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【完結】たしかにわたしは婚約破棄をされて隣国に嫁がされたけれど、だからって魔王を呼び出しちゃダメよ妹ちゃん!  作者: Nadi
固く結ぶ編

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愛する人

 ルクスは、ほとんど立ち止まることなく必死に城中を駆けずり回って、エリザベスを探し続けていた。

部屋をひとつひとつまわり、部屋をひっくり返す勢いで探す。


 (万が一、ピスティが彼女を暗くて狭い場所に閉じ込めているとしたらっ、声も出せずに怯えているはずだっ……)

 「エリザベス! エリザベス、エリザベス!! どこだっ、どこにいる!?」


 「はぁっ……は、ぁ……ルクスさ、ま……ルクス様、わたしはここにいます! 気づいてください!」


 エリザベスはルクスに姿が認識されなくとも、ずっとルクスの後を追いかけていた。

もともと運動は苦手で体力もないのだが、不思議なことに倒れることなくついてこれていた。


どうやら身体が妖精になってしまっているおかげで、足の傷や叫ぶ喉の痛みはうまれても少しずつだが消えていくようだ。


 (しばらくすれば痛みは消える。でも、ルクス様はずっと探してくださってくれるのに、休んでなんていられない!)


 エリザベスはルクスの外套(がいとう)を引っ張ったり、腕にしがみつくが、やはり身体がすり抜けてしまう。


 「ルクス様っ! ここにいます! お願い……気付いて……」


 しかし、エリザベスに気付くことなく、ルクスは再び部屋を飛び出して、次の部屋に向かった。

エリザベスもルクスについていこうとドレスをたくし上げて、走って追いかける。


すると、走るエリザベスに妖精の姿のピスティが現れて、並走しながら語りかけてきた。


 (リズ、身体は大丈夫? ずっと動きっぱなしだよ。いくら治ると言っても、痛みや疲労は感じるでしょう?)

 「あなたに……はぁっ、心配されなくていい!」

 (……ねぇ、いいかげん諦めたらどう? あいつは君を捨てようとしたんだよ。そんな奴、どうだっていいじゃないか)

 「いやっ! それでも……わたしが……わたしが諦めたくないの!」

 (……………)


 ルクスが次の部屋に入って、部屋を探し回る。

エリザベスも後を追いかけて、ルクスに話しかけるのを繰り返す。


 「はぁ……ルクス様! ルクス様……わたしはずっと貴方様のお傍におります……ルクス様っ」


 エリザベスは、走り続けて足が(ふる)えていて、ルクスに触れようとした時にふらついてべたん!と床に転んでしまった。

それでも、這いつくばって、ルクスの外套(がいとう)を引っ張り続ける。


 「ルクスさま……」


 「エリザベス、すまなかった! そなたを一人にしてすまなかった……血に汚れた俺はそなたに相応しくないと、そなたを突き放してしまった……」


 「そんなこと……そんなことないですっ。わたしこそルクス様にご迷惑をかけてばかりで……でも、それでも」


 「エリザベス………」


 ルクスが再びエリザベスを求めて、部屋を飛び出して廊下を走り始めた。

いくら体力のあるルクスでも、長い間ずっと走り続けていて、疲れが顔にでている。


 しびれを切らしたピスティがルクスの目の前に姿を現した。


 (おいルクス、あと時間もわずかだ。そろそろ諦めて……)


 ピスティが話しかけてもルクスは無視して走り続ける。


 (おい! 少しは止まってボクの話しを聞け!)

 「黙れっ……ぜぇ、エリザベスを返す気がないのなら話しかけるなっ!」

 (いいから止まれよっ!)


 ピスティの制止を聞かずにまた部屋に入って、エリザベスを探し回る。


 「エリザベス!……くっ、エリザベス!」

 (なんなんだよ……見つかるわけないんだよ! 諦めろよ!)

 「諦めるものかっ……彼女を愛しているんだ……この世の何よりも……」


 ルクスの言葉を聞いて、ピスティは身体が沸騰しそうなくらい怒りがわいてきた。

そして、怒りにまかせてルクスの頭に体当たりをかましたが、たいした威力はなく、ピスティの方が床に転げ落ちた。


しかし、そのおかげでルクスの注意が少しだけピスティに向いた。


 (お前は本当に自分勝手な奴だ! 愛してるとかいうなら、だったらなんで避けたんだよ! お前が(おど)りでちゃんとリズを支えてやんなかったから、リズが怪我したんだぞ! お前のせいなのに、リズは全然悪口一つも言いやしなかった!)


 (お前に避けられて、とっても悲しかったのに、辛かったのに、人前で出さないように無理して……本当はたくさん泣いてたんだぞ!)


 (なのに……お前ときたら、お前ときたら!……そんなふうにリズを扱うならボクによこせ!)


