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異世界に来たら真っ裸でした

既に婚約破棄でも悪役令嬢でもない件について

 ふと目が覚めると、そこはふかふかの葉っぱの上で、目の上には木漏れ日の指す若緑色の葉が生い茂っているような場所で、どこかに小川でもあるのかサラサラと水の流れる音が聞こえてくるような、寒くも暑くもない、そんな快適な場所だった。






 そして、私は、真っ裸だった。






 そう! 真っ裸! 隠すモノなんて何もないこの状況で、いや、見る人も何もいないんだけど、真っ裸なのはいただけないだろう、常識的に、いや、文化人として!

 せめて布一枚、この際、葉っぱ三枚でもいいから何か、何かないですかね!?

 周囲を見渡すも、生えている草木は小さくて隠すには心もとなく、大きめの葉は生憎私の身長じゃ届かない絶妙な高さにある。

 木登りしろって? 真っ裸で?




 大切なところが傷ついたらどうしてくれるんだよ!




 まあ、何はともあれ、探索だよね。

 この状態で人? 知的生命体? に会ったら私が死ねる。主に羞恥心的な意味で死ねるからっ、その前に何とかして服になりそうなものを調達したい!

 この際本当に葉っぱ三枚でもいいから!


 とりあえず、水音のする方に歩いていく。

 水があるっていう事は水草系があるかもしれないし、それをうまくなんかこう、なんとかすればなんとかなるかもしれないじゃない?

 自分でも言っててよくわからないけど、こちとらパニくってるんだよコンチクショウ!

 そうして音を頼りに小川の方にやって来て、思ったよりも川の水が澄んでいることと、流れが穏やかなことにほっとして、とりあえず水分補給でもしようかな、と水面に手を差し込もうとして、ずあぁっと顔の横に落ちてきた髪の毛にビビって固まる。

 いやいやいや、私は日本人であって、染髪もブリーチも体験したことのない(適当に手入れをしているだけの)黒髪の女のはずなんですけど、なーにこれ、なーにこの薄緑色の髪の毛ぇ。

 しかもお手入ればっちりっていう感じにつるつるサラサラ、長さ的には持ってみた感じ、んーっと、膝の下あたりまで?

 って長くない? 邪魔じゃない? っていうか、なんですかね、これ?

 まさかね、まさかねぇ、マンガじゃあるまいし(この状況がすでに漫画の世界のようだけど)恐る恐る水鏡のようになっている湖面に髪が落ちないように髪を支えながらのぞき込むと、あら不思議、そこには右目が藍色、左目が深緑色のオッドアイの美少女が映り込んでおりました。

 ここまで来て、私は思考を放棄した。

 もう真っ裸でもいいじゃん? どうせ夢だし。

 むしろ夢だから真っ裸なんだよ。

 そうに違いないよね。寝て起きたら私はいつも通り「遅刻寸前じゃまいか!」とか言いながら起きて慌てて出勤準備するんだよ。

 うんうん、こんな若々しい肌とか、現実でもありえなかったし、願望ってすごいよね。

 そんなわけで、おやすみ世界。




◇ ◇ ◇




 おはよう世界。私は相変わらず真っ裸です。

 おかしい、起きたら私は夢から覚めて、悲しいかな社畜の人生を歩むはずなのに、どうしてこうなった? どうしてこうなった?

 しかし、夢だとしても流石にいい加減真っ裸と言うのもどうにかしなければいけない。

 水の中には手ごろな草はないし、どうしたものだろうか……。

 そう考えていると、ふと肌にもふりとした感触が。


 もふり!?


 思わず感触のする場所を見てみると、それは何と額に宝石のようなものを付けたウサギさんじゃないか!

 ちょっと角みたいなのも生えてるけど、何このくそ可愛いモフモフ!

 ほーら、お姉さん怖くないよ~。怪しくないよ~。

 そう考えながらそ~っと手を伸ばすと毛皮の中に手がもふって沈んでいくっ!

 なにこのモフモフ! 癖になる! むしろ癖になった!

