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第14話「鍛錬と休息、そして狩り」

「おはようございます、ゼベルト様。昨日はありがとうございました。」

苦戦を強いられた翌日、これまで通り、アニアは朝食の時間に起床してきた。

「おはよう。体の方は大丈夫なのか?」

「はい、元気いっぱいです!」

やけに明るいアニアだったが、顔色はあまり良くなかった。


「アニア、ヴェンデルさん、一週間ぐらい休暇を挟まないか?」

ヴェンデルの淹れた珈琲を飲みながら、ゼベルトは提案した。

「私の体は気にしなくてもいいのですよ?」

アニアがまた明るく振る舞う。

「いや、休もう。メルクル領内の魔族狩りは狩切ったことだし。それに…、俺たちの力不足も見えたわけだしな。」

ゼベルトが理由をつけて、アニアを説得する。

「私もゼベルト殿に同意ですな。急いて事を仕損じてはては本末転倒です、アニア様。」

ヴェンデルが賛同した。

「…確かに、その通りですね…。」

「だろう? 俺たちの鍛錬期間も含めて、少し休憩しよう。」

「分かりました。」

いつも通りの声に戻ってアニアが答えた、やはり強がっていたらしい。

「ヴェンデルさん、明日から少し稽古をつけてもらってもいいですか?」

「私もヴェンデルに教わりたいことがあります。」

「もちろん、お任せください。」

朝日照らす食卓にて、三人は休暇と鍛錬を約束した。


 朝食を食べた後、ゼベルトとアニアは居間でくつろぎ、ヴェンデルは掃除を始めようとしていた。

「そういえば、あいつらが持ってた情報って何だったんですか?」

ゼベルトが思い出してヴェンデルに聞く。

「ああ、私もすっかり忘れていました。今取ってきます。」

ヴェンデルも六人相手は流石に疲れていたらしい。

「情報ですか?」

アニアは眠っていたため、情報のことを知らない。

「昨日狩った奴らが…何か持ってたんだけど。」

「なるほど。」

ゼベルトも情報が一体何なのか知らなかった。


「お待たせしました。」

ヴェンデルが戻ってきた。

「あの二人が報告書らしきものを持っていました。その内容をまとめると…。」

ヴェンデルが紙をゼベルトに手渡す。それをアニアも覗き込むようにする。

「彼らが言っていた通り、勇聖教会から我々を始末するよう指令が出ていたのは事実でした。そして次が重要です。魔族と思わしき者との交渉、それを隠蔽する指令も出ていました。」

ゼベルトも紙を読んで、その情報が間違いないことを確認した。

「やりましたね!! ゼベルト様。」

ただでさえ距離の近かったアニアがさらに体をゼベルトに寄せた。

「…そうだな。」

アニアの頭を手で押し返すゼベルト、アニアはそれでも嬉しそうにしている。


「でも当然人族側もこの情報がバレたと分かったら、もう手掛かりを残してくれないんじゃないか?」

ゼベルトが冷静に考える。

「しばらくの間、もう人族は動かないでしょうね。」

アニアも冷静に思考を巡らす。

「いえ、しばらくの間と言っても、それこそ私たちが休んでいる間ほどでしょう。」

ヴェンデルが推測する。

「それは何故ですか、ヴェンデル。」

「その紙に掛かっていた隠蔽の魔術は相当に強固なものでした。私にも解けないほど。」

後はわかりますね、と言わんばかりの顔をするヴェンデル。

「なるほど、人族側はゼベルト様の体質を知らない。だから隠蔽が破られたことを視野に入れない。多少警戒しても、それは数日で終わるということですね。」

アニアがヴェンデルの言いたいことを汲み取った。


「そして、おそらくもう一度人族はその魔族と交渉を始めようとする。その際に私たちが狩りを行い、核心的な情報を得ればいいわけですね、流石ゼベルト様です!!」

興奮して再度ゼベルトに体を寄せるアニア、また頭をゼベルトに押し返された。

「まあ、何か上手くいったってことで…。」

「展望は明るいですね。ということで私は掃除に戻ります。」

ヴェンデルが掃除を始める。アニアが微妙にゼベルトにくっつこうとする。

「あ、俺も手伝いますよ。」

逃げるゼベルト。

「では、私も手伝います。」

追いかけるアニア。結局三人で掃除をすることとなった。



「破ッ!!」

ヴェンデルの声が響き、ゼベルトの剣がブレる。その一瞬が見逃されるはずなく、ゼベルトはヴェンデルの剣に倒れた。ヴェンデルと手合わせをしていたが、まるで歯が立たなかった。

「流石に…勝てないですね…。」

息を切らし、ゼベルトは庭の地面に這いつくばる。

「今のゼベルト殿の実力は、場慣れした者よりは強く、死線を抜けてきた者に一歩及ばないといったところですね。今現在は達人、目指すは超人、そんなところです。」

ヴェンデルがゼベルトに手合わせの評を告げる。

「はい…、前の戦いもそうですけど、一歩足りません。そして対策されると露骨に弱体化する。俺は聴覚に頼りすぎなのかもしれません。」

ゼベルトの剣術は決して粗雑なものではない。魔素強化のできない自分の体質を理解し、基礎基本に徹底された実直で堅実なものだった。


「しばらく、これを着けて訓練するのはいかがでしょうか。」

ヴェンデルがゼベルトに耳栓を手渡した。

「単純な方法ですが、聴覚のみに頼らず、より強くなる方法としてはこれが手っ取り早いかと思います。敵の音だけでなく、自身の音も聞きづらい、その状況下で私に一撃を入れられるのであれば、十分超人と言っていいてしょう。」

