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第23話「ゼベルト 対 イザーク」

「審判さん、これ俺の勝ちでいいんだよな?」

場外へぶっ飛ばしたイサマクを指差しながら、ゼベルトは審判に一応聞いておいた。

「あ、ああ。しょ、勝者!!  メルクル家、騎士ゼベルトっ!!」

審判が混乱しながら、勝者宣言をする。静まっていた訓練場もざわめきだす。

「おい、今魔術当たったよな?」

「なんで無傷なんだ?」

「いやでも、服は焦げてるぞ。」


 驚く軍員たちを無視して、ゼベルトは観客席にいるアニアの方へ向かった。

「流石です、ゼベルト様。」

ゼベルトの勝利を確信していたアニアはさほど驚かず、アニアが誇らしげな表情で拍手をする。

「ありがとう。いきなり魔術ぶっ放されて驚いたけど、まあ勝てたよ。剣の腹で殴ったけど、死んでないよな、あれ。」

ゼベルトは誰も回収しないイサマクの体を見る。魔術の中を疾走し、ゼベルトは場外へイサマクを叩き飛ばした。決闘では多少の怪我なら魔術使いたちが応急処置をしてくれる。ただ致命傷は後遺症を引き起こすこともあった。


「おい、アイツもしかして魔術が効かないんじゃないか?」

「どういう理屈だよ。」

「魔素を全く持ってないとか…。」

訓練場はまだざわめいている。魔素を持たないゼベルトの異常さが改めて浮き彫りになった。


「これでメルクル家は二十一位ってことだよな。」

「はい、その通りです、五位に向けて前進ですね。」

二人の四天王になる計画は順調な始まりだった。

「どうしますか、もう五位の方に申し込みましょうか? 原理上可能ですけれど…。」

ざわめく訓練場を見渡しながら、アニアはゼベルトに聞く。

「うーん、なんか肩透かしを喰らったけど、そうしようか。」

「分かりました。」

ゼベルトと相談し、アニアがその場で序列五位に決闘を申し込もうと息を吸ったその時だった。


『序列十位のイザーク、メルクル家に決闘を申し込むぜ!』

野太い男の声が訓練場に響いた。

「今の一戦じゃ魔王軍の示しが付かねえってもんだ、なあ皆んな!!」

イザークと名乗った男は観戦者たちに煽りを入れる。

「おお、そうだ!」

「やったれ!」

「いいぞー!! イザーク!」

観客たちは、まだメルクル家の承認もなしにその気になって盛り上がり始める。

「断れそうな雰囲気じゃないな、これは。」

「そうですね、でも別に気にすることないでしょう。」

ゼベルトは雰囲気に当てられたが、アニアは全く気にしていなかった。

「まあ、さっきのじゃ準備運動にもならなかったし、俺受けるよ。」

「ゼベルト様がそう言うのでしたら、私は何も言いません。」

演奏家の血筋か、ゼベルトは大衆の盛り上がりが嫌いじゃなかった、むしろ好きな方だった。アニアの許可を得て、ゼベルトは再度決闘場の中心へ向かう。


「よお、兄ちゃん。俺はイザーク。さっきみてえにはいかねえからな。」

気前のいい表情でイザークはゼベルトに声をかける。

「ああ、俺もあれじゃつまんなかったところだよ。」

「そうかそうか、じゃ楽しんでくれ。まあアンタに勝って序列一桁に入らさせてもらうけどな。」

二人は会話をしながら、お互いに相手の技量を見積もる。

「アンタならすぐに一桁になれそうだけどな。」

ゼベルトはイザークの身振りを見て、力量を測る。

「いやー、そう言ってもらって嬉しいぜ。でも上級貴族様たちは今の地位を守るのに必死でな、平民上がりの俺とは決闘を組んでもらえねえんだ。」

無精髭を擦りながら、イザークは上級貴族を愚痴る。

「そうか、それは気の毒に。」

「だから全力で行かしてもらうぜ、兄ちゃん。」

イザークが剣を抜き、ゼベルトから距離をとり位置についた。ゼベルトもそれに倣う。

改めてイザークと対峙するゼベルト。

(相手の魔角は一本、黒色で大きめ。魔術師ではないだろうが、おそらく剣と魔術を併用する可能性がある。年は二十八か三十そこら、体は筋骨隆々、剣術も相当。)

