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帝都✿

最後に挿絵が入っています。見たくない方注意です。

 「っ!?………こ、ここは?」


 エリザベスは、寝台で目覚めたが、宿の寝台ではないようで、綺麗(きれい)な天井が目に入った。

重い身体を起き上がらせて部屋を確認すると、品の良い装飾品で飾られた部屋にいつの間にか移動していた。


 「どうなっているの? たしか、わたし宿で………おそ、われて」


 (のど)を乱暴に押さえつけられたことを思い出し、背筋がぞわりとした。

恐ろしさから、(ふる)えて歯がカチカチとなるし、寒気さえした。


 「わたし………殺されかけて………あれ、手当てしてある?」


 混乱していて気付かなかったが、首に触れると包帯が巻き付けてあった。

服もいつの間にか新しい着心地の良い寝間着に着替えられていた。


 (リズがおきた!)


 心配していた妖精たちが何匹か近寄ってきて、泣きじゃくるようにエリザベスの首元に(すが)ってきた。


 (リズ いたい? いたいのなおしちゃだめなの?)

 「心配してくれてありがとう、大丈夫よ。ごめんね、今は駄目なの」

 (うぅ わかた)


 妖精たちは、しょんぼりしながらも離れていった。


 状況が把握しきれていない今、怪我を急に治して聖女と疑われでもしたらたまらない。

そうならないように妖精たちには、怪我を治すのはお願いしたときだけにしておいてほしいと約束してある。


 (とにかく、ここがどこで、どうなっているのか確認しないと)


 エリザベスが寝台からおりて立ち上がるとほぼ同時に扉がノックされた。


 「エリザベス様、メイドのルーニャでございます」


 聞こえてきたのは女性の声だった。

ただ、ルーニャというメイドは知らないのだが、メイドということは自分はどこかの貴族の屋敷に連れてこられたということは理解できた。


 「はっはい、どうぞ」

 「あえっ!? 起きていらっしゃる!?………んんっ、失礼します」


 エリザベスの声を聞いて、ルーニャの慌てた声が聞こえたが咳払いをして気を取り直したようだ。

部屋に入ってきたのは、若葉のような色の髪と瞳の可愛らしい女性だったが、彼女が人間ではないことが見てすぐにわかった。

彼女は小麦色の肌を持ち、その耳の端がぴんととがっている。


 ルーニャは人懐こい笑顔で微笑んで礼儀正しくお辞儀をした。


 「お初にお目にかかります! エリザベス様の専属メイドを仰せつかりました。ルーニャと申します」

 「この帝国に着いてから、エリザベス様は二日もお眠りになっていたので、心配しておりました。本当にお目覚めになってよかったです!」


 ルーニャは、表情豊かな人で、心配そうに眉を八の字にしたかと思うと、安心したとぱっと笑顔になる。


 「わたし、二日も眠っていたの? それに帝国って………」

 「はいっ、意識がありませんでしたが危険でしたので、帝都のお城に運ばせていただきました!」

 

 ルーニャが部屋の窓を開けると、広大な城の敷地が広がっていて、城下町も庭園のむこうに見えた。


 (本当に帝都に来たんだ)


 「………」

 「? どうなさいました?」

 「え、あぁ、そういえば、わたしを狙ってきた人は………?」

 「もっちろん! 皇帝陛下がボッコボコにして捕まえましたよ! 見たかったなぁ」

 「そ、そう………」


 (あの人………助けてくれたあの人が皇帝陛下だったのね)


 ルーニャは瞳を(かがや)かせているが、エリザベスはその時の血の匂いや殺されそうになった恐怖を思い出すと血の気が引いてしまった。


 「エリザベス様、顔色が悪いです! もう少しお休みになられた方がよろしいのでは?」

 「いいえ、大丈夫。身支度を手伝ってくれる? 皇帝陛下に謁見(えっけん)しにいかないと」

 「かしこまりましたっ!」

 「あ、あと、それと………」


 エリザベスは、ルーニャに向き直ると目をつむり、手のひらを上向きに広げて、両手をルーニャに差し出した。


 「これからいろいろ迷惑をかけると思うけれど、これからよろしくね」


 エリザベスは、目をつむっているのでわからなかったが、ルーニャはエリザベスの手のひらを凝視(ぎょうし)したまま固まってしまっていた。

そしてどうしてかルーニャが嗚咽(おえつ)をもらしながら、ぼたぼたと大粒の涙を流して泣き出した。


 エリザベスは、ルーニャの「うぐぇ、ひっく」という声に驚いて目を開くと、大泣きしているので何か悪いことをしてしまったのかと慌てふためいた。


 「どっどうしたの!? あぁ、わたし何か悪いことをしてしまった? ごめんなさいっ」

 「ぢ、ぢがいまず………うう、れじぐで」


 ルーニャは、ぐしぐしと乱暴に涙を袖で拭って、鼻水を勢いよくすすった。


 「その、挨拶は私たちの一族の仕方ですよね? 少数民族だから、知ってくれている人がいると思わなくて」

 「そう………本で読んで覚えてはいたのだけれど、やるのは初めてだから何か間違いはなかったかしら」

 「あってまず………手のひらをみせるのも、目をつむるのも、相手に信頼を示す行為。ありがどうございまず」


 ルーニャがエリザベスの手をとって、膝をついて目を伏せた。


 「このルーニャ、エリザベス様に安心して帝国で過ごせるようにお守りいたします!」

 「ありがとう。でも、守るだなんて、身の回りのことをしてくれるだけで十分よ」

 「いいえ! 先ほど言いそびれましたが、私は専属メイド兼、護衛でもありますからっしっかりお守りいたします!」


 ルーニャは、立ち上がってにぱっと笑うと、強いと示したいのか空中に拳を何度か()って得意げな顔をした。


 (こんなに可愛い子が護衛も………いいのかしら)


 「ハッ! 陛下にお会いするのでしたね。さっそく準備いたします」

 「えぇ、お願いね」


 ルーニャは元気に部屋を飛び出していった。


 (ルーニャの元気な笑顔を見ていると思い出しちゃうなぁ)


 エリザベスはふるふると首を横に振って、拳をぎゅっと握りしめた。


 (ルーニャもいてくれるけど、ここからは一人………頑張らなくちゃ)

 (どんな人かまだよくわからないけれど、まずは皇帝陛下に会わないと!)

挿絵(By みてみん)

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