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第24話「アニア 対 レオン」

 勝者宣言を聞き、アニアのところへゼベルトは戻っていく。

「ゼベルト様、アニアは信じていましたよっ!!」

アニアがゼベルトに抱きつく。騒いでいた観衆たちがさらに声を大きくする。

「ちょっ、アニア、苦しい。」

ゼベルトはアニアを引き剥がそうとするが、彼女の両手は固く結ばれていた。

(まだです。ゼベルト様を汚い眼で見る女共に、誰のモノか見せつけなければいけません。)

イザークに勝ったゼベルトを見直し、貴族たちが眼を変えている。それを察知したアニアは半分牽制でゼベルトを長い間抱きしめる。もう半分はもちろん、ただ抱きつきたいだけだ。


「お熱いねぇ、お二人さん。」

イザークがゼベルトを茶化した。

「そろそろ離してくれないか、アニア…。」

「はい、もう十二分に抱きついたアニアです。」

満面の笑みを見せながら、アニアはゼベルトから離れた。

「いやー、お嬢さん。いい騎士様を見つけたもんだな。完敗だったぜ。」

イザークがアニアに決闘の感想を率直に話した。

「イザークさんも強かったと思いますよ?」

「お、そりゃ嬉しいねぇ。俺もメルクル家に入れてもらえねえか?」

平民から純粋な力量で下剋上を起こしてきたイザーク。彼は十分な戦力になる。ゼベルトはイザークの提案を快く受けようとした。

「それはできません。私の騎士はゼベルト様一人ですので。」

アニアは提案をバッサリと断った。

「おぉう…。頑張れよ、ゼベルトの兄ちゃん。」

なぜかイザークは自分ではなくゼベルトを労った。

「まあ、いつもこんな感じなんでね。」

微妙な顔をするゼベルト。


「ゼベルト様、次はアニアが出陣いたします。応援のほど、よろしくお願い致します。」

「お、次は嬢ちゃんが行くのか。」

アニアが決闘場の中心へ向かっていく。ゼベルトはそれを止めようと手を伸ばす。

「アニア、俺ならまだ―。」

「はい、ゼベルト様なら連戦できることは承知しております。ですが、できるだけ交互に出場して体力を回復した方が合理的かと思います。」

ゼベルトが伸ばした手を優しく握るアニア。

「分かった。俺も信じてるからな、アニア」

「はい、アニアにお任せあれ。」

二人はしっかりと手を握り、お互いの紺色の眼と赤色の目を合わした。

「若いっていいよなぁ。」

イザークが呟いた。



「序列十位、メルクル家。序列五位に決闘を申し込みます。」

決闘場中央で、アニアはどこかにいるであろう五位の者に決闘を申し込んだ。

「まあ、そうなるよねー。」

観客たちが歓声を上げるよりも早く、アニアの背後に彼女と同年代くらいの人物が現れた。紫がかった黒い短髪と端正な顔立ちがその人物を彼か彼女か判断しかねる。

「貴女がレオンさんですか?」

「うん、そうだよ。ボクがレオン。序列五位、四天王挑戦者の露払いってとこかな?」

レオンは悪戯な表情で自己紹介をした。背中には頑強そうな弓、腰には矢筒を携えている。女性用の貴族服を着たアニアとは反対に、レオンは男性用の弓兵服を着ていた。

「貴女自身は四天王に挑戦しないのですか?」

「しないねー、ちょっとあの人たち格が違うから。」

お手上げだよ、と身振りで表すレオン。

「ま、キミには負けるつもりないけどね。イザークおじさんの敵討ち、させてもらうよ。」

「私も、負けるわけにはいけませんので。」

会話は終わり。二人は距離をとり、初期位置に向かっていく。

「そうだ! ボクが勝ったらさ、ボクとおじさんをキミの騎士にしてよ。そしたら色々面倒ごとが減るんだよね。」

「絶ッ対にさせません。」

アニアは絶許の意思を即答した、半笑いのレオンに鋭い視線を向ける。

「ま、とりあえず戦ろうよ。」

「そうですね。その半笑いを泣き顔に変えてあげましょう。」

