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第26話「ゼベルト 対 バルトルト」

「両者、準備はいいか?」

審判が場を整える。

「問題ない。」

斧槍を構え、正面を眼差すバルトルト。

「…。」

剣を構え、音に集中するゼベルト。

「はじめッ!」

開戦の火蓋が切って落とされた。


 先に動いたのはバルトルト、斧槍の長さを利用しゼベルトに先制攻撃を放つ。ゼベルトは斧槍の範囲内から離れ、余裕を持って回避する。その余裕から攻撃に転じようと考えたゼベルトだったが、バルトルトの姿勢を見て動きを止める。斧槍という巨大で重厚な武器を振るっても、バルトルトの体勢は少しも歪んでいなかった。

(技量はイザークよりも上だな…。)

ゼベルトはバルトルトの評価を正す。隙を見せた瞬間に斬り飛ばされそうな緊張感があった。バルトルトの猛禽類じみた眼と睨み合う。

(搦手を使ってみるか…。)

シュッという音を鳴らしながら、ゼベルトが投げナイフを放った。服に忍び込ませておいた遠距離武器。アニアお手製の『侵蝕の呪術』付き。

「フンッ!」

ナイフをバルトルトは体で受け止めた。無論、魔素強化を施している。しかしバルトルトの体が呪術により少し緩んで斧槍が下を向く。その隙をゼベルトは逃さなかった。斧槍の間合いから剣の間合いまで踏み込んだ。

「ヌゥンッ!」

迷いなくバルトルトは斧槍を横に振るう。ゼベルトはそれをくぐり避け、バルトルトの横腹に剣を振り抜いた。


『ガギィィンッ!!』


人を斬ったとは思えない音が響いた。ゼベルトはバルトルトから距離を取り、予想していなかった事態を受け止める。ヴォルフはその間に体勢を整えた。

(なんだ今の…。固すぎるだろ。)

動揺を見せたゼベルトにバルトルトは斧槍を突き出した。ゼベルトに必殺の点撃が襲ってくる。

「くっ。」

紙一重のところでゼベルトは回避に成功した。しかしバルトルトの攻撃はまだ続く。

(焦るな、俺。斬れなくても勝つ方法ならいくらでもある。)

連撃を捌きながら、ゼベルトは頭を冷やす。いつも通り耳を澄まして音を頼りに剣を振るい、体を動かす。徐々にバルトルトの斧槍から距離を取って安全圏に戻る。


「あの硬さは魔素強化の域を超えていませんか?」

観客席にて、アニアはイザークとレオン、そしてハンネローレに問う。

「ベルガー家って聞いたことない? アニアちゃん。」

「確か、鉱山業を担う貴族だったと記憶しています。」

アニアは記憶を辿ってベルガー家について思い出した。

「そう、鉱山の貴族家出身なんだよねあの人。だから硬化魔術に適性があったみたいでさ。それが魔法になったらしいよ。」

「硬化魔術っつーのは、鉱夫がツルハシなんかに使うやつだな。」

「それは知っています。」

イザークはアニアに冷たく返された。

「あれは魔素強化による硬さではなく、硬化魔術による硬さだから、剣をも弾くということですね。それでは魔術と魔法では何が違うのですか? 」

「そこらへんの難しい話はハンネローレ先生に聞いた方がいいと思うぜ。」

イザークがハンネローレに話を振った。

「え、えっと。」

急に話を振られてハンネローレは戸惑う。しかし大きく息を吸って説明を始めた。


「魔術と魔法の違いを説明すると難しくなりますが、それは文字通り(すべ)ではなく(ほう)。この世界に対して、術を用いて干渉するのではなく、法を適用させているのです。

 この世界の理が一冊の本に書かれていると仮定します。すると魔術はその本に書かれている文に、自身の魔素で文字を書き加えることに等しいです。一方、魔法はその本に書かれている文自体を、自身の魔素で思うがままに変える行為だと言えます。」

ハンネローレの解答にイザークとレオンは間抜けな顔をして頷く。アニアはある程度理解したがそれでも十割理解したわけではなかった。


「えっと…バルトルトさんを例としますね。まず『世界の理の書かれた本』の中に、バルトルトさんの体の硬さが明記されている箇所があります。その体の硬さが10と書かれていることにしましょう。それに+10と書き足すのが魔術です。その10を100に変えるのが魔法です。こ、これでお分かりいただけたでしょうか…。」

