面影
エリザベスたちが着替えに使うために案内された部屋は、明らかに可愛らしい子供用の部屋だった。
棚の上には、きれいなガラスの小瓶がいくつも並んでいて、そして女の子が描かれた小さな絵が一枚飾られていた。
(かわいい小瓶、どれにも丸い模様がつけられてる。名前の代わりなのかしら?……それに、これは)
エリザベスはその絵を手に取って眺める。
(これは……きっと、クファン公爵のご息女だわ。本当だ……わたしにそっくり)
髪の色はエリザベスよりも暗いものの、顔立ちも漂う雰囲気もエリザベスに似たところがある。
エリザベスがじっと見つめて動かないのを服を貰って来たルーニャが肩越しに絵を覗く。
「かわいい子ですね。エリザベス様の小さい頃ってこんな感じだったりしますか?」
「えぇ……とても、似ていると思う……クファン公爵のご息女ね……」
「ご病気だなんて、かわいそう……」
「本当に………さ、はやく着替えてそろそろお城に戻らないと」
「はい! あ、でも……」
ルーニャが何か言いたげに、眉をひそめて口をへの字にしている。
エリザベスがどうかしたのかと首を傾げると、ルーニャが持っていた頭につけるボンネットとドレスを広げて見せた。
フリルがたくさんあしらわれていて、全体的に柔らかい雰囲気の淡い青色のドレスだった。
「貸してもらって言うのはなんですけど、エリザベス様にはこのドレスはだいぶ……子どもっぽいというか」
ルーニャが持っているドレスは、確かに子供用のドレスを大人用にしたようにも見える。
ルーニャもエリザベスもついつい笑顔がひきつった。
「えっと、うーん……きっと女性の意見が聞けない状況だからとか……きっとそうよ!」
とりあえずそう思い込むことにして、ルーニャに手伝ってもらって服を着替えた。
「いや、思い過ごしですね……エリザベス様が着ると、とっても似合います! お人形さんみたいで、かわいいです!」
「えっ、そ、そう?」
着ていた服はメイドに渡し、エリザベスとルーニャは屋敷の玄関に向かうと、丁度リュゲルの息子マグザが帰ってきていた。
エリザベスが挨拶をしようとしたとき、マグザの顔はどうしてか真っ青になった。
そしてぽつりと「リーシア?」と誰にも聞こえないほど小さく呟いた。
しかし、すぐにハッと口を塞ぎ、態度を取り繕った。
「本当に妹のために来てくださったのですね。その慈悲深き御心に感謝いたします……あの、その服は?」
もしかして似合わない!?かと少し狼狽えたが、マグザの表情が引いているというより、辛そうで感情がわからなくなってしまった。
「こんにちは、マグザ様。ご夫人とご息女のお墓にお参りした後にお茶をいただいたのですが、その時にお茶がこぼれてしまって……こちらの服を貸していただいたのです」
「そう、でしたか……」
マグザは視線が落ちて、じっと考え込んでいて、エリザベスはどうしたものかと困っているとリュゲルがにこやかに見送りに来てくれた。
リュゲルは「お似合いですよ」とほめてくれて、エリザベスは少し心に不安を抱えつつ、微笑んでお礼を言った。
すでに、帰らなければいけない時間になってしまったので、エリザベスは丁寧にお礼を言って城に帰った。
リュゲルとマグザが二人になると、マグザが父に険しい顔で詰め寄った。
「父上! どういうおつもりですか!?」
「どういう、とは?」
「あれはリーシアが気に入っていたドレスと同じデザイン、同じ色じゃないですかっ」
「あぁ、やはりあの色が一番似合うだろう?」
「父上、しっかりなさってください。妹は、リーシアは……死んでしまったのです。エリザベス様はリーシアではないのですよ」
「………」
「お願いです……目をお覚ましになってください……」
震える声で必死に訴えるマグザに、リュゲルは沈黙で会話を無理やり終わらせた。
息子である自分の声も届かなくなってしまった。
背を向けて離れていくリュゲルをマグザは悲しみ溢れる視線で見送ることしかできなかった。
エリザベスたちが城に帰った時、エリザベスは(うぅ……ルーニャもクファン公爵もいいと言ってくれたけれど、マグザ様は絶妙なお顔をなさっていたし、はやく着替えよう)と思ってなるべく速く自室に戻ろうとしたが、途中でばったりとルクスとジーニャに出会ってしまった。
ルクスは、いつもとは違うエリザベスの格好に、瞬きをして上から下にじっくりと見ていた。
(ああぁ! やっぱり変なのね! ルクス様、みないでっ)
エリザベスは、頭が混乱してしまって、挨拶もそこそこに真っ赤になった顔を隠して足早に立ち去ってしまった。
「えっ……どうしたんだ、エリザベス? なんだか……こう、ふわふわとした格好だったな」
「クファン公爵の屋敷に訪問されていたはずなのですが……? ですが、あの様子では趣味を変えられたわけではなさそうですね」
「あのふわふわとした格好もかわい……んんっ」
ルクスは、のろけそうだったのを咳払いで止めたが、ジーニャの視線が痛かった。
「………のろけでしたら、後で聞きますよ。友人として」