両者とも纏う空気を変え、決闘の準備が整った。アニアの白髪とレオンの紫髪が揺れる


「実際、嬢ちゃんの強さはどんくらいなんだ?」

「見れば分かる。」

イザークはゼベルトの隣で彼女たちの決闘を観戦することにした。

「生半可な実力じゃレオンには勝てねえぞー?。」

少しイザークが挑発をする。

「見れば分かる。というかイザークさんの親族か? アイツ。」

レオンの魔石角は紫色で一本。大きさがイザークと同じくらいだった。

「いやー、まあ拾っただけだ。」

戦災孤児や魔族狩りに親を殺される者は少なくない。レオンもアニアもゼベルトも皆そうだ。

「じゃあ家族みたいなもんじゃないのか?」

「…レオンはどう思ってんだろうな。」

イザークから中年独特の悲しさが出ていた。彼はそれを振り解くようにご機嫌に声を出す。

「お、始まるみてえだぜ。嬢ちゃんのお手並み拝見だな。」

審判の合図が決闘場に響いた。


 決闘が開始され、最初に動いたのはレオンだった。弓を構える。しかしそこに矢はつがえられてない。その代わり、レオンの指先に魔素が溜まる。

「まずは挨拶から。」

レオンの構えた弓から、魔素によって形作られた紫色の矢が飛ぶ。

「…。」

アニアはいつも通り『侵食の呪術』で魔矢を消滅させた。二人は淡白な挨拶を交わした。再度、レオンが弓を構える。今度は矢をつがえていた。

「ま、そうなるよね。じゃ、こういうのはどうかな?」

魔素を纏った実体のある矢、レオン自身も魔素強化を施した体で打ち出したソレはアニアを貫くべく高速で飛ぶ。

「舐めないでください。」

アニアも魔素強化を施し、血刀を振るい矢を弾き飛ばした。呪術の技量だけではなく、アニア自身の戦闘能力も成長していた。

「術頼りの貴族様じゃないんだね。」

レオンは苦笑いをしながら、今度は矢を一気に三つつがえた。

「三つでも五つでも変わりませんよ。」

空気を裂いて飛んでくる矢をアニアは苦無く迎撃する。

「コレは本気で行かなきゃダメだね。」

ニヤけた顔を真剣な表情に変えて、レオンはアニアを睨んだ。その視線対してアニアは冷酷な瞳を向けていた。


「やるな、嬢ちゃん。」

「見れば分かるって言ったろ?」

アニアとレオンの攻防をゼベルトとイザークは淡白な顔で観戦していた。

「まあ、レオンは本気出してないからな。」

「それはアニアも一緒だ。」

睨み合うゼベルトとイザーク。

「ま、レオンが勝つだろうけどな。」

「はっ、バカ言うな。アニアが勝つに決まってる。」

二人は子供を見守る親のように観戦していた。実際はどちらも血は繋がっていないが。

「行け! レオン! 勝てるぞ!」

(アニア、信じてるぞ。)

イザークは声に出して、ゼベルトは心の中で、二人とも応援を送った。


「まったく、おじさんの声聞くと気抜けるんだけど。」

レオンは呆れた様子でため息を小さく吐いた。

(今、ゼベルト様が私を想ってくださった気がします!)

アニアは喜び混じりの息を大きく吸い込んだ。


「おい!戦えー!」

「レオン可愛いぞー!」

「何突っ立ってんだ!」

「…アニアちゃんも可愛いよな。」

思い思いの声を上げる観客たちが二人を急かす。


「はいはい、今始めるからさっ!」

レオンが矢を放つ。アニアは再度それを迎撃する。

「次はこっち!」

アニアが迎撃した瞬間に全く別の方向から矢が向かってきた。

「それが貴女の、本気ですか?」

その矢もアニアは何とか迎撃した。しかしまた別方向からレオンが矢が飛ばしてくる。レオンの挙動は瞬間移動をしていないと説明のつかないものだった。

「なるほど…。」

アニアは矢ではなく、レオンの立ち位置に意識を割く。するとレオンの足元に魔法陣が浮かび、別の位置へ移動していることが分かった。移動先にも本人より数瞬早く魔法陣が浮かんでいた。それをもとにアニアは別方向からくる矢を迎撃していく。


