった。彼女の瞳が、声が、姿が、言葉が、熱を迸らせる。


「反撃まであと一歩だ。そして我が約束しよう、魔王軍の勝利を。行くぞ、貴様らッ!」

『…ハッ!!!』

王の言葉に強者たちが応えた。





「やっほー。アニアちゃん。」

ゼベルトとアニアが出向のために馬を準備していると、レオンがやってきた。

「ご機嫌よう、レオンさん。」

「もー、そんな警戒しないでよ。アニアちゃん、ボクお兄さんみたいな人好みじゃないからさ。可愛い顔が台無しだよ?」

アニアとレオンが戯れているのをゼベルトは準備をしながら耳で聞き取る。知らないところでゼベルトは少女に好みではないと言われ、少し傷つく。


「口では何とでも言えます。わざわざ来たということは何か理由がありますよね。」

さっぱりとしたアニアの態度にため息を吐くレオン。ゼベルトが世話している馬もそれを真似してか息を吐いた。

「もう、同い年なんだから仲良くしようよー。」

「要件は何ですか。要件は。」

冷たい態度に見えるアニアだったが、ゼベルトの耳には普段聞き慣れない彼女の音が届いていた。なんだかんだ言ってアニアは同性で同年のレオンに気を許していた。


「イザークおじさんのこと、よろしくね。あの人オッサンのくせに時々無理するからさ。」

照れ臭そうにレオンはイザークのことを口に出した。

「…年上好きなのですか?」

「違う!違う! アニアちゃんが頭の中ゼベルトさんで一杯だからってボクもそうだって思わないでよね。ボクは単純に心配してるだけ!」

必死の形相で言うレオン。嘘の音は出ていないよ、とゼベルトはアニアに視線を送った。

「ではイザークさんとレオンさんはどんな関係なのですか?」

単純な疑問でアニアは聞いた。


「どんなって、まあ…親子っていうか…なんというか…。戦地に捨てられた赤子のボクをあの人が拾ってさ、育ててくれたんだよね。ま、最初は男だと思ってたみたいで『レオン』なんていう名前になっちゃったんだけどさ。一応感謝はしてる。ここまで育ててくれたし。まあ教わったのは戦い方ぐらいだけど。」

少し悪態をつくながら説明をするレオンだったが、仕草と表情にイザークに対する優しさが見えて隠れしていた。彼女が照れ隠しに馬を撫でる。

「それで私たちに頼んだと…。」

「ま、ちょっと気にかけてくれるだけで大丈夫だからさ。ほらあの人今年で35歳だし、もう引退も近いからさ。」

軍にいる者たちは基本十代後半から三十代で、三十代後半は老兵と言っても良かった。ヴェンデルが頭に浮かぶゼベルトとアニアだったが、彼は例外中の例外だろう。

「…分かりました。レオンさんも無理しないようお願いしますね。せっかく私たちがイザークさんを気にかけても、貴女が倒れては意味がありませんので。」

「アニアちゃんに言われてもなー。」

苦笑いするレオン、そして内心で首を大きく縦に振るゼベルト。アニアだけ首を傾げている。馬がいななきを上げた。


「ちゃんと、本人にも言った方がいいと思うぞ。」

ゼベルトはうっかり口を挟んでしまった。

「私が言っても聞かないからお兄さんとアニアちゃんに頼んでんの。」

ゼベルトはレオンに苦笑いを向けられてしまった。アニアからも少しジトっとした視線が向けられる。少女の気持ちは分からないなと思うゼベルト。

「ま、戦争っていうのは、戦闘とはまたちょっと違うからさ。アニアちゃんもお兄さんも気をつけてね。」

最後に二人にも心配の声をかけて、レオンは去っていった。

(そうだよな、俺らはこれから戦争をしに行くんだもんな。昨日会って話してたヤツが死んでてもおかしくはない…。)

アニアとレオンの話を聞いて、改めて人族との戦争をゼベルトは意識する。『悪者は全員倒して友達になる』そう言った彼女は何を思い戦争に向かうのだろうか。ゼベルトは早く彼女ともう一度話したいと思った。


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