表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/122

第27話「友達になる」

 ゼベルトが眼を覚ました時、眼に映ったものは二つの赤い瞳だった。

「…おはよう、アニア。」

「はい、おはようございます。ゼベルト様。」

自分が起きるまでずっと顔を除いていたのか、それとも起きる直前に顔を除いていたのか、どちらにせよ、ゼベルトは眼を逸らしたくなった。

「体の方は大丈夫ですか?」

そんなゼベルトの内心は知らず、アニアは心配の声をかけた。ゼベルトは試しにベッドの上で上体を起こす。自室に寝かされていたようで、窓の向こうに夕日が見えた。

「ああ、大丈夫。腕のいい術使いに見てもらえたみたいだな。」

「ハンネローレさんが回復魔術をかけてくださったんですよ。」

四天王かつ魔術研究者であるハンネローレの魔術は伊達ではなかった。ゼベルトは意識を失うほどの衝撃を背中に与えられたはずだったが、今は少しも痛くなかった。

「ごめん、アニア。我儘言ったのに、俺の方が負けた。」

「いえいえ、ゼベルト様が無事なら問題ありません。」

頭を下げるゼベルト。アニアは彼の手を握って微笑んだ。


「バルトルト・ベルガーだ。入ってもいいだろうか。」

扉を叩く音と一緒に、ハキハキとした声が部屋の外から届く。さらにゼベルトの耳にはもう一人分の男の音も届いていた。

「どうぞ。」

何事かと思ったが、ゼベルトはバルトルトを部屋に招き入れた。一度斬り結んで、彼が悪い者ではないと確信していた。

「決闘とはいえ、少々やりすぎてしまった。すまなかった。」

部屋に入ってきて、バルトルトは謝った。

「いえ、俺が弱かっただけです。気にしないでください。」

「謙遜を。あと小生はゼベルト殿よりも年下ですので、敬語は構いませんよ。今年で17です。」

オールバックの銀髪をかきながら恥ずかしそうな顔をするバルトルト。どう見てもゼベルトよりもバルトルトの方が年上に見える。アニアもゼベルトも内心驚いた。

「そうか、じゃあ今後ともよろしく。バルトルト。」

「はい! お願いします!」

生真面目な印象を持たれがちなヴォルフだが、心は少年に近かった。

「…それと後ろにいるアンタは何のようだ?」

バルトルトと一緒に入室してきたもう一人の客人にゼベルトは声をかけた。

「…謝罪をしにきた。」

プラグマは真剣な表情で要件を言葉にした。それでもゼベルトとアニアは警戒する。プラグマの今朝の自分達に対する態度は記憶に新しい。

「ゼベルト、そしてアニア・メルクルに対して僕は無礼な言葉をかけた。申し訳なかった。」

プラグマは端的に謝罪の言葉を述べて頭を深く下げた。ゼベルトは自分の耳に送られる音を疑った。彼は嘘をついていない。体の芯から謝罪をしていた。

「…。」

「…。」

ゼベルトもアニアも言葉を失った。決闘に心血を注ぐ原因となった張本人に謝罪をされ、二人とも頭が真っ白になった。

「…まあ、謝罪は受け入れるよ。」

ゼベルトはそれしか言えなかった。アニアは無言のままだ。


「そうか、ありがとう。じゃあ僕はこれから仕事があるので失礼するよ。これからは魔王様のため、お互いに精進していこう。」

扉の閉まる音だけが部屋に響いた。

「プラグマ殿から何か言われたようですな。プラグマ殿は少し、いや大分、魔王様のことになると取り乱しやすいだけなのです。常に魔王様を第一に考えていらっしゃる。貴族関係で腐っていた魔王軍を立て直した魔王様に心底感銘を受けたとか…。まあ、実際のところは本人に質問してみないと分かりませんが。」

苦笑いをしながら、バルトルトが説明をした。

「そうだったのか…。」

「途轍もない肩透かしを食らった気分です。」

ゼベルトとアニアは自分達も少し考え無しだったかもしれないと思った。よくよく考えてみれば過去に魔素を持たない身で自己推薦をしたゼベルトだ。そしてメルクル家の少女と共に、魔王軍に入ってきた。おまけに魔王様の『友人』と自称して。実績は事実でも警戒されて当然だった。『自分に悪意を持つ者が来たら、その者と友達になる。』フィリアルの言葉が頭の中で反響したゼベルトだった。


