第17話「カルラ」
翌日の夜、ゼベルトとアニアは二人でカルラの家へ向かった。
「こんばんは、カルラさん。私はメルクル家当主のアニア・メルクルです。」
「改めまして、メルクル家の騎士、ゼベルトです。」
家の入り口で、畏まった挨拶をする二人、対してカルラの表情は芳しくない。
「こ、こんばんは、どうぞ中へ。」
明らかに不安そうなカルラに連れられて、二人は家に入った。
「息子が寝ていますので、できるだけ小声でよろしくお願いします。」
カルラが一昨日と同じように席につき、机を挟んで二人と向き合う。
「カルラさん、単刀直入にお聞きします。エカル領の領主、エカル・ルーガー・ディルクは秘かに人族と商業的交流を行っている…、違いますか?」
一切の間接的証拠も提示せずに、カルラにアニアは質問した。
「はい、行っています。」
驚くほど簡単にカルラがその事実を認めた。ゼベルトは耳を澄まし、アニアに目配せをした。
「では、その直接的証拠を手に入れるための手段はありますか?」
アニアは変わらず真っ直ぐに質問をする。
「ただの給仕の私には重要な文章などの在処は分かりません。ただ、給仕は屋敷の万能鍵を持っていて、その鍵でも開かないのが、領主様の部屋にある机の棚です。そこに何か隠されているのではないか、と給仕の間では噂になっています。」
声を震わせながら、カルラが話した。アニアがさらに質問を投げかける。
「給仕である貴方が、なぜ領主の人族との交流を知っていたのか、教えていただけますか?」
カルラが唾を飲み込む。
「実は…、一年前に領主様はご家族を人族に殺されています。それから領主様は人族に執着するようになりました。そして事件から半年ほど経った頃、人族が屋敷に来ました。」
冷や汗を顔から垂らしながら、カルラは話を続ける。
「もちろん、私たち給仕は口止めをされましたが、庭師である夫が、魔王軍に密告しようとして、殺されました。それから領主様に逆らおうとする者はいません。」
涙を垂らし、手で顔を覆い、カルラを唇を噛み締めた。
「辛いことを話させてしまい、申し訳ありません。私たちはそんなエカル領主を魔王軍に突き出すため、動いているんです。」
ゼベルトが深く頭を下げて、話を続ける。
「ですので、カルラさん。私たちにご協力していただけませんか? 必ず貴女の旦那様の無念をはらします。屋敷の警備が手薄になる時間帯などを教えていただきたいのです。」
アニアがとても優しい声でカルラに問いかけた。
「…もちろん、協力させていただきます。警備が薄くなる時間帯は―。」
カルラが二人に有益な情報を話し出す。夫の雪辱を果たすためか、カルラはすらすらと情報を二人に話した。ゼベルトもアニアもそんな彼女の話を一度も遮らなかった。
「ご協力ありがとうございました。」
夜が更け切るあたりで、ゼベルトとアニアは帰ることした。
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。」
カルラは頭を深く下げて、心底辛そうな表情をする。
「大丈夫です。カルラさんは何も心配しないでください。旦那様の無念も、テオ君の安全も、全て俺たちが何とかするので。」
ゼベルトが腰に手を当てて、あのときの彼女のように宣言した。
「それは…ありがとうございます。」
カルラは今日初めて感謝の言葉を述べた。表情にも安堵が少し見えた。
「それでは良い夜を。」
アニアが最後に挨拶をして、二人は宿に帰った。