 ピスティは、我慢ならずに何度も体当たりを繰り返しては、はじかれて床に転がった。

ルクスは本気で自分に対して怒っているピスティが信じられなくて、思わず動きがぴたりととまった。


 「ピスティ……お前は、本当に……?」


 そのとき、外套(がいとう)がふわりと動いた。

窓は開いておらず、風も感じない。


 「なん、だ……?」


 わずかな動きがあったあと、腕や首元に温かさがよぎった。

ルクスは目を丸くして自分の外套(がいとう)をじっと見つめる。


すると、またふわりと外套(がいとう)が動いた。


 (ひとりでに動いている……)


 ピスティに怒りをぶつけられて、ルクスは少しずつ熱が引いて、冷静になってきていた。


 (そういえば、ピスティは……エリザベスを見つけろと言ったが、居場所をあてろとも言っていた……)

 (妖精は姿を消したり、現わしたりもする……まさか……)


 ルクスはじっと外套(がいとう)を見つめて、ゆっくりと口を開く。


 「エリ、ザベス……」


 外套(がいとう)が応えるようにふわりと動く。


 「まさか……まさか、ずっと……そなたは俺の傍にいてくれていたのか……?」


 ルクスが膝をついて、腕でその場所を囲った。

すると、ほんのわずかだが確実にある温かさが感じられる。


 「ここに……ここにいるのか、エリザベス?」


 ルクスの腕の中が淡く光り、段々と光が強くなり、それが収まった時には、ぼろぼろと泣いているエリザベスの姿が現れた。

ルクスがエリザベスを確かめるように、(ふる)える手でエリザベスの頬に触れる。


確かな柔らかな感触が手のひらに伝わる。

エリザベスもルクスの手に重ねる。


 「エリザベス……すまない、そなたを一人にして……傷つけて……本当にすまない」

 「……ぐず……もう、あんなことしないでください。お願いですから、どうかお傍にいさせてください」

 「あぁ、もう突き放すだなんて馬鹿なことはしない……もう二度と離したりはしない」


 エリザベスは、涙をいっぱい目にためて、ルクスの首に手をまわして思い切り抱き着いた。

ルクスもしっかりとエリザベスを抱きしめ返した。


 床に転がっていたピスティはふわりと浮き上がり、静かに立ち去ろうとしていた。

二人はふと気が付いて、本当に言った通りにエリザベスを返したピスティを二人は不思議そうに見つめる。


 「待って! ねぇ……ピスティ……ううん、イノ……あなた、本当はわたしたちのことを仲直りさせようとしたの? だいぶ荒いやり方だったけれど……本気でわたしを連れて行こうと思ったら、ルクス様にあんな提案をする必要がないもの……」


 立ち去ろうとしていたピスティの動きが止まり、エリザベスの方を向く。

妖精の姿では表情もわからないが、先に見せたエリザベスに対する執着もルクスへの怒りも見られず、感情の起伏が感じられない。


 (別にちょっとした遊びをしたかっただけだよ。でも、はぁー……お互い好きどうしなんだから、初めからそうやってくっついていればよかったんだよ……)

 (好きなのに傷つけるだなんて馬鹿みたいだ……)


 ピスティが呆れたようにぽつりと吐き捨てた。


 (……言っておくけど、本当にリズのことは好きだから、今でも連れていきたいさ)

 (……でもね、ボクはやっぱり君に笑っていてほしいんだ)


 笑っていてほしい、と言った時のピスティの口調は今までで一番穏やかだった。


 (リズ、ボクはもう行くよ。ここにいたらあの魔族が面倒だし……君を見続けるのも……しんどいかな)

 「イノ……あなた……」

 (なにも、言わないで……バイバイ……リズ)


 イノはふわりと飛んで壁をすり抜けて行ってしまった。

これがイノとの一生の別れだとエリザベスは(かん)づいていたが、ひきとめることはしなかった。


 イノが消えた壁をルクスが苦々しく見つめる。


 「ピスティに諭されるとは……俺は本当に情けない男だ……」


 ルクスが目を伏せていると、再びエリザベスがぎゅっと抱き着いて来た。


エリザベスを見つけてやっとルクスは冷静になってきて、自分のやってきたことがどれだけエリザベスを傷つけたかと考えると心がえぐられる。


 「エリザベス……本当にすまなかった……許してくれなどとは言えないが、どうすればそなたの心は軽くなるだろうか……」

 「えぇ……許しません。だから……これからもどうかずっとお傍にいさせてください」

 「そんなこと、むしろ俺が望んでもいいのか……俺の手は血に汚れている。嫌な思いもさせてしまった。それでも、そなたの傍にいてもいいのか……」


 エリザベスは不安そうなルクスに優しく微笑んで、ルクスの顔を愛おしそうに指先で確かめる。

そして、人間でいう(ほお)の部分に口づけをした。


 「はい、貴方様でないと嫌なのです。貴方様がわたしの愛する方なのですから……」


 ルクスは愛おしさを込めてエリザベスを全身で抱きしめた。


 「ありがとう……エリザベス。もう手放したりはしない……二度と」

 「愛している」


 遠くで花火の音が聞こえたが、今はお互いの存在を確かめ合うことの方が二人にとっては重要だった。

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