 あ~、いいわぁ、思わず自分が真っ裸なのも忘れるわあ。

 いいよね、ウサギさんは知的生命体かもしれないけどウサギさんだし。

 これで某アリスの喋るウサギとかだったら即効で目つぶしぶっかけるけど、このウサギさんはきっとそんなことないから大丈夫だよね。

 モフモフを堪能していると、ウサギさんがちょいちょいと私の手を取って引っ張ってくる。

 え、なになに? 一緒に来て欲しいの? もうっしょうがないなぁ、今回だけだぞっ。


 ウサギさんに付いていくと、そこは洞穴のようになっていて、中にはたくさんのミニウサギさん!

 ナニコレ可愛すぎる!

 サイズ的に子供かな? 子供なのかな? どっちにしろ天国がここです!

 ウサギチャン布団にダイブしたいけどつぶれちゃったら可哀想だから慎重にかき分けて埋もれるので我慢しました。

 うひゃぁ、あったかい、やわっこい、ふわふわでもっこもこぉ。

 今、私は、真っ裸でいる意味を心置きなく堪能している!

 しかし、私だってただモフモフしているわけじゃない。

 ちゃんと周囲を観察しているのだよ、ワトソン君。

 基本的にどのウサギさんも額の宝石はキラキラしてるんだけど、中にはちょっとくすんじゃってる子がいて、その子はすごくしょんぼりしているって言うか、元気がないんだよね。

 だから、こう、キュッキュッて磨いてあげる感じでこすってあげたらあら不思議! キラキラを取り戻しましたとさ!

 キラキラになったウサギさんはピョンピョン跳ねてモフモフに混ざったりして本当に可愛い。

 うんうん、身だしなみって大切だよね。




 真っ裸の私が言うのもなんだけど!




 しかし、こうしてぬくぬく布団もいいが、私は一応文化人、最低限の衣類は欲しい。

 しかし、この洞窟にそんなものがあるとも思えないし、本当にどうしようかねえ。

 そんな事を考えていると、目の前にボトリ、と手のひらサイズよりも大きな蜘蛛が落ちて来て、思わず絶叫を上げなかった私を誰か褒めて、むしろ褒め称えろ!

 目の前に落ちてきた蜘蛛はお尻の方からシュルっと糸を出してきたのだ、ウサギチャン達がベタベタになっちゃうと思って触ったら、全然ベタベタじゃなかった、むしろスルスルだった。

 しばらくその糸と蜘蛛を交互に見ていると、蜘蛛が前足(?)の部分で何かをイジイジするような仕草をしたので、もしやこれで服を編めという事なのだろうか! とひらめいた。

 しかしよく考えて欲しい、こんなほそっこい糸で編んだところでシースルーを通り越して逆の意味で変態だ!

 そもそも編む道具がないじゃないか! 手編み? そんな技術ねーよ!

 ああっ待って蜘蛛さん。今考えるっ、何かこう、ひねり出すからもうちょっとタンマ!

 そ、そうだ長めの小枝的なものをいい感じに研磨して編み棒を作ってそこから布を作っていけばいいんじゃないだろうか!

 研磨とかしたことないけど! やすりとかあるとは思えないけど!

 ああっ、だから行かないで蜘蛛さん。この真っ裸の状態で貴方の糸だけが頼りなんです。

 って、行ってしまわれた。

 さようなら私の脱真っ裸人生。私はここで永遠にモフモフされて生きていきます。




 とりあえずおやすみなざばばばばばばばばっ




 何事だ! 敵襲か!? 私のもふもふパラダイスを邪魔しようたってそうはいかないぜ!

 こちとら真っ裸だ、失うものなんて何もないんだからどっかきらでもかかって来やがれ!

 ウソですごめんなさい、手加減はしてください、あとできれば見ないでください、私これでも文化人なんです。

 そんなことを考えつつ、顔の前に落ちてきた何かを確認すると、太めの糸?

 それを何とか避けて視界が開けるようにすると、そこに居たのはなんと、さきほどの、手のひらサイズの蜘蛛さんの、五十倍はありそうな蜘蛛さんでした!




 一瞬白目剥きかけたけど、今日も私は元気です。




 大丈夫、たぶん敵対してない、だって目が青いから、攻撃的な時は赤くなるってナウ〇カで学んだもん。

 多分このぶっとい糸は巨大蜘蛛さんのものだよね。

 私がほっそこい糸じゃあかんって思ったからおっきな糸を吐き出せる蜘蛛さんを連れて来てくれたのかな? なんて優しい世界!

