心淋しさ
エリザベスはルーニャを連れて、結婚式で出会ったクファン公爵の娘の冥福を祈りに、公爵家へと出向いた。
エリザベスはもってきた花束を娘と、そして娘を産んだ時に亡くなってしまったという妻の墓に供える。
目をつむり、そっと手を重ねて、亡くなった二人と残されたリュゲルとその息子マグザのために祈った。
(家族を二人も亡くされるだなんて……どうか、安らかにお眠りください)
リュゲルは少し涙ぐみ、それをハンカチで拭って寂しい笑顔でエリザベスに微笑む。
「ありがとうございます、皇妃様……妻も娘も喜びます」
「いえ、わたしにはこれくらいのことしか……」
エリザベスもリュゲルの痛みが伝わって、笑顔に悲しみが表れてしまう。
「申し訳ございません、どうにも暗くなってしまいますね……よろしければこの後お茶に付き合っていただけないでしょうか? 息子はどうにも新しい茶葉にも、甘い菓子にも興味がないようで、いつも寂しい思いをしてしまうのです」
「はい、わたしでよろしければ」
このままだと悲しいだけで終わってしまうのが申し訳なかったのか、寂しさを隠しながら冗談っぽくにこやかに誘うリュゲルの提案をエリザベスは優しく微笑んで快諾した。
きれいに手入れされた庭園で美味しいお茶とお菓子を囲むだけで気持ちが落ち着く。
リュゲルは、穏やかな人で、エリザベスは緊張せずにこやかに談笑できた。
さらに、リュゲルの眼差しはまるで娘を見るようで、にこにことエリザベスの話