喋り切った後、少し息を荒くするハンネローレ。わかりやすい解説にアニアとレオンは驚いた。イザークは拍手をしている。

「うーん…でも魔術で+100って書けちゃったら魔法より魔術の方が優れてるってことにならない?」

「そ、それができるのは本当に一部の者しかいません。私の知る限りでしたらプラグマさんぐらいです。魔王様はちょっと話が違いますし…。」

一同はハンネローレ先生の解説に頷く。そして決闘場の魔法を持つ者と魔素を持たない者の戦いに集中した。


 ゼベルトとバルトルトの決闘は淡白なものとなった。どちらも慎重に立ち回り、攻撃に転じた際も最新の注意を払ってそれぞれの武器を振るっていた。観衆の声も相まって完璧には聴覚が冴えていない、ゼベルトは賭けに出るのは最後の手段にしていた。

(魔素切れは無さそうだな。魔術じゃなくて魔法か…?となると俺から責めないとジリ貧…。)

ゼベルトは戦闘に置いて基本的に反撃主体の立ち回りをしてきた。それは自信が魔素を持たないため、戦闘の主導権を握れないからである。しかしバルトルトは焦ることなく、冷静に冷徹に徹底的に立ち回る。無理をしない、反撃を喰らわない。その立ち回りは誰よりも堅牢だった。


「一か八か、やるしかないな。」

ゼベルトが言葉をこぼし、一気に間合いを詰めた。一瞬、バルトルトは驚いたがすぐに迎撃体制を取る。長い斧槍で剣の斬撃をいなし続けることは簡単ではない。しかしバルトルトはそれを容易にやってのけていた。

「少々、焦りましたな!!」

連撃を行っているはずのゼベルトが決闘場の隅にジリジリと追いやられていく。魔素強化による剛力を持つバルトルトと身一つのゼベルトでは当たり前の結果でもあった。薙ぎ払う、突き刺す、叩きつける。バルトルトの一撃一撃がゼベルトの精神と体力を削っていく。

「くっ。」

ゼベルトの顔が険しくなる。息も上がり、剣と斧槍がぶつかる音も鈍くなっていた。ゼベルトの奏でていた戦曲は終わりに近づく。


「あちゃー、これはバルトルトさんの勝ちかな?」

レオンは押されるゼベルトを見て客観的な意見を口にした。誰が見てもゼベルトが劣勢だった。

「せ、戦闘において魔素の差はそのまま結果に繋がりますからね…。」

ハンネローレもバルトルトの勝利を予測する。

「そいつはどーかな。ゼベルトの兄ちゃんは何か狙ってそうだが…。」

「イザークさんと被るのは癪ですが、私はゼベルト様を信じます。」

アニアとイザークはゼベルトの策を感じていた。


 ついにバルトルトはゼベルトを決闘場の端へ追いやった。肩で息をするゼベルトを見つめて心の中で賞賛を送る。

(魔素の無い身でよくぞここまで…。)

迷いなく斧槍を突き出す。余力の残っていないだろうゼベルトには不可避の攻撃。

『ガシャン』

剣が床に落ちる音。しかしそれはゼベルトが倒れたからではなかった。ゼベルトがわざと剣を床に落とした。

「ッ!?」

バルトルトが異変に気づいた時にはもう遅かった。息を切らしていたはずのゼベルトの体は俊敏に動き、斧槍の上に飛び乗った。疲弊していた表情すらも罠だった。バルトルトは最速で突きを放たなかったことを後悔する。

(無意識の内に加減をしていたッ!)

ゼベルトが突き出された斧槍に飛び乗る。そして両手をバルトルトの肩に乗せ、宙返りをしてバルトルトの背後に降り立った。


「ぶッ飛べ!!!」

バルトルトの背中にゼベルトは体当たりをかました。ゼベルトが触れたことにより、バルトルトの魔素強化が崩れる、はずだった。

「オォ!!!」

バルトルトが場外寸でのところで足を踏ん張らせる。そして背中からの勢いを利用して体を半回転させ、背後のゼベルトに裏拳を放った。

「ぐはっ。」

ゼベルトが場外に飛ばされる。魔素強化を持つ者と持たない者の非情な力比べ。当然、ゼベルトが敗北する。ゼベルトは吹き飛び、観客席に激突して気を失った。

「…勝者、バルトルト・ベルガーッ!!!!」

審判の勝利者宣言と共に、観衆たちによる今日一番の歓声が弾けた。


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