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第2話「ゼベルトと少年」

「短剣三本、籠手が二つ、魔用石が五つ。しめて銀貨七枚でどうだ?」

「七枚?前なら金貨一枚はいっただろ?」

数日後、ゼベルトは街の雑貨屋兼情報屋で、野営地襲撃の戦利品を売っていた。

「バカ言えお前。今、魔族領がどんな状況か分かってんだろ?魔王が死んで約50

年、魔族の勢いは弱まるばかり、金も食料も土地も少ねえんだ。銀貨八枚。」

店主はそう言い、ゼベルトと交渉を始める。


「それでも銀貨九枚はくだらないだろ。」

「銀貨八枚と銅貨五枚。これ以上は他所行ってくれ。」

睨み合うゼベルトと店主。

「分かった、それでいい。」

ゼベルトが根負けし、戦利品と硬貨を交換する。

「ところで、まだ魔王軍の情報は来てないのか?」

硬貨をしまい、ゼベルトが店主に尋ねる。

「ああ…まだ来てねえよ。なんだ、そんなに魔王軍に入りてえのか。」

「まあな。」

店主がカウンターに肘をつき、訝しむ。

「魔族狩りの人族狩ってりゃあ、生活はできてんだろ? そんなに名誉が欲しいかよ。」

「別に名誉は求めてない。」

店主は『心底理解できんな』という顔をして買い取った品の整理を始めた。

「情報入ったら、そんときは頼む。」

ゼベルトを店主に背を向け、店から出た。


 10年前、魔王が死んで、魔族の繁栄は萎むばかり。ゼベルトが拠点とする、この湖畔の街エカルは衰退する魔族領でもマシな方だった。水運が利用され、情報や物資が行き交う。貧民街や暴徒が生まれていないだけ平和だった。

(とりあえず、今月もなんとかなりそうだな。)

先ほど手に入れた硬貨を一つ指で遊ばせながら、ゼベルトは自身の暮らす貸家に歩いて向かう。

(ん、なんだあの子供。)

人通りの多い道中、明らかに緊張し、眼を泳がせた子供がゼベルトを見つめていた。そして人混みの中、脈拍を激しくしながら、こっちへ近づいてきた。武器を持っている様子はない。そのままゼベルトが突っ立っていると、子供がぶつかってきて、そのまま走り去っていった。ふと我に返るゼベルト。腰に下げていた硬貨の入った巾着袋を取られていた。

「な、あのガキ、怪しすぎて逆に逃しちまった。」

自分の不覚を口にして、ゼベルトは子供を追いかけた。


「おいガキ、人のもん取ったらダメだってお母さんに習わなかったか?」

ゼベルトは数分もしないうちに子供の足音をたどり、子供を捕まえた。

「離せよ!離せよぉ!」

ジタバタと暴れる子供の片手を掴み、ゼベルトは巾着袋を取り返した。

「別に盗みしなくたって食っていけるだろ、お前。なんでこんなことしたんだ。」

子供の服装は比較的綺麗なもので、とても盗みをする装いではなかった。そもそも盗みをする輩自体、この町では少ない。加えて子供の行動から盗みに慣れてないことも明らかだった。

「母さんが病気になっちゃったんだよ! 医者を呼ぶには、金が必要だろ。」

暴れるのをやめた子供がそんなことを言う。飢え死にしない程度には生きられるが、病や怪我を被った際は話が違う。それがこの街の現状だった。

「盗む前に、色々やれることがあるだろうが。」

「どこも雇ってなんかくれないよ、みんな余裕ないんだ。」

十一か十二そこらの子供に金を払って雇うほど余裕のある場所はこの街にはない。

「お前、名前は?」

大きなため息を吐いて、ゼベルトは子供の手を話した。

「母さんが、知らない人に名前教えるなって。」

「あー、じゃあ着いてこい。」

「でも母さんが、知らない人についてくなって。」

ゼベルトは頭をかいて、銅貨を一枚子供に投げる。

「ほら、それやるから、ちょっとついてこい。」

小さくため息を吐いて、ゼベルトは名前も知らない少年を連れ、街の中を行った。


「ねえ、どこいくの?」

ゼベルトは入り組んだ路地の裏や建物の屋根を通って、進んでいく。

「いーからついてこい。なんだ怖いのか?」

「こ、怖くねえよ!」

強がる少年を引き連れて、さらにゼベルトは進んでいった。


「すげえ、街の中にこんなとこあったんだ。」

少年が感嘆する。ゼベルトが連れてきた場所は、街の中の廃墟と、街の外の林が混じり合った場所だった。

「でもここに来て何しろって言うんだよ。」

本日三度目のため息を吐くゼベルト。

「よく見ろ、色々と金になりそうなもんがあるだろ。」

ゼベルトが指差す先には、薬草やキノコがちらほらと生えていた。

「ホントだ!兄ちゃん、よく知ってんな、こんなとこ!」

「音聞けば大体わかる。」

「音…?まあいっか。」

少年は駆け出し、草やキノコをむしり取り始めた。

「何やってんだ俺は。」

再度ため息を吐いて、ゼベルトは少年を見つめた。その後しばらく少年は野草を採取していた。

「ありがとう、えっと…。」

「ゼベルト。」

「うん、ありがとう。ゼベルト兄ちゃん!」

少年は服のポケットを満杯にして、ゼベルトに感謝を告げた。その直後に街の鐘が鳴った。

「そろそろ帰ったほうがいいんじゃねえか?」

「あ、ホントだ。じゃあね、兄ちゃん、ホントにありがとね!」

千切れんばかりに手を振って、少年は帰っていった。

「名前も知らねえのに、俺は何やってんだホントに。」

呆れながらも、少し自分の口角が緩んでいることを自覚するゼベルトだった。


(母さんと兄ちゃんか。)

少年が帰った後、そのまま空き地でゼベルトは剣を振り研鑽を積んでいた。しかし少年の顔と言葉が頭から離れず、剣に力が乗り切っていなかった。あの記憶が蘇りそうになる、深呼吸をして剣を振るう。剣では記憶まで払えず、ゼベルトは諦めて帰ることにした。

(闇雲に魔族狩りを狩っててもダメか? 変な異名が付くくらいにはなったが、魔王軍から声掛けられなきゃ意味ないしな。)

ゼベルトは貸家に戻ってベッドに寝そべり、自分の状況を整理していた。

(明日、ちょっと考え直さないとかもな。)

あの日から三年。そう心にこぼして、ゼベルトは眠りについた。


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