2 『ゴーストタウン』
空が白く光を放つ。もう夜明けが近いのだろう。
車を走らせる事数時間。枯れた木で囲まれた道路を走る。
「この辺りのはずだ」
地図を確認しながら更に車を走らせると、見えてきたのは霧に包まれた街だった。
車を止める。
ライトをつけていても霧で先が見えない。
それに、昼間なのにどこか薄暗い。
スマホを車から取り出し、親父のメルヴィンに電話をかける。
「おう、ヘンリーか」
「親父、見つけた」
電話の向こうから驚いた様子が感じ取れる。
「本当か⁉︎ 俺も昔に行ったんだが、見当たらなくてな。話しは本当だったか」
「そうかもな、ビデオにして映そうか?」
「あぁ、頼む」
俺の提案に親父は喜んだ。
ビデオをつけ、親父にも見せてやりたかった。
「どうだ?見えるか?」
「いや、何も映ってないぞ・・・」
親父は困惑した様子で画面を見つめる。
「なら、何が見えてる?」
「ただの森だ。緑が沢山見える」
森?嘘だろ。 緑なんて一つもない。
「そんなバカな・・・」
「嘘じゃないぞ」
親父は嘘をついていない。
それは表情や声色からわかった。
「なら、帰ったら話をするよ」
「おう、聞かせてくれ」
そう言って電話を切り、ポケットにスマホを押し込む。
車のトランクからハンドガンとショットガンを取り出す。
ハンドガンは腰とズボンの隙間に押し込み、ショットガンは紐で肩からかける。
「行くか・・・」
車から災害時用に用意しておいた懐中電灯を取り出しライトをつけ、予備の電池を尻のポケットに押し込む。
歩き出し、街に入った瞬間、雰囲気が変わった気がした。
後ろを振り返るが、特に風景が変わった様子はない。 恐怖で語感が敏感になっているのだろうか。
懐中電灯であたりを照らすが、霧が濃いせいで何も見えない。
そういえば、食料は持ってきていなかったな。
もし店を見つけたら調達しよう。
静かな街。鳥のさえずりさえ聞こえない。
風の音はするが、それがなかったら無音な世界になってしまう。
街の感じは、静かすぎるのと、人がいない。霧が濃すぎるのを除けば、特に変なところはない。
強いて言うなら、草が乱雑に生えている事だろうか、ゴーストタウンと言うだけあるか、全く手入れはされていない様子だ。
コンビニを見つける。
扉は破壊されており、砕けたガラスが地面に散らばっている。
ジャリジャリとガラスを踏みながら店内に入る。
もちろん、誰もいない。
レジのカウンターにはラジオがある。
カチカチと電源を入れるが、反応がない。
「つかないか・・・」
人がいないせいもあるが、電子機器類は役に立たないと思っていいだろう。
商品棚をみると、弁当などは腐っていて食べれる状態ではない。
スナック菓子や缶詰を見ると、賞味期限、消費期限ともに大丈夫そうなのがいくつかある。
「ありがたい・・・もらっていこう」
レジのカウンター下から袋を拝借し、その中に詰め込んでいく。
すると、耳にザザッと言う音が入ってきた。
「・・・なんだ?」
音の正体はレジのカウンターにあるラジオだった。
「さっきは電源が入らなかったのに」
ラジオは赤いランプがチカチカと点滅する。
恐る恐る近づいていくと、何やら声がした。
「はぁ・・・はぁ・・・クソ!こんな所来るんじゃなかった」
ラジオからはそう聞こえた。
男性の声だ。
その時、背後からドタドタと足音がした。
ガシャンと大きな音を立てながら何かが通った。
何かが通った拍子にアルミ製の箱が落ちた。
ショットガンを構え、ゆっくりと見る。
上下左右、外さえもしっかりと確認をするが、何もいなかった。
「何も・・・いない?」
懐中電灯であたりを照らし、何か痕跡がないか探す。
店内に戻り、通路を見ると濡れた足で走ったのか、足跡がしっかりと残っている。
後を辿ってみると、冷蔵庫に繋がっていて庫内のパイプから水が漏れていた。
その何かは冷蔵庫に潜んでいたんだろう。
だが、問題はそれだけではなかった。
素人目から見てもわかる。
足跡は二種類。
この痕跡の結果、俺が追っている化け物は少なくとも二体いることが判明した。
「マジかよ・・・クソ」
早く復讐をして家に帰ろう。
裏口から出て、辺りを彷徨う。
化け物が常に監視しているんじゃないかと思うと、うまく足が進まない。
行き先がわからないが、街を歩いていると、目の前に影が見えた。
2メートル以上の巨体・・・あれは俺の家族殺したやつに違いない。
コンビニから出て1時間以上は彷徨って見つけたんだ、逃してたまるか
ゆっくり、ゆっくりと近づく。
その時、足元からパキッと音が鳴り、乾いた木の枝を踏んだのを理解する。
化け物はゆっくりと振り返りこちらを見つめた後、走り出した。
「クソっ!逃すか!」
俺も走り出し後を追う。
ふざけやがって・・・逃すわけないだろ。
幸いなことに、走る速度はあまり変わらない。
上手くいけば追いつけるかもしれないと思い、全力で走った。
いずれ、屋敷の廃墟が見え、化け物はその中に入っていた。
その屋敷は広く。部屋がテレビに出るような宮殿のような広さだった。
「逃すかよ」
俺は化け物の後を追い、中に入る。
扉は壊れていて、勢いを殺さずに入ってしまったのが問題だった。
中に入ってすぐ、玄関の床には穴が空いていてそこに落下する。
「うぁぁぁ、クソ!マジかよ!」
まるで滑り台を滑るかの如く、真っ暗な穴の中を滑り落ちていく。
やがて、どこかに出た。
「クソ・・・いってぇ・・・」
起き上がり、懐中電灯を叩く。
光がチカチカとついて、視界を照らした。
「良かった、壊れてない」
それに、わかったことがある。
奴らは暗い場所でも目が利くらしい。
周りを照らしながらショットガンを拾い。歩き出す。
それにしても暗い。
巣みたいな物だろうか。
アリの巣のように入り組んでいて、方角がわからない。
出口を探すのに苦労しそうだ。
懐中電灯で視界を照らしながら、出口を探す。
瞬間、どこかで扉を開ける音がした。
だが、それはありがたいことに、開いた扉から光が差し込み、一瞬だけ化け物の影を映し出した。
「これで扉の方向がわかった」
小声で呟き、化け物から隠れながら扉をめざした。
音を立てないようにゆっくりと扉を開く。
出た場所は屋敷の中だ
非常用の電源があるのか、いくつかの電気はついている。
化け物と戦闘する際は、明るいところの方がいいだろう。弾丸にも限りはある。
取り敢えず、屋敷からの出口を探さないと。
扉を次々に開け、通路を探す。
この間にも化け物が迫っているかもしれない。だから、慎重にだ。
いくつかの扉を開けた時、長い通路を見つけた。
「出口の近くには出られるかもしれない」
長い通路をゆっくりと歩く。
一歩一歩と、通路にはいくつかの扉があるが、それよりも先に進みたかった。
だが、背後の部屋からガタッと音が聞こえた。
振り返るが、それ以上は音がしない。
少し戻り、扉のノブに手をかける。
深呼吸をして勢いよく開ける。
ハンドガンを構えながら部屋の中をライトで照らすと、キラリと光る何かが視界の端に映った。
それを受け止めて、揉み合いになる。
「なんなんだ、クソ!」
俺の言葉に何者かの力が弱まる。
「あなた・・・人間?」
目の前に立っていたのは、金髪ショートヘアの女性だった。
「あんた、こんなとこで何してる?」
俺の質問に女性は答える。
「別に、あなたに関係ないでしょ・・・」
ムスッとした顔で視線を逸らす。
その時、女性の腹がなった。
「あー・・・なんだ。飯、食うか?」
先程のコンビニで調達した物を渡すと、乱暴に受け取り食べ始める。
「俺はヘンリック、あんたは?」
「私はエマ」
食料を貪るように食べ、彼女はいった。
エマ。ゴーストタウンに人がいるとは思わなかった。