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魔王

ミーシャ編になります。

 「謹慎(きんしん)あけだぁーーーーー!!」


 ミーシャは、勢いよく扉を蹴り破り、廊下を走り抜けていった。


 「ミーシャ様! はしたのうございます!」


 メイドや執事が止めるのも聞かず、全力で走って屋敷の書庫にたどり着いた。


 (ここに、あるはず……お願い!)


 書庫の一番奥の本棚には隠し部屋に続く仕掛けがある。

特定の本をいくつか引けば、本棚が横にずり動いて、ひんやりとした風が通る入り口が現れる。


 どうしてこんなことを知っているのかというと、もちろん前世のゲームの情報のおかげだ。

仕掛けがあることは以前一応は確かめてはおいたが、隠し部屋は暗い地下に続いていて、恐怖が勝って下りることはしなかった。

しかし、今は怖がっている場合ではない。


 入口の壁にはランタンがひっかけてあって、遠慮なく使わせてもらうことにした。

暗い地下に続く階段をゆっくりと下っていく。


 (記憶が正しければ、地下の部屋に目当ての本があるはず)


 ちらりと自分の腕を見る。

もう何も浮かんではいないが、「王都から出られない」という誓約を間違いなく刻まれてしまっている。


 (誓約は確かに簡単に解けるものじゃない。誓約をかけた本人に解いてもらうか、もしくは誓約をかける際に使った聖なる力の対になる力………魔力で中和させる)

 (それは通常ならば不可能、魔力をもつ魔族がいないとできないから。魔族は昔に起こった戦いで、絶滅したといわれている)


 地下の部屋の扉にたどり着き、ゆっくりと扉を開く。

そこには本棚がひとつおいてあり、そこには明らかに禍々(まがまが)しい雰囲気を放つ本が一冊あった。


 「本当にあった………一応、リズが見つけるというシナリオだったから家の地下に置いてあるのかな? いや、危なすぎるだろ」

 「でも、今は助かった、か」


 息をのみ、禍々(まがまが)しい本を手に取った。


 「これが、魔王が封印されている本………本当ならリズが封印を解いて、最後には……最後には?」

 「あ、れ? ゲームのエンディングの時、リズはどうなってたの………?」

 「………」

 「やっぱり、危ないかな……」

 「………」


 深呼吸をして、ほっぺをぺちぺちと叩いて、気合をいれた。


 「今、リズは危険にさらされているんだ! あたしだって頑張らないとっ」

 「それに、あたしには情報っていうアドバンテージがある。たしか、この魔王だって攻略対象、そして、魔王推しだった友から嫌というほど話を聞いていた!」

 「いけるっ!」


 本を開くといかにも魔法陣というような文様があった。

息をすぅっと吸いこんで、覚悟を決めた。


 「Surgit!」


 呪文を唱えると、本が輝きだし、ミーシャの周りに暴風が巻き起こった。

あまりの風の勢いに息が上手くできずに、苦しかったが、間もなく本のページから黒い影がでぼこぼこと溢れでてきて、風が収まった。


影が人の形を成すと、影が床に流れてその全貌(ぜんぼう)(あらわ)になった。


 闇夜を切り取ったような黒髪に、紫の瞳。

頭からはうねる角が生え、細長く先端がダイヤのような形のしっぽまで生えている。


そして、ゾッとするほど整った顔が余計に人間離れしているのを演出していた。


 (本当にできた! 呪文を何度も練習させられてたのが役に立つなんて)

  (けれどここから………)


 「あ、あたしの名前はミーシャ・フォン・ディーワ、あなたに頼みがあるの」

 「………」


 魔王は、黙ったままけだるそうにこちらを見下げてくる。


 「この誓約を解いてほしいの。あなたならできるでしょう?」


 魔王が何も反応をみせないので不安だったが、話しを進めようと袖をまくって腕を突き出した。

すると、魔王はミーシャの腕をとって、次にはぞわっと寒気が身体を通り抜けた。


 「終わり………こんなみみっちい誓約なんて自分でどうにかしろよ」

 「えっ本当に? こんな簡単に?」


 ミーシャが目をぱちぱちと瞬かせ、確かめるように腕をぐるっと回してみたが変化がわからない。

ミーシャのことは無視して、魔王はぐっと身体を伸ばしたり、首を左右に折ってたりして身体の調子を確かめていた。


 「魔力も、身体も問題ないな。封印を解いてもらった義理も果たしたし………行くか」


 独り言を呟いて、部屋の扉に歩いて行った。


 「え? ちょっと、どこ行くの?」

 「決まっている。オレたちにこんな屈辱を味あわせた野郎どもに罰を与えるんだ。皆殺しだ」

 「はぁ!?」


 危ない発言をした魔王に驚いて、かなり大きい声がでた。

そして、咄嗟に魔王の腕をぐっと握ってひきとめる。


 「ま、ま、待ってよ! なに、皆殺しって!?」

 「……貴様には慈悲を与えてやったというのに、今その命を失いたいようだな」


 (ちょっと! 魔王ってこんな感じなの!? オレ様系ぐらいにしか思ってなかったのに! えーと、えーと………)


