第11話「魔族狩りを狩る」
「おはよう、アニア。」
「はい、アニアです。おはようございます。」
ゼベルト、アニア、ヴェンデルは三人で朝食を囲む。
「朝食の後、お時間よろしいですか?ゼベルト様。」
「大丈夫、これからどうするかって話だよな。」
「はい、その通りです。」
パンにジャムを塗って食べる、貴族らしい朝食を堪能するゼベルト。
「ゼベルト殿、珈琲は要りますかな?」
ヴェンデルが珈琲を淹れていた。
「お願いします。」
「ヴェンデル、私にも。」
「はい、わかっております。」
ゼベルトがヴェンデルに、ヴェンデルがアニアに、アニアがゼベルトに、三すくみのように敬語を使う空間はなんとも言えない不思議さがあった。
「それではゼベルト様、メルクル家の今後の展望ですが…。」
朝食を終えた後、三人はそのまま卓を囲い、話し合いを始めた。
「魔族狩りを狩り尽くしましょう。」
端的にアニアが述べた。
「つまり、俺は今までと変わらず同じことをすればいいってことか。」
「そうなりますね。」
ヴェンデルが食器を片づけ始める。話はそんなにややこしいものではなかった。
「メルクル家は魔王領の南端にあります。周囲には人族の魔族狩りがウヨウヨいます。」
本当に害虫を見るような顔で、アニアは話を続ける。
「それらを一掃してるうちに、人族と手を組もうとした輩も見つかると思います。」
「ガルドが言ってた奴か…。」
「はい、彼一人で人族と手を組むとは考え難いのです。もっと大きい影が背後で蠢いていると予想できます。実際、私たちメルクル家も襲われており、人族側に有利な情報を流している輩がいると判断するのが妥当かと思います。」
ゼベルトは腕を組み、頭の中をまとめる。
「魔族狩りを掃除しつつ、魔族の裏切り物を探す。その功績で魔王軍にメルクル家ごと入る。こんな感じの解釈で合ってるか?」
「はい、問題ありません。流石ゼベルト様です、理解がお早い。」
小さく拍手をしてゼベルトを讃えるアニアだった。
「失礼します、御二方。」
食器を洗っていたヴェンデルが戻ってきて、卓に地図を広げた。
「こちら、メルクル家周囲の地図になります。バツ印をつけているところに、魔族狩りがいることは確定しており、丸印の方は可能性のある場所になります。」
「準備が早いな。」
ゼベルトは驚く。
「アニア様が囚われている際、これで効率的に救出しようと思っていたのです。」
「なるほど。」
「ゼベルト殿、アニア様を助けて頂いたこと、再度感謝したします。」
ヴェンデルが深く頭を下げた。
「どういたしまして、ヴェンデルさん。」
謙遜するのも不敬かと思い、ゼベルトは素直に感謝を受け取った。
「それではゼベルト様、明日狩りに出ようと思いますので、今日はゆっくりと準備をいたしましょう。」
アニアが話をまとめ、三人は狩りの準備に移った。
メルクル家の倉庫で三人は装備品を物色する。
「ゼベルト様は兜を付けないのですよね。」
「ああ、音が聞こえにくくなるからな。」
「音ですか、単純に視野を広くするためではないのですね。」
アニアが腕を組み、首を傾げる。
「俺は耳が良くてね、アニアの心臓音も聴こうと思えば聴けるよ。」
耳を指で叩くゼベルト。
「なるほど、聴覚が精巧な剣技を裏打ちしていたのですか。」
ヴェンデルが付け加え、アニアも頷く。
「アニアも頭に何も装備しないんだな。」
「はい、術使いは基本視野を遮ることはしません。魔素の扱いに視覚が大きな影響をもつので。」
剣士でも魔術を使うからという理由で、頭に装備をつけないことが多い。
「じゃあ、お互い装備はこんなところかな。」
魔獣の素材で作られた騎士服と貴族服を体に合わせ、ゼベルトとアニアの準備はほぼ完了した。
「ゼベルト殿、アニア様、もしよろしければ、武器の手入れをしましょうか?」
ヴェンデルが最後に提案する。
「いや、俺は自分でやるよ。ちょっと特殊な刀身だし。」
自分の長剣とも短剣とも取れない刀身の剣を見つめるゼベルト。魔素を持たないゼベルトは魔素身体強化ができないため、魔族にとって一般的な刀身の剣を扱うのに苦労する。
「私も自分でします。呪具ですから、自身で手入れした方が良いでしょう。」
呪具は性質上、使用者が触れるほど威力を増す。
「御意に。それでは、移動の支度と現地での段取りを確認して、準備の完了としましょうか。」
そうして、明日へ備える三人だった。
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「絶好の狩日和ですね。」
翌日、空は晴れ渡っていた。森の中、眼前には魔族狩りの野営地が見える。
「では、私とヴェンデルが真正面からぶつかりますので、予定通り後方からゼベルト様は当たってくださいませ。」
血刀を携えたアニアと掌に魔素を溜めたヴェンデルが、そのまま野営地に向かっていく。
「了解。」
晴れ渡る空の下、人族の断末魔が響き渡る。一人、また一人とアニアの呪術とヴェンデルの魔術により生き絶えていく。
(さあ、俺も仕事しないとな。)
眼を閉じ、あの日を思い出し、息を吐く。ゼベルトも一人ずつ剣に伏していく。この狩りの長所は、雑兵を軽く処理している間により強い兵を背後から不意打ちで殺せること。
(こんなもんか、前の野営地より規模も小さいしな。)
血と肉の焦げる匂いが野営地に充満する。
「ゼベルト様、早かったですね。」
「そっちもな。」
一時間もかからず、野営地は壊滅した。
「一人、生かしておきました。ヴェンデルに尋問は任すつもりですが、いかがいたしますか?」
アニアが頬の血を手巾で拭いながら、ゼベルトに聞く。
「俺も少し参加するかな。嘘言ってるかどうか、聞けばわかるから。」
「そうですか。では私も少し見学いたしましょう。」
二人でヴェンデルが拘束している人族のところへ歩く。
「おい! 助けてくれ、なあ! 死にたくないんだ、おい!」
目隠しをされ、木に縛られた人族の男が声を張り上げている。
「他の魔族狩りの動向、人族と手を組んだ魔族、これらについて素直に答えたら楽に殺そう。抵抗するならば、抵抗する気も湧かないようにしてから殺す。」
ヴェンデルが冷たい声で尋問を始める。
「ふ、ふざけんな!どっちみち死ぬだろうが、なあ助けてくれよ! そしたら…。」
人族の足にゼベルトの剣が走る。悲鳴が響く。
「魔族狩りをしておいて、自分達が狩られる側になったら命乞いか。狩られる覚悟も無いくせに狩人名乗ってんじゃねえよ。」
再度、ゼベルトは剣を振るう。
「ゼベルト殿、その程度でお願いします。此奴が死んでしまいますので。」
「ああ、悪い。やっぱ尋問は任せるよ。」
「ゼベルト様、馬車に戻りましょうか。」
アニアとゼベルトは馬車に戻った。
(憎んでないと言っても、やっぱり目の前にすると怒りが抑えられないな…。)
ゼベルトは自分の心に濁る殺意を改めて認識する。
「あんなに殺すのは初めてじゃないのか?アニア。」
「はい、初めてです。けれど特に何も感じませんね。」
ケロッとした表情をするアニア。それどころか、ゼベルトに名前を呼んでもらい、心配もされてご機嫌のようだった。
「そうか、ならいいんだが。」
ゼベルトは安心するとともに、アニアに潜む危うさのようなものを感じる。
「虫と変わらないですよ。私たちの生活を脅かす害虫。益虫であるなら慈悲をかけることもあるかも知れませんが。」
アニアはそう言い切って、深まりきった赤い眼をする。
「そうか、頼もしいな。」
自分はどうだったか、振り返るゼベルト。初めて人を殺した時、吐いた気もするし、なんともなかった気もする。あの日から自分を動かす原動力は一つ、それに近づくことさえできれば、人の命なんてゼベルトにとっては軽いのかもしれない。
(あいつに怒られるな。)
『人族とだって友達になれる。』そんなことを言っていた彼女に逢うために、彼女の想いと反対のことをする。そんな矛盾に突かれながらも、ゼベルトは血のついた剣を手入れするのだった。




