第21話「魔王軍序列」
昼食の前、ゼベルトとアニアは、昨日フィリアルが言っていた『プラグマ』に呼び出された。指定された部屋に向かうと、そこには資料や本に囲まれた机に座る、若い美丈夫がいた。貴族服に身を包んでおり、分けた髪の間から美しい紫色の魔石角が二本生えている。服装も高級なもので、椅子の横には高級かつ高性能であろう魔杖が立てかけらていた。
「初めまして。僕の名前は、プラグマ・キシュルネライト、魔王軍序列一位、四天王の一人、加えて事実上魔族領貴族の中で、最も有力な家の次期当主だよ。」
少し鼻につくような態度で、プラグマは自己紹介をした。これがゼベルトとアニアに対する牽制なのか、ただの自慢なのか、二人には判断しづらかった。
「初めまして、メルクル家当主のアニア・メルクルと申します。」
「同じくメルクル家騎士のゼベルトと申します。」
二人も名乗るが、プラグマはゼベルトにのみ鋭い視線を送っており、アニアには眼を向けていなかった。
「ああ、知っているよ。魔王領南端で魔族狩りを殲滅し、エカル領主の裏切り行為を告発した。素晴らしい働きだったと、魔王様から改めて伝えるよう言われたよ。」
「ありがたいお言葉です。」
社交辞令を挟むプラグマとアニア。
「さて、二人を呼び出した本題だが、この後の朝食時に君達を魔王軍全体に紹介しようと思う。食堂で先ほどのように軽い自己紹介を頼むよ。」
「了解しました。」
わざわざ呼び出すほどのことでもないだろうにと、ゼベルトは思った。
「あと、多分君たちは今日決闘を申し込まれるだろう。ある程度、心と体の準備をしておくように、忠告しておくよ。」
また少し鼻のつく態度でプラグマが助言をした。
「心配には及びません、大体のことは把握していますので。」
アニアはそんな態度を気にせず、軽く受け流した。プラグマは気に入らなかったのか、ゼベルトにまた鋭い視線を向ける。
「それではプラグマ様、失礼します。」
これ以上ここにいる必要はないだろうと、アニアは判断して退出しようとする。
「いや、そっちの騎士だけ残ってくれ。僕から聞きたいことがある。」
「分かりました。」
やはりプラグマはゼベルトに対して何かあるようだ。アニアが先に退出し、ゼベルトとプラグマが相対することとなった。
プラグマは片手で髪をかき分け、一呼吸入れると、ゼベルトを睨んだ。
「単刀直入に聞こう。君は、フィリアル様の何だ? 昨日君の名前を聞いたフィリアル様の反応は、今までに見たことのないものだった。正直に答えてくれ。」
先ほど以上に鋭い視線をゼベルトに向けるプラグマ、そこには殺意すらも感じられた。
「友人、ですね。」
その殺意を跳ね返すように、ゼベルトは端的に答えた。
「…友人か。その真偽は置いておいて、僕はフィリアル様に害なす者を許さない。君が何か怪しいことをしたその瞬間に、命は無いと思ってくれ。」
「それはこちらも同じです。俺の友達に害を与えるなら、アンタだって殺しますよ。」
魔王に尽くす貴族の男と、友人に尽くす騎士の男の視線がぶつかり合う。
「魔力も持たない分際で自己推薦をして、魔王軍に入れなかった者が大口を叩くな。メルクル家に体でも売ったか?」
プラグマの煽りにゼベルトは嫌悪を抱き、怒りを露わにする。
「それはメルクル家自体に対する侮辱にもなる。撤回しろ、下衆貴族。」
「撤回するかどうかは、今日あるはずの決闘を見てから決めよう。まあ、君が決闘を受けるかは定かではないが。」
プラグマはさらにゼベルトを煽った。このままこの部屋にいると、プラグマに斬りかかってしまいそうで、ゼベルトは殺意の篭った視線を飛ばしながら、挨拶もなしに退出した。
「ゼベルト様、何があったのですか?」
部屋から出た後、当然アニアが心配に思ってゼベルトに質問する。
「決闘ってこっちからも申し込めるんだよな?」
「はい、そうですが…?」
アニアの質問にゼベルトは質問で返した。
「じゃあプラグマに決闘を申し込もう。で、アイツをぶっ飛ばす。四天王にもなる。」
「何があったのですか?」
再度質問するアニア。
「…色々あった。」
アニアに説明するのも気分が悪いので、ゼベルトははぐらかした。
「なるほど、私も色々察しました。でもゼベルト様、四天王には決闘を申し込めません。」
「え、そうなの?」
歩いている途中、ゼベルトは転びそうになる。
「はい、四天王に挑むには序列五位にならないと行けないそうです。そしてそこから四位、三位、二位と序列を上げていかなければならないといけません。」
「なる…ほど。」