 ああ、もうっ知的生命体がなんぼのもんじゃい! こちとらモフモフふれあいコーナー満喫中だっていうの!

 社畜の世界よ、今だけであろうともさようなら!

 しかし、手編みは本当にしたことがないのだが、適当な棒っ切れはないだろうか?

 って思っていると蛇さんが棒を咥えて持ってきてくれましたよ!

 しかも研磨済み! 本当に何この優しい世界! 私もうここに永住したい! 朝出社したら山のように積まれてる資料とかもう見たくないでござる。




 そんなわけで、私は文化人らしく着衣をせっせと作成しております。

 まあ、むずかしい物は出来ないので、ロングセーターなんだけどね。

 靴下も一応編めるけど、とりあえず、局部を隠す方が先だと思いませんか奥さん!

 せっせと編んでて気が付いたんだけど、ここが洞窟だから時間の感覚わかんないわ。しかも眠気が来ないから永遠と編んでいられる。

 何このチート。

 あー。マジ幸せ空間かよ。モフモフに癒されて、優しい蜘蛛さんと蛇さんに囲まれて、時間を気にせずまったり編み物、しかも肩とかまったく凝らない。

 やっぱりここが天国だ!


 そんなわけでどんどこ進んだ作業のおかげで、時間の感覚はわからないけど膝まで隠れるロングセーターが完成したので今度は靴下を編んでたんだけど、靴底? の部分が少し薄いかな? って思ってたら、蜘蛛さんがちょっと硬い糸を吐き出してくれました。

 なにこの蜘蛛さん有能過ぎじゃないですかね。一家に一台は欲しいところですよ奥さん!


 そういえば奥さんで思い出したけど、全くお腹が空かないわ。

 いくら私の編むスピードが速いとはいえ、一朝一夕でこんなの編めるはずがないんだよなぁ。

 でもお腹は全く空かないし、やっぱり夢?

 あ、うーん、そうなのかも。

 長い夢だなあ。ああ、この夢が終わったら社畜人生が待ってるのか、ああ、夢の中だけでもモフモフできてよかったよ、我が人生に一片の悔いがありまくるけど、ひと時の安らぎをありがとう、夢。


 そんなわけで、セーターを着こんで、靴底を硬めにした靴下を履いていざ、森の中を改めて探検!

 案内はウサギさんたちがやってくれそうなので、私はそれについていくだけなんだけどね。

 いいよね、メルヘンチックで♪

 しばらく歩いていると、ぽとりと蛇さんが何かの赤い実のついた枝を咥えて肩に落ちてきた。

 なんの実だろう? と首を傾げていると、蛇さんがその枝を私の口元に押し付けてくるので、食べてみろっていう事なのかと思って一粒もいでパクリとな。

 ・・・おお、これは! 噛めば噛むほど果汁が溢れだし、酸味の奥に隠された苦みが何とも言えないハーモニーを奏で、絶妙に噛み切れない粒がゴリゴリと舌を刺激してきて、なんというか、まずい。

 しかし、この酸っぱさはレモンっぽいからビタミンは取れてるのかな? せっかく蛇さんがくれたものを無下にするのも悪いし、なんとか一粒飲み込んであとは手にもってふらふらと探索の再開。


 その後も、蜘蛛さんや蛇さんウサギさんが色々な食べ物をおしつ、くれたんだけど、流石に生のまま食すと私の胃と小腸と大腸にダイレクトアタックしてくれそうなのでそれぞれ一口ずつで勘弁してもらいました。

 栄養はありそうなんだよ、栄養は!

 そうだよね、動物さんだもんね、味覚とか二の次かもしれないもんね、ごめんね、こんなところまでメルヘンを期待した私がばかだったんだよ。

 不〇議の〇のア〇スじゃないんだから、そんな都合のいい事がホイホイ起きるわけないんだよね。

 それにしても、結構歩いたと思うんだけど、一向に日が暮れる気配がないなぁ。お日様ポカポカって感じだねぇ。

 はぁ、しかしこの蜘蛛の糸のセーターっていうか、シルクのセーターって感じに着心地最高、すべすべサラサラで吸い付くような肌触りっていうの?

 なんだかちょっとしたセレブな感じ。

 ……こ、こんなことでセレブ感を満喫してしまう自分がちょっと悲しくなったりなんかしたんだからねっ。慰めてくれてもいいのよって、ウサギさん! そのもふもふで慰めてくれるのね! ああもうっプライスレス! プライスレスだよぉぉぉぉぉっ!




◇ ◇ ◇




 しっかし、改めて冷静になってみると、ここってどこなんですかいね。

 あ、いやね、今までちょっと九割夢の世界だと思ってふざけてたんだけどね、実際問題夢だとしたらいい加減覚めないと問題あるし、夢じゃないとしたらさらに問題だと思うのですよね。

 そもそも、なんで私の見た目が変わってるんですかね。

 オッドアイとか薄緑の髪の毛とか、私は森の精霊ですか? エルフですか? とかって思って耳の形を確認したら普通の耳でした。

 小説のお約束だと車にはねられて神様が「ごめんちゃい、手違いだったよ、お詫びに異世界転生してあげる」とか「乙女ゲームに行きたいって言ってたからつれていったよ」とかのパターンなんだけど、生憎私にはどっちにも覚えはない!

 ゲームはそこそこする、本もそこそこ読む、だからと言ってその世界に行きたいと思った事は無いし、死んだという体験もない、と思いたい。

 流石に寝ているうちに地震が起きて起きる間もなく昇天してたとかだったらどうしようもないけど、少なくとも神様には会ってないし、うーん、どうしたものかね。

 とりあえず、この空間というか森? に居る間はお腹も減らないし、小川があるからお風呂には困らないし、シャンプーとリンスはないけど、不思議パワーでここの小川で洗っただけであら不思議、サラサラつやつやヘアーの出来上がりと言う感じなのですよ、おやっさん。

 そうそう、この森の探索も結構な範囲でおこなっているわけで、それに従いお友達も増えました。

 ウサギさん、蜘蛛さん、蛇さんは初期パーティーですが、今はそれに熊さん、女王バチさん、キツネさん、リスさん、イノシシさんがパーティーに加わりました。

 鳥さんもいるけど居たりいなかったりなので今回はご紹介無し。

 いやぁ、森の中は火気厳禁だと思ってたんだけど、岩場ならOKっていうのがニュアンスで伝わって、今では焼き魚を釣って食べることも出来るようになりました!

 でも私は肉が食べたい。牛肉とか豚肉とか鶏肉とかなんでもいいから肉が食べたい。

 そんな事言ったら火の中に入っていっちゃいそうな子が居るから言わないけどねっ!




◇ ◇ ◇




 すっかりサバイバル生活もなれた私です。

 最近では肉料理をする事も可能になりました。

 なんでも、動物の間でも弱肉強食とか頭数調整と言うのがあるらしく、余った肉(言い方悪いい)をもらい受けることになったんだよね。

 鹿さんが岩塩を見つけてくれたのも大きかったなぁ。

 あると無いとじゃ全く味が変わっちゃうもんね。岩塩で焼くステーキ、美味しいよ。

 あ、ナイフ? 石を必死で研磨しましたけど何か?

 あの時の私はきっと鬼の形相だったに違いない。でも、縄文時代の人も似たようなことやってたんだし、問題ないよね。

 さて、そんな感じにすっかりサバイバル生活に慣れた私の前に、なんだか偉そうな服を着こんだ神官さん?みたいな人とか、それの護衛の騎士さん?みたいな人がずらりとやってきたわけですよ。

 動物の皆さん、危ないので下ってね、私の予想が正しかったらこの目の前の蹂躙者共は君たちの事とかあっさり殺しちゃうから。


「巫女様! 召喚されて早一年、召喚位置がずれてしまい、お探しいたしました。さぞかし寂しい思いをされたことでございましょう。そのような貧しいお召し物を纏って、家畜などに囲まれるなど、なんと不憫なっ。ご安心ください、只今より巫女様を聖都へお連れ致しまして盛大なる歓迎会を開かせていただきます」

「ほーん、ちなみに、私がこの世界に初めて来たときに真っ裸だったんだけど。それはどうして?」

「禊でございます! 元の世界のすべてを禊いでいただき、この世界で新たに生まれなおしていただくため、以前の世界のすべてを捨てていただく必要があったのでございます!」

「容姿が変わってるのは?」

「それは、聖王様の趣味でございます!」

「は?」

「この度の巫女召喚は聖王様の嫁召喚でございまして、運よく召喚出来たのは良かったのですが、突然魔力の横やりが入ってしまいまして、召喚の座標軸がずれてしまったのでございます。しかし、この聖域で発見できて誠に良かったです。ここは魔王の領域の一歩手前の聖域。魔族の領域と人間の領域を分けている聖域なのでございます。もしここにいなければ、巫女様は魔族の領域に落ちてしまったともうあきらめようかと思っておりました」


 一言いいだろうか。


 こいつら頭に蛆湧いてんじゃね?


 勝手に召喚しておいて、しかも真っ裸で、しかも聖王とやらの好みの容姿に変えられて。

 そんでもって極めつけにパニックになってるところにあれよこれよと言いくるめて聖王の寝所の上にドーンしてバーンさせちゃう流れだよね。




 女を何だと思ってんだ、こいつらは?




「ささ、巫女様。聖王様がお待ちでございます。聖都に参りましょう」

「だが断る!」

「は?」

「さっきから大人しく聞いてれば、お前らは勝手に異世界から女を拉致してきて好き勝手に改造してその聖王とかいうやつの貢物にする気なんでしょ? ふざけるなよ? なんでそんな大人しく、はいわかりました。なんて言うと思ってるの? こちとら元の世界じゃお局に片足どころか両足ツッコんでる立派な社会人なんだよ、好き勝手にされるのはもううんざりなんだよ。私はこのモフモフパラダイスの夢を見ていたいんだよ、邪魔すんじゃねーよ、それともなにか? お前らはこの私を召喚しやがった分際で、まさかとは思うけどもう還れませんので一生この世界で暮らしやがれとでもいうつもりか? 元の世界の私の仕事をどうしてくれるんだ? 会社の重要企画もあずかってる身なんだぞ? ああ、頭の悪いお前らにわかりやすく言ってやるとな、国家事業の一端を担っているのに、お前達が無理やり召喚しやがったせいでその計画が進まなくなる可能性があるってことだよ。それで? もちろん私を返してくれる算段はあるんだよな? ないとか抜かしたら殴るぞ? っていうか、殴ると痛いから、そこら辺の騎士の剣を分捕って振り回すぞ。重くても大丈夫、これでも書類運びでそれなりに鍛えてるからね。美魔女を保つにはそれなりに運動しないといけないんだよ。いい勉強になったね。さて、いい勉強になった諸君がする事はただ一つ、私をとっとと元の世界に返しやがれ。モフモフパラダイスもいいが、私は社畜なんだ。両親の老後の面倒もみないといけないし、後輩の面倒だって見てやらないといけない。あのセクハラ上司は私の目の届かないところで新人OLに何していやがるかわからないからな、おら、早く私を元の世界に返せよ。あくしろよ。出来ないとか重ねて言うが言わないよな? あ?」


 私の(今の)容姿にそぐわない怒涛の如くの言葉に神官っぽい人は固まった後に、小さく「還せません」と言ったので、私はにっこりと笑みを浮かべる。


「はあああ? ふざけんなよ。なにが還せませんだ。子供がお使いして失敗したんじゃないんだぞ、大の大人が寄ってたかって何してんだぼけが。普通は呼ぶ方法と返す方法を確立してから呼び出すモノだろうが、万が一性格がその聖王とかいうやつと合わなかったら呼び出された子が不憫だろうが、というか私がいま不憫だわ! 女の一人も見繕えない聖王と寝ろとか言われる私の身にもなってみろよ、なんだったらお前が女役になってベッドで『私を抱いてください』とか言ってみろや。人体召喚できるんだから性転換とか余裕だろう、そうすれば問題なんか一発解決じゃねーか、そうだ、そうしよう、それにしよう。お前ら今からすぐさまその聖都とかに帰ってさっさとその研究してこいよ。そんでもって自分を実験台にして聖王に可愛がってもらって来いよ。料理だろうが何だろうがなあ、味見っていうのは自分でするもんなんだよ。人任せにしてるんじゃねーよ。わかったか? わかったんだったらそこでビクビク腰抜かしかけてる騎士もどきを連れてとっととこの森から出ていけ変態野郎どもが」


 そこまで言ってぎろりと私を迎えに来たとかいう集団をにらみつけると、なぜか「う」とか「あ」とか言ってじりじりと後退していっている。

 うんうん、素直っていい事だよね。

 今なら見なかったことにして私はこのモフモフパラダイスを堪能するから、帰還方法が分かった頃に迎えに来てくれれば許してあげるよ。


 その時私は見えなかった。

 私の背後で、いつものモフモフはどこへやら、殺意と敵意剥き出しで本性を出しまくったモンスターたちがお迎えに来た一団を睨みつけていることなど、全く知らなかった。


 だって私が振り返った時はもうモフモフだったもん!


 お迎えの一団が立ち去って、そろそろいつものねぐらに帰ろうか、と言う時に、木々の間から「うははははは」と笑い声が聞こえたのでその方角を見上げると、茄子色の肌に銀髪の赤い瞳のいかにも悪魔です! っていう人がいた。


「覗き見はいけないぞ」

「見守ってたんだって。意思に反して聖都に無理やり連れていかれそうになったら、ちょちょいっと追い払ってやろうってな」

「ふーん。まあいいけど」

「それにしても、歴代の聖女もあんたみたいに弁が立っていれば、聖王や勇者に好き勝手にされなかったんだろうになあ」

「なにそれ、聖女は使い捨ての道具か何かなわけ?」

「言いえて妙だな。聖女が素っ裸で召喚されるのもすぐにやれるようにっていう意図もあるみたいだしな」

「うわぁ、最悪」

「あ、ちなみに今回の召喚を邪魔したのは俺な」

「そうなの? ありがとう」

「・・・・・・え、かっる! それだけ? もっとありがとうございます、貴方様のご指示でございましたらなんでも従いますとかないわけ」

「ねーよ」

「知ってたw」


 しっかし、聖都ってのはろくでもないな。

 今までも私のようないたいけな女性が被害にあってきたのかと思うと、悲しくて涙が出そうだよ。

 むしろ聖都とか滅んでよくね? 滅ぼしたほうが世界の為じゃね? 聖王とかこの際もう精王でよくない?


「そういえば、あんた何者?」

「魔王様♡」

「ああ、ならちょうどいいや、ちょっとぱぱっと聖都滅ぼしてきてくんない?」

「えぇ、やだよめんどくさい」

「面倒がるなよ魔王が」

「だってあいつら、勝手に喚いて勝手に勇者立てて、勝手に途中で挫折して「くっ今回はここまでだが、次の勇者こそはっ」とか言ってるだけなんだぜ」

「だったらなおのこと滅ぼそうよ。面倒事起きないよ」

「でもなぁ、人間どもがモンスターの頭数減らさないとこっちにも実害が出るんだよなあ」

「それって魔族? にもできないの?」

「出来るぞ」

「「……」」

「人間要らなくない?」

「要らないな。よし、ちょっくら聖都滅ぼしてくる」

「いってらー」


 そう言ってバビューンと走っていく魔王を見送って私は再びモフモフパラダイスを堪能。

 どのぐらい経ったのかはわからないけど、全身血まみれの魔王が帰ってきたからとりあえず小川に蹴落としておいた。

 このぬくぬくの陽気だし風邪をひく事は無いよね、うん。

 全身ずぶぬれになった魔王が私の横に大の字に寝始めたけど、私の分のモフモフが減るからやめてくれないかなぁ。


「ところでだ、お前の名前ってなんていうんだ?」

うたう

「そうか、俺はキーファだ」

「そう」

「ところでな、人間どもにはここは聖地なんて言われてたみたいだけどな、魔族から見たらここは魔物や魔族の子育ての場所なんだ」

「へえ」

「ってことで、俺と子育てしてみないか?」

「……ワタシイセカイゴワカリマセーン」

「まあ聞け、たぶん相性はいいと思う。うん、絶対に良い。悪かったらぶんなぐっていいから、お試し期間っていう事でちょっとの間でいいから一緒にレッツ巣作りしてみないか?」

「キコエナーイ」




◇ ◇ ◇




 その後の私ですか? 魔王妃なんてものをやってますが何か?

 まあ、勇者とか来ないんで平和そのものなんですけどね。

 たまーに遠い国から勇者らしき集団が来るっぽいんですけど、この国に来る前に力尽きちゃうみたいですw

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