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賭け

 木が激しくぶつかり合う鈍い音のあと、木刀が男の手から飛び、離れた。


 「そこまでっ!」


 団長からの合図で、ミーシャは息を細く吐き、集中を途切れさせた。


 魔王の封印を解いてしまったミーシャは、一応通常通り出勤をしなければと所属しているエトワール傭兵(ようへい)団に顔をだし、訓練で汗を流してた。


訓練で男を相手にしても引けをとらず、今も謹慎(きんしん)明けの(なま)った身体を戻したいと十人抜きをしたところで、傭兵団ではその強さは上位に位置するほどだ。


 エトワール傭兵団は平民や訳あり貴族で構成されていて、男ばかりだが身体を鍛えるのにちょうどよいと無理やり居座って所属までかぎつけた。


そうでもしないと、女の身である自分が鍛えられる場所などなかった。


 後々エリザベスと王子の結婚を見届けてから国の騎士団に入団しようと計画していたのに、その人生設計も今となっては台無しだ。


 手拭いで汗を拭き、革袋の水筒で水を飲んでいると、団長が話しかけてきた。

団長は気の良い人で、無理やり入団してきたミーシャに手取り足取り指導をしてくれた恩人だ。


 「ミーシャ、謹慎させられてたわりには動きが鈍ってないな。エライエライ!」

 「部屋の中で腕立ても、腹筋もできるので。団長、あの、今後のことなんですけど……」

 「あぁ、おまいさん、結局殿下と結婚すんのか?」

 「絶対しませんっ!! こんなガサツなあたしなんかじゃなくて、リズがいるのに、どうしてかなぁ……」

 「そりゃあ……はぁ、ま、運命のいたずらかね………」


 ミーシャが大きくため息をついている様子を見て、団長は何か言いたげに頭をぽりぽりとかいた。


 「そうだよ! そもそも、あのバカがリズをちゃんと幸せにしてくれたらっ……」

 「そのバカとは、オレのことか?」

 「ぬわっ!?」


 急に後ろから声がして驚いて振り返ると、そこには誕生日会でアッパーカットを()らわせて気絶させた王子が立っていた。


 「でっ殿下、どうしてここにっ!?」

 「それはもちろん愛する将来の婚約者に会うためと、少し訓練に付き合おうかとな」

 「そんなの城の騎士団相手にしてくださいっ。どうして、昔からいつもここまでわざわざ来るのですか!?」

 「それはもちろんっ! 愛しのミーシャに会うために決まっているだろう?」

 「意味が分かりませんっ」


 今にも()みつかんとするぐらい威嚇(いかく)しているミーシャだったが、王子は嬉しそうににこにこと笑っているので、威嚇は無意味そうだ。


ミーシャは、王子が立ち去る様子がないので、諦めて落ち着こうと息を吐いた。


 「そもそも、思い切り殴った相手にまだプロポーズするのですか?」

 「するっ! 嫌だとはっきりと口に出されるのも実に新鮮で、さらには殴られるのもたまらんっ!!」


 王子が頬を赤らめてうっとりとした表情で見つめてくるので、ついついゴミ(くず)を見るような顔で王子を見てしまった。


 (っ変態だ!!……いやむしろ、こんな変態にリズを嫁がせなくてよかったのかもしれない……)

 「その見下した表情もまた良いっ」

 「きもっ」


 つい口に出してしまって、あっと口を(ふさ)いだがそれを聞いても王子は嬉しそうにしているので(うわあ……)と鳥肌が立った。


その様子を苦笑いしながら見守っていた団長がやっと助け舟を出してくれた。


 「殿下、訓練をなさりたいそうで、よろしければお相手しましょう」

 「いや、ミーシャにお相手願おう」

 「ミーシャは今十人抜きを終えたばかりで……」


 団長がミーシャの方を見ると、ミーシャは表情がキッと真剣になって、こくりと(うなづ)いた。


 (正式にボコボコにできる!)


 「いいですよ。また怪我をしても、訓練、ですので文句は言わないでくださいね」

 「ハハハッ、ミーシャにされるならなんだって嬉しいさ! そうだ、良ければ賭けをしよう」

 「き……賭けってなんですか?」


 また毒づきそうだったが、ミーシャは堪えた。


 「オレが勝てば、婚約を受け入れてくれ」

 「嫌です」

 「まさか怖気づいたのか?」


 余裕な顔をしてふんと鼻をならす王子にカチンときて、またものすごい形相でミーシャは(にら)みつけた。


 「じゃあ、あたしが勝ったら、エリザベスに公衆の面前で恥をかかせた謝罪と、あと、お金もください」

 「げっ、欲張りめ……しゃ、謝罪など不必要だろ。それに、なんだ金とは? ディーワ家が金に困るわけないだろう」

 「詮索(せんさく)はよしてください。謝罪は必要です。あんなことをして、更には危険な人にエリザベスを嫁がせるだなんて……」

 「そのことか……ふむ、いいだろう。だが、二つ賭けるならこちらは勝ったらキスも追加だ」


 またミーシャは、ゴミ屑を見るような目つきをしたが引くに引けないので王子の要求を了承することにした。

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