・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・


 俺の名前はイサマク・イステル、魔王軍序列二十二位の十五歳、独身貴族だ。イステル家は魔王城から西に行った領土を持つ中堅貴族。メルクル家との決闘に勝ち、俺は序列二十位となり上級貴族の仲間入りをする、はずだった。


 決闘の結果は惨敗。初見殺しの不意打ちを行ったにも関わらず、俺は一撃で倒された。俺とメルクル家の決闘の後、凄まじい試合があったようで俺の失態はそこまで目立っていなかった。それでも顔見知りには揶揄われ、後ろ指を刺された。


 やるせなさを感じながら、訓練場へ向かう。昨日の敗北から頭が冴えていない。汚い手を使ってまで、イステル家の序列を上げるのに必死だった日常が途端に馬鹿らしく感じてしまった。

「いやあ、昨日の試合凄かったよなあ。」

「おう、メルクル家があそこまでとは思ってなかったぜ。」

「メルクル家って騎士募集してねえのかな。」

訓練場には先客がいた。昨日の決闘に煽られてか、数人が剣を振っていた。そこに混ざっていくほど俺の心は強くなかった。訓練場とは真逆の方向、魔王場近隣の森に俺は行くことにした。


「ハッ!」

森の中。誰も来ないであろう空き地に、また先客がいた。惚れ惚れするほど実直な剣。魔素強化任せではない、美しい剣を振るう男がいた。ゼベルト、俺が完敗した相手だ。

「…悪い。アンタの場所だったか?」

「!?」

彼が振り返って声をかけてきた。物音は立てていないはず、彼ほどの実力者は気配すらも察知するのだろうか。

「いや、別に俺の場所というわけではない。」

「そうか…。組手でもするか?」

なぜか彼は俺を組み手に誘ってきた。そもそも彼は俺のことを昨日戦った相手だと記憶しているかも分からない。俺のことなんか忘れているかもしれない。

「ほら、行くぞ。」

俺の返事も聞かずに、彼は剣を振ってきた。簡単な組み手。魔王軍の誰もが最初に習う剣術の最も基本的な組み手だった。

「もうちょっと速度上げる。」

剣の動きが速くなる。これを魔素強化無しで彼は行っているのだから恐ろしい。きっと正攻法で戦っても俺は勝てなかっただろう。


「ふう、休憩するか。」

組み手がひと段落すると、彼は水筒を俺に投げて休憩に入った。俺もそれに倣って倒れた木に腰を下ろす。俺は息が上がり汗だくなのに、彼は少し汗を垂らすのみだった。

「イサマク…で合ってるか?」

彼が俺の名前を呼んだ。覚えていたらしい。

「ああ合ってる。昨日は完敗だった。」

「まあ、あれはズルみたいなもんだろ。」

実力者は精神までも鍛えているのだろうか。俺に小言の一つも言わず謙遜をした。

「どうしたらアンタみたいに強くなれる?」

俺は彼に子供じみた疑問をぶつけてしまった。

「…俺は別に武道家じゃないからな。気の利いた答えなんて持ってないよ。」

また謙遜する彼はどこか遠い眼をしていた。


「ただ、俺は強くなって序列を上げようとか、名誉を得ようとか、そういうことは考えてない。強くないといけない理由があったんだ。」

「理由…、聞いてもいいか?」

「言葉にすると少し恥ずかしいな…。まあ、強くならないと隣に居られない人がいるってところか。」

彼はまた剣を振り出した。休憩と言いつつ少し息を整えただけだった。きっと俺の様子をかんがみてくれたんだろう。隣に居られない人、アニア・メルクルのことだろうか。彼の剣は少しもブレていなかった。

「アンタ変わりもんだな。このご時世で誰かのために強くなるやつなんて少数だ。上級貴族はどいつもこいつも自分の保身しか考えてねえ。」

「…嫌なご時世だ、な!」

垂直に剣を振り下ろして、彼は何かを断ち切っているようだった。

「イサマクは何で強くなりたんだ?」

彼の質問に俺は答えられない。

「…何でだろうな。イステル家の序列を上げるためだって昨日アンタに負けるまでは思い込んでたんだけどな。」

「それは…悪かった。」

謝る彼の表情はとても快いものだった。

「ホント変わってるなアンタは。謝るなんて。」

俺も立ち上がって彼の隣で剣を振るう。

「友達になってみようと思ってさ。」

「なんだそれ…。」

結局俺は昼飯時までゼベルトと一緒に剣を振っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