絆はかたく
建国祭は最終日に皇帝と皇妃が不在になる事件が起きたが、ジーニャがその場をとりもってくれたおかげで、なんとか無事に終わった。
そして、建国祭が終わると同時に、何人かにミーシャは長い別れを告げた。
仕事を終えたネリネは家に帰るというのでミーシャは別れの挨拶をしたのだが、驚いたのは何故かミーシャたちの母、エミリアがネリネを迎えに来た。
どうやら、ネリネは絶望的に家事ができないらしく、エミリアが一緒に住んで家事をしているらしい。
母の生き生きしている様子を見るに、ネリネとの生活は楽しそうでミーシャは安心して母にも別れの挨拶をした。
王子は、記憶が戻ったアロクロへの文句は言いつつも、わりとすんなりと王国に帰っていった。
少しだけミーシャに対する執着が弱まったと感じたが、どうやら建国祭の間に友人ができたらしい。
彼も王子という立場で寂しさがあったのかもしれない、とミーシャは仄かに思った。
セナは、数日間付きっきりでルーニャにこってり絞られて、図々しさはまだ健在だが多少は働き者になった。
罰をどうするかとエリザベスに尋ねられて悩んだが、ミーシャはどうしてもセナを憎みきることができず、アロクロもミーシャの気持ちを汲んでくれて、結局修道院で働く、というので落ち着いた。
彼女は「アロクロ様のことは諦めるけどっ、まだイケメンとの幸せの結婚は諦めないから! ミーシャはミーシャでちゃんと幸せになってね!」と、別れ際に言っていて、その逞しさにミーシャは苦笑いした。
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建国祭が終わり、数日後。
エリザベスは、明るい廊下に飾られた肖像画を優しく見つめる。
父と母が、優しい眼差しで幼い我が子を見つめる温かな家族の絵だ。
(……本当は家族の温かい思い出だったのだから、暗い部屋よりここにある方がずっといいわ)
ルクスは、自分の部屋にあった家族の肖像画を明るい廊下に移動した。
移動の際、この絵見つめる時の彼の眼差しが悲しみばかりではないことに、エリザベスは心の底から安心したのを覚えている。
(ルクス様は、この絵を奥の暗い部屋に置いておくことで、ずっと悲しい思い出にしてしまっていた。でも、もう違うわ……)
「エリザベス」
「ルクス様」
優しく呼びかける声に振り向いた。
ルクスはいつもの狼に近い姿ではなく、人間に近い姿となっている。
ルクスはエリザベスを見て、にこりと微笑んでしっぽには嬉しさが溢れて左右に振っている。
(最近、ルクス様はこの姿で過ごされることが多くなった。感情も表に出やすくなって……ずっと張り詰めていた気持ちが緩んでくれたのかもしれない。わたしの傍にいることでそうなってくれたのなら……いいな)
(でも…………ルクス様のもふもふを堪能できる機会が少なくなってしまった!)
ルクスの気持ちが緩んでくれて嬉しいと思う反面、エリザベスは一つだけ楽しみが欠けてしまっていた。
エリザベスのうずうずしている視線に気づいたルクスが姿を変え、エリザベスが撫でやすいようにかがみこんだ。
エリザベスは、まさか自分の下心がバレているとは思わず、恥ずかしさで肩がびくついた。
「へっ!? あ、あのぅ……」
「撫でてはくれないのか?」
ルクスは、明らかにしょんぼりとして耳としっぽがしおれ、さらに見つめられてエリザベスの心臓がきゅんとなってしまった。
エリザベスは自分がかなり可愛いものには弱いことは自負しているので、目を閉じて顔を背けてやっと欲望を抑えられた。
「え、と……人目がありますから……」
「なら、夜に二人の時にしようか」
耳元で囁かれると、耳まで真っ赤になって、また先ほどとは違った心臓が締め付けられる感覚がした。
ルクスはまた姿を変えて、爽やかに微笑んで腕を差し出す。
「それじゃあ、行こうか……ミーシャやアロクロ殿がいなくなるのは、寂しくなるな」
「はい……でも、大丈夫です。いつも心は同じところにありますから」
エリザベスも微笑んで、ルクスの腕に手を添えて、歩き始めた。
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エリザベスとルクスはミーシャとアロクロが待つ庭園の広い場所に来た。
荷物は魔法で収納しているからか身軽で、アロクロがドラゴンの姿に変わって飛び立つ準備をしていた。
アロクロの傍には、ミーシャと泣きじゃくっているルーニャとそれを宥めるジーニャがいる。
ミーシャは、エリザベスたちを見つけると元気いっぱいに手を振ってくれた。
エリザベスは、我慢できずに小走りして、ミーシャにぎゅっと抱き着いた。
「リズ!」
「ミィ!……もう行ってしまうなんて、はやく感じてしまうわ」
「うん、リズにもルクスさんたちにもいっぱいお世話になっちゃったね……本当にありがとう」
「ううん……ミィ、一緒に過ごせて楽しかった……ありがとう」
エリザベスにぎゅっと抱きしめられると、ミーシャは泣きたい気持ちがこみ上げてくるが、我慢してその代わりに気持ちいっぱいに抱きしめ返した。
二人が抱き合っているのをみて、余計にルーニャの涙が止まらなくなってしまう。
「ぶえっ、ひっぐ、ミーシャもアロクロ様もお元気で……」
「ふふ、もう泣きやみなよルーニャ。また遊びに来るし、結婚式のときに呼ぶから……ずっとのお別れじゃないんだから、ね?」
「で、でもぉ、ざみじいじゃないですか……もっと遊びたかったでづ……」
鼻水たらたらのルーニャにジーニャがハンカチを差し出す。
もらったハンカチはすぐにルーニャの鼻水と涙で濡れてしまった。
「はぁ……ルーニャ、寂しければ手紙を書けばいいだろう? ミーシャさん、アロクロ殿どうかお元気で」
「うん、ありがとう、ルーニャ、ジーニャさん」
「さ、そろそろ行くぞミィ……でないと日が暮れるからな」
「うん……」
最後にもう一度、エリザベスをぎゅっと抱きしめた。
「大好きだよ、リズ……絶対手紙書くから、また遊びに来るし、いつも心の中で想っているから……」
「わたしもよ、ミィ……元気でね、気を付けてね、無茶しないでね……」
名残惜しそうに二人は離れて、ミーシャはアロクロの手に飛び乗った。
「本当に世話になったルクス……助けが欲しい時はいつでも呼んでくれ、魔族はお前たちの味方だからな」
「ルクスさん、エリザベスをお願いしますね!」
「無論だ。アロクロ殿、ミーシャ、また会おう。元気で……」
「アロクロ様、どうかミーシャをお願い致します」
「あぁ、もちろん」
お互いに言葉を交わし合い終わると、アロクロが翼を広げてミーシャと共に青い空に飛び立った。
ミーシャとエリザベスは、姿が見えなくなるまで大きく手を振って、お互いの幸せを願い合った。
これにて本編はおしまいとなります。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!(∩´∀`)∩
良ければ、いいねや感想、評価をくださると作者が飛び跳ねます。
今後、番外編をやるにしてもひっそりと投稿するかと思います。
この物語を楽しんで読んでいただけたなら、書き手として嬉しい限りです!( ;∀;)