分析をまとめ、眼を瞑り、呼吸し、集中するゼベルト。


「両者、準備はいいか?」

審判の声が届く。

「ああ、いいぜ」

イザークが答える。

「ああ、問題ない。」

ゼベルトも答え、決闘が始まった。両者ともすぐには動かない。お互いの息を確認して、慎重に間合いを取る。


「ハッ!」

イザークが剣を振り下ろす。挨拶代わりの一撃。ゼベルトはそれを後退してかわす。

「おいおい、ツレねえな。挨拶もしてくんねえのか?」

「バカ言うな。アンタもう魔素強化してんだろ。」

ニヤリと笑うイザーク。最初の一撃から全力だった。魔素強化の使えないゼベルトが真正面から受けたら致命傷につながっていた。

「じゃ、こういうのは、どうだっ!」

イザークが叫ぶと、ゼベルトの背後に土壁が出現する。ほぼ同時にイザークがまた切り掛かる。ゼベルトは右にかわす。

「次ぃ!」

さらにゼベルトの右に壁ができる。同じく斬撃もゼベルトに迫る。今度はゼベルトに避けるスペースは無かった。初めて両者の剣が交わる。

「っ!?」

「…。」

楽器でも奏でたような音が響き、イザークの剣が弾かれる。ゼベルトは無言で体制を整える。

(おいおい、とんでもねえ技量だな。魔術が効かねえとかいう話じゃねえぞ。)

イザークの魔術を使いゼベルトを追い込み行った攻撃は軽く振り払われた。

(まずいな、挑戦者は俺の方だったか…。)

自分の立ち位置を理解するイザーク。決してイザークも弱いわけではない、それでも距離をとって戦術を変える。

「もういいのか?」

ゼベルトはイザークを煽る。

「はっ、今のを繰り返してたら、負けんのは俺だ。悪いが小細工なしに変更だ。」

イザークから魔素の光が洩れ始める。魔力強化を最大にし、その剛力で力押しを始める。


(流石に察しがいいな。)

ゼベルトの戦術は単純だった。相手の魔素切れ待ち。敵の攻撃を最小限で迎撃し、自分の体力を保つ。そして相手の魔素を切らせ、同じ土俵に引き摺り出す。魔素強化に頼っている者は、それがない状態で全力を出せない。剣さえ思い通りに振れない者も多い。

「すげえぜ、二人とも!」

「行けー、ぶっ飛ばせー!」

「斬り合え、斬り合えー!」

観客も高揚していく。剣と剣の美しい音、観衆の雄叫びが訓練場に響き渡る。

「流石です、ゼベルト様。」

アニアは立ち上がって拍手をしていた。ただゼベルトの勝利を信じきって。


 強烈な攻撃と精巧な迎撃が繰り広げられる。決闘場を縦横無尽に動き、ゼベルトは連撃を回避していく。イザークは避けられていることなど気にせず、何度も必殺の一撃を振るう。決闘を超えた命のやり取りに観衆たちは興奮する。

(決闘だよな、コレ。下手したら俺死ぬんだが…。)

イザークの力押しを絶妙に捌きながら、ゼベルトはイザークの狙いを理解する。ゼベルトが技量で上回っているとはいえ、魔素強化による身体能力向上に差は大きくある。

「オラァ!どうしたっ!」

そのまま受けたら潰れるほどの威力でイザークは剣を振るう。一発でも食らったら、試合終了。

(しょうがない、やってみるか…。)

ゼベルトは覚悟を決めた。イザークもそれを悟り、距離を取る。両者が剣を構える。観衆も次の一合で決着がつくと理解し、静まる。両者がゆっくりと近づく。

「…オラア!」

お互いが間合いに入った瞬間、イザークがこれまでで最速の斬撃を放つ。

(…今ッ!)

眼前に迫る斬撃。ゼベルトは剣を振るわない。剣を持つ右手の力を抜き、そのまま剣の重みに体を従わせ、ほぼ倒れ込むように体制を低くした。

「ま・だ・だァ!」

避けられた剣をイザークはもう一度翻す。

(終わりだよ。)

ゼベルトはまだ剣を振らなかった。空いた左手でイザークの剣を持つ手を叩いた。

「なっ!?」

イザークの魔素強化が乱れる、そして剣が明後日の方向へすっぽ抜けていった。

「俺の勝ちだな。」

剣を放り出し、体制を崩したイザークの首にゼベルトは剣を添える。


『………。』

訓練場は静寂に包まれる。

「しょ、勝者、ゼベルトォッー!!!」

審判の勝利者宣言が響く。

『オオオ―――ッ!!!!』

観衆たちが雄叫びを上げた。

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