「転移魔術か? 燃費が悪すぎて戦闘には不向きなんじゃなかったか?」

ゼベルトが分析し、イザークに質問をする。

「流石ゼベルトの兄ちゃん。転移魔術で正解だ。レオンには適性があってな、そこら辺の奴が使う転移魔術とは訳が違うんだぜ。」

イザークが自慢げに解説する。ゼベルトの目線の先では少しずつアニアがレオンに押されていた。

「消費する魔素も少ねえし、何より安定性がある。レオンは事故を一度も起こしたことがねえ。」

転移魔術。文字通り自分の位置や物の場所を入れ替える魔術。しかし通常膨大な魔素量と技術を必要とする。畑から家まで転移魔術で移動しようとして、家の壁に埋まって死んだ者がいるという記録もある。

「レオンは魔術そのものに適性があってな。ハンネローレ先生が言うにゃあ、そのうち魔法化するんじゃないかってな。」

まだ嬉しそうにイザークが解説をする。ゼベルトは聞いた名前の方に興味を持った。

「ハンネローレさんってやっぱり研究者なのか。」

「ああ、本業は研究者だぜ。」

喋る二人をよそに、アニアとレオンの戦闘は激化していく。観客の声が大きくなり、ゼベルトとイザークも観戦に集中する。


「じゃんじゃん行くよ!」

レオンの立ち位置が目まぐるしく変わる。アニアの四方を瞬間的に移動して矢を放つ。時間差で別方向から迫る無数の矢。アニアは言葉を返す余裕を無くした。

(少々まずいですね。)

レオンの猛攻は止まらない。実体の無い魔矢も混ぜられている。

「…くっ!」

ついにアニアの足を矢が掠めた。アニアはさらに動きを封じられ、不利な状況に陥る。

(アレを試すしか無いようですね…。)

アニアは血刀を正中に構え、そこに全身の魔素を集中させる。息を深く吸い、深く吐く。


「憑依の呪術―二代目当主アウレール・メルクル―敬愛なる祖よ、我に宿り、力を貸し給え。」


 アニアが呪詞を唱えた。瞬間、眼前まで迫っていた矢を血刀で斬り飛ばした。纏う雰囲気だけでなくアニア自身の様子が変わる。少女らしく可愛らしかった赤い瞳は吊り上がり、表情が険しい。姿勢も貴族のお嬢様ではなく、貴族騎士のそれに変わっていた。

「ハァッ!」

凛々しい声を上げて、アニアは迫っていた矢を全て斬り飛ばした。ただ血刀に合わせ落とすのではなく、矢を真っ二つに切り裂いていた。

「やるね。じゃあもう一段階難しくしよっか。」

レオンはニヤリと笑い、魔法陣を三つ浮かばせた。

「どこでしょーかっ!」

アニアの見るべき場所が一気に三倍、いや矢を含めるとそれ以上に増えた。

「ここです。」

レオンの揺さぶりにアニアは踊らされなかった。状況が拮抗する。レオンの矢がアニアに届かない。アニアもその場から動くことはできない。お互いの魔素が減っていく。ただそこで繰り広げられている攻防に観客たちは目を奪われていた。


「嬢ちゃんに何が起こってんだ?」

今度はイザークがゼベルトに質問する側になった。

「憑依の呪術。呪物に自分を憑依させたり、自分に呪物を憑依させたりする術だな。」

「じゃあ、アレは何を憑依させてんだ?」

アニアは歴戦の騎士のように血刀を振るっていた。

「メルクル家の二代目当主。呪術はあんまり上手くなかったが、剣術は相当だったらしい。」

アニアは『メルクルの血刀』を媒介にして、歴代当主の特徴を自分に降ろすことができる。呪術使いが武器を家系で継いでいくのは、主にこの術のため。

「そっちのレオンとは違って燃費は悪い。だから早めに決着をつけないとダメだな。」

「なるほどな、じゃあレオンの勝ちかもな。」

イザークは顎髭をさすり、笑った。

「そいつはどうかな。」

ゼベルトはアニアを信じきっていた。そしてアニアとレオンの決闘は佳境を迎えるのだった。

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