「分かりました。」

すぐに耳栓をはめて、ヴェンデルと向き合うゼベルト。木剣がぶつかり合う音が鈍く響く。


「アニア様はそのまま、魔力を練り続けてください。」

ゼベルトを相手取りながら、アニアも指導するベンデル、まさに超人。

「はい…。」

眼を瞑り深呼吸をして、アニアは両の手ひらに魔素を巡らしていた。アニアの課題は単純な魔素増加とより高度な呪術の習得だった。

「…。」

愛しのゼベルトの手合わせを見られない憤りを感じながら魔素操作に集中する。神経を使い、立っているだけでもアニアは疲れていく。


「破ッ!!」

「…っ!」

ゼベルトが再びヴェンデルに倒された。実力の差は明白。

「お二人ともの休暇と鍛錬。今日も全力でご指導させていただきます。」

ヴェンデルは二人が立てなくなるまで鍛え続ける。極度の鍛錬と極上の休息が繰り返される日々が始まった。


・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・


 鍛練と休息を繰り返す数週間の後、ゼベルトたちは久々に狩りを始める。予想通り、人族たちは魔族領近縁の森の中で、魔族狩りの準備をしていた。

「懲りない奴らだな。」

ゼベルトが人族たちを崖上から見下ろす。『七星』と名乗った奴らが死んでも、また魔王領に侵入して、魔族狩りを行おうとしていた。

「私たちの鍛錬の成果を見せるときです。ゼベルト様。」

ヴェンデルは狩りに参加しない。アニアとゼベルトが作戦も無しで、真正面から人族を相手取ることになっていた。

「行くぞ。アニア。」

「はい、貴方となら何処へでも。」

崖から野営地へ、ほぼ落ちるように駆けていく。見張りが声を上げているが、そんなことは気にしない。眼に入った敵から随時排除していく。

「敵襲!敵襲!」

装備を着込んだ者たちがでてくる。認識阻害のかかった鎧。おそらくゼベルトへの対策だった。


「芸がないな。」

音を聴くことのできない敵たちが、大人数でゼベルトに切り掛かってくる。しかしその刃はゼベルトに届かない。ヴェンデルとの鍛錬で、ゼベルトの剣術は超人の域に達していた。人族の悲鳴、剣と剣のぶつかり合う音が、洗練された音楽のように響き渡る。

「流石です、ゼベルト様。」

ゼベルトが場を荒らしている際に、アニアが魔素を練る。

「服従の呪術。骸たちよ、我が騎士となれ。」

アニアが唱えると、ゼベルトの剣に死した人族たちが立ち上がり、虚な目で剣を降り始める。

「なっ、何だよ!これ!」

「悪魔だ…!!」

敵が恐れ慄く、戦闘を放棄する者もいる。アニアが死者を操り、敵を殺していく。言い逃れできないほどの悪行。まさに死者への冒涜。

「ご機嫌よう、そして皆様、左様なら。」

呪詞さえ唱えずに、アニアが魔素を振るう。その魔素に触れた者は膝から崩れ落ち、物を言わぬ生き人形と化す。それをアニアが血刀であの世へ送る。

(俺も負けてられないな。)

ゼベルトも戦闘の強度を一段階上げる。斬る躱す防ぐ、斬る、斬る、斬る。ゼベルトの通った道に死体が倒れていく。


 これまでの狩りの中で、敵の数は最も多かった。しかしゼベルトとアニアの一方的な殺戮により、これまでの狩りの中で、敵の数は最も早く潰えた。

「流石です。ゼベルト殿、アニア様。」

ヴェンデルは想像以上だった二人の成果に拍手する。

「ヴェンデルさんのお陰だよ。」

「私もゼベルト様と同じ思いです。良い指導に感謝します。」

あれほどの殺戮を行なっても、二人の体に血はほとんど付いていなかった。それほど二人の力量は上がっていた。

「ありがとうございます。」

深くお辞儀で賛辞に答えるヴェンデル。

「代わりと言っては何ですけど、情報探索の方はお願いしてもいいですか?」

「もちろんです。」

ヴェンデルが戦場の方へ情報を求めて駆けて行った。


「ああ、ゼベルト様、私なんだか疲れてしまいました。肩を借りてもよろしいですか?」

わざとらしく息を吐き、足をゆらつかせ、アニアがゼベルトに寄りかかった。

「いや、そんなバレバレな嘘通じないからな。」

ジト眼をしながら、ゼベルトがアニアを押し返す。

「あんまりこういうこと言いたくないけど、絶対俺の方が疲れてるしな。」

戦場を優雅に歩いていたアニアと比較すると、ゼベルトは縦横無尽に走っていた。

「それでしたら!! 私が肩を貸しましょうか?」

休暇と鍛錬を挟んで、さらにゼベルトを溺愛するようになったアニア。

「…やっぱりヴェンデルさんに任すのも酷だし、俺も情報探し手伝うか…。」

ゼベルトはというと、どう対処していいかわからず、いつもこのように逃げていた。

「私もお手伝いします。」

アニアはそれでも全くしょげなかった。


 こうして、鍛錬と休息を挟み、剣術と呪術に磨きをかけたゼベルトとアニア。魔族領境界線付近の魔族狩りを狩り尽くすべく、二人は半年ほど狩りに集中するのだった。

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