 考えをぐるぐると巡らせている間に、魔王は本気で殺そうとしているのか、爪がナイフのように鋭く伸び喉に突き刺そうとしてきた。


 「やめてっっ!!」

 「なっ!?」


 刺されたと思ったが、魔王の動きは何故かぴたりと止まった。

やめてくれたのかと思ったのだが、ゆっくりと離れてみても魔王はそのまま動かず、動けないというのが正解のようだった。


 「ど、どうしたの?」

 「貴様がやったんだろう! 早く解け!」

 「そ、そういわれても………」

 「チッ、こんなことなら封印が解けてすぐにやっていれば………」


 (もしかして………)


 「ぐるっと回って」


 ミーシャがはっきりと口に出すと、魔王は絶望した顔をしながらその場でくるっと回った。

回り終えると、憎々し気にこちらを睨みつけてくる。


 「もしかして、命令に逆らえない……?」

 「屈辱だ………」

 「あたしに絶対に暴力なし、殺すのなし! それから復讐もなし!」

 「なにっ!? なんてことをしてくれるんだ!!」


 目が血走っていたがやはり逆らえないようで、頭を抱えてへたり込んだ。


 「こんな小娘に………そもそも封印さえされなければ、こんな誓約を受けることもなかった」


 どうやら、封印を解いた者の命令は絶対という誓約を受けているようだ。

あまりにもへたり込んでいるので、少し可哀そうに思えてきた。


 「その誓約は、自分でどうにかできないの?」

 「ただの誓約ではない。聖女による強力な誓約だ。そこらの奴らのものとは段違いだ」

 「聖女………」


 (魔王を封印したのは聖女? それは知らなかった………やっぱり、知らないことや、変わっているところがたくさんありすぎる。過信しないように気を付けよう………)

 (それに、過去の聖女に封印されたってことは、聖女にいい印象はないよね。リズのことは黙っていよう)


 今、現れている聖女は、おそらくエリザベスだけだ。

過去の聖女の出現は常に他国で起こっていて、ミーシャには遠い存在でしかなかった。


 (とにかく、このまま魔王を野放しにするわけにはいかない。思い出せ………どうしてこんなに魔王が怒っているか………)


 (………あ、そうだった………)


 「あのさ、仲間を助けたいんだよね?」


 へたり込んでいた魔王が、ばっと顔を上げた。

その顔はどうして知っているのか?と問い詰めたいようで、紫の瞳にはミーシャに対する猜疑心(さいぎしん)でいっぱいになっていた。


 (たしか、設定はその昔、魔王とその仲間が暴れて封印された。そして、この魔王を攻略するためにはその仲間が封印された本が必要だったはず)

 (実際に魔王の本もあったし、他の本だってきっとあるはず……)


 しばらく(にら)み合いになっていたが魔王の方が口を開いた。


 「小娘、何故貴様が仲間のことを知っている?」

 「あたしは……ちょっとした占いができて、いろいろ見えるのよ! それで、あなたの本も見つけられたのよ」


 完全に口から出まかせだったが、実際に封印は解いた。

魔王はじっとミーシャを(にら)んで考え込み始めた。


 「そうだ、こうしよう! あなたは仲間を助けたい。あたしは虐殺なんて起こさせたくない。だから、あたしがあなたの仲間を見つけて、あなたは復讐を諦める。どう?」

 「何を言っている? それがお前になんの得が………」

 「別に悪くないでしょ? はい、決まり! 約束ね!」

 「勝手に………」

 「じゃ、あたしいかないといけないところがあるから、大人しくしててね! じゃっ」

 「おいっ、ふざけるな! 待て、小娘!」


 ミーシャは、強引に話しを終えると笑顔で手を振って、魔王を残して部屋から駆け足で出ていってしまった。

書庫を抜け、自分の部屋まで何事もなく戻れ、ソファにどさっと座って、深いため息をつく。


 「おいてきたのは駄目だったかな? でも、演技でないみたいだし、あたしの命令は絶対みたい」

 「でも、あー! すっごい賭けだった! もしも、もしもあたしに前世の記憶がなかったら………なかったら、そもそも見つけてないか」


 ミーシャは、顔を上げてソファの背もたれに体重を預けた。


 「あたしが見つけなかったら、ずっと本に閉じ込められてたのか。あいつの仲間も……」

 「やっぱ、ちょっとかわいそうだな。友に影響されたか………悲しみを背負っているのがいいとかなんとか」

 「シナリオ、か………」


 命令が絶対なら、約束(と呼べるものではないが)する必要もなかった。

本来の目的の誓約を破れさえすればよかったのだが、魔王に実際会うと、ミーシャの心の底にほんのりと同情のような気持ちが芽生えてしまっていた。

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