第98話「死合う者」
武闘国家オーディロダム。王城の外れにある砂浜で男が一人海を眺めていた。腰に曲刀に似た細身の剣を携え、波に裸足を浸らせている。彼の頭には黒髪の間から白い二本の角が生えている。しかしそれは魔石角ではない。彼は亜人族の一つ、鬼族だった。渋みのある顔で行っては帰る波を眺めていた。
「どうしたのだ? 一人で海を眺めるなど。何かあったか?」
海を眺める男に人族の女が一人、声をかけた。赤髪を伸ばし、頭の後ろでまとめるその姿、そして腰に携えた細剣が彼女も武人であることを表していた。
「何、少し感傷に浸っていただけでござるよ。」
男が答える。
「ここに流れ着いてから、長い時が経ったなぁと。」
「そうか、確かにそうだな。」
女も靴を脱いで男の隣に立ち、波に裸足をさらす。
「リュウシンという名と、そのカタナだけを持ったお前が王国近衛騎士になるなど、誰も思いはしなかっただろう。無論、私もな。」
「ははは。その男に助けられたのはお笑い種であるな。」
「やめろ、恥ずかしい。このシャルロット・クラウディス一生の恥だ。」
女の名はシャルロット。武闘国家オーディロダムの姫君。赤髪の長髪を頭の後ろでまとめている。その容姿は精巧かつ美麗。彫刻のように美しい。女傑と呼ぶにふさわしい容姿だった。
「恥でござるか…。」
「い、いや。あの事件でお前に逢えたのだから、悪いだけのことでなかった、ぞ?」
シャルロットは顔を赤らめてリュウシンの手を握った。
「はは、そうか。なら良かった。」
事件とは以下のもの。シャルロットが城の外を一人で歩いている時に、不覚を取られ、野党に囚われた。その囚われの姫君を浜に流れ着き、剣の腕で有名であったリュウシンが助けたのだった。そこからリュウシンはその事件解決と剣の腕を買われ、王国近衛になったのだった。そして二人が恋仲になるまで長い時間がかからなかった。
「今度の決闘。あれは我が国の問題だ。お前は、リュウシンは命をかけなくてもいいんだぞ?」
手を握ったまま、か細い声でシャルロットは言った。
「いや、拙者も出るでござるよ。女子であるシャルロット殿が戦うのなら、王国近衛である拙者が出ないわけにはいかまい。」
握られていない手の方で、リュウシンはシャルロットの頬を撫でた。
「そうか…。」
「それに、拙者はシャルロット殿、そして王国の民が暮らすこの国が好きだ。好きなもののため、命を張らぬ男がどこにいる。」
笑顔を見せるリュウシン。
「そうか。ただ敵は魔族。簡単な死合いにはならないだろうな。」
対照的に曇った顔をするシャルロット。
「うむ、だからこそ全身全霊を賭けて、この国を護ろうぞ。」
なおも快活に笑うリュウシン。それに釣られ、シャルロットも笑った。波の音が響く浜にて二人は守護を誓って抱き合うのだった。