どうしたものかと、ゼベルトは考えを巡らす。
「でも難しいことでは無いと思います。きっと私たちに決闘を申し込む者がいるでしょうし、それらを倒しながら序列を上げていき、プラグマさ…プラグマに決闘を申し込めばいいでしょう。」
アニアが冷静に整理をした。
「よし、じゃあそれで行こう。」
「はい、もし連戦になるようでしたら、私も手を貸しますね。メルクル家としての序列で五位になればいい訳ですから。」
「了解。いつも頼りになるよ、アニア。」
「はい、いつも頼りになるアニアです。」
いつものやり取りを介して、二人は食堂に向かった。
「あ、あの~、お隣座ってもいいでしょうか。」
ゼベルトとアニアが食堂の端の方で昼食を取っていると、誰かが話しかけてきた。
「もちろん、どうぞ。」
アニアが決闘の申し込みを警戒して、顔色一つ変えずに対応する。ゼベルトも決闘の申し込みかと思ったが、彼女の態度や音を見聞きするにそんなことは無さそうだった。
「あ、ありがとうございます。いや、いつもここで食べていて、他のところはいつも皆さんが食べるところなので、助かります。」
「俺たちも貴方の場所を取ってしまったようで申し訳ないです。」
「いえいえ、そんな、あ、謝らないでください!」
アニアの隣に座った彼女は、猫背で眼鏡をかけ、目の隠れるほど長く伸びた、真っ黒な髪が特徴的だった。二本の魔石角も白色で小さく、風貌を見るに、戦闘員ではなく研究者、もしくは魔術師のようだった。肌も病的なほど白かった。
「ぇ…。」
声を漏らし、彼女がゼベルトを物珍しそうに見つめている。
「どうかしましたか?」
アニアがそんな彼女の行動を逃すはずもなかった。
「いえ、あの、そちらの騎士さん、も、もしかして魔素を全く持っていなかったりします?」
恐る恐るという予想で彼女が質問をする。
「よく分かりましたね。」
「なぜ分かったのですか?」
ゼベルトとアニアが物珍しく感じる番だった。
「あ、この眼鏡で大体その人がどの位魔素を持っているか分かるんです。」
彼女が眼鏡を外して、二人に見せる。
「凄いですね。貴方が作ったんですか?」
「は、はい、そうです。いやでも、量産は全然できてないんですよ。材料がどれも希少で、製作に時間もかかりますし、色々と問題も多いんです。」
早口で喋る彼女は、二人が予想した通り、研究者だった。
「もしよければ名前の方を伺ってもいいですか?」
アニアは、彼女が著名な研究者かもしれないと思って、名前を尋ねた。
「は、ハンネローレと言います。き、貴族の方だったんですね。」
「ハンネローレさん、よろしくお願いします。貴族といっても、南端の弱小貴族ですよ。」
アニアが謙遜をする。彼女を囲ってしまえば、メルクル家もといゼベルトの助けになるかもしれないと、アニアは頭を巡らす。
『昼時にすまない、少し注目してくれ! 今日から、新しく魔王軍入りした貴族家がある。メルクル家、自己紹介を頼む。』
ハンネローレとの会話途中に、食堂に入ってきたプラグマの声が響いた。ザワザワとしていた食堂が静まる。
「改めまして、メルクル家当主のアニア・メルクルと申します。今度とも、魔王軍の一員としてどうかよろしくお願いいたします。」
「同じく騎士のゼベルトです。よろしくお願いします。」
アニアとゼベルトがその場に立ち、自己紹介を済ませる。当主という割には幼い少女と一人だけの騎士を見て、周りが驚く。
「さあ、新しい仲間が入ってきたということは、当然序列決めをしなければならない。個々人で申し込みをするのもいいが、手続きが面倒だ。申し込むつもりのある者は、今ここで申し込んでくれ。」
これ見よがしに、プラグマは決闘の申し込みを募った。食堂が再度静まる、それぞれが出方をうかがっている。その静寂を一人の男が破った。
「魔王軍序列二十一位イサマク・イステル、アニア・メルクルに決闘を申し込みます!」
起立、そして挙手をし、イサマクと名乗った男が決闘の申し込みを表明した。
「おー、アイツ行ったぞ!」
「確か前、防衛二回達成してるよな。」
「でもメルクル家って魔族狩り全滅させたんじゃなかったか?」
「勝てんのかー?」
食堂にいる軍員たちが野次を飛ばす。
「静かに! アニア・メルクルはこれを承認するか?」
プラグマが音頭を取る。
「はい、承認します。決闘に出場するのは私の騎士、ゼベルトです。」
アニアは即答し、隣に立つゼベルトに手を向け、ゼベルトが決闘に望む旨を示した。
「ふん、いいだろう。望むところだ。」
イサマクも腕を組み満足そうに頷き、それを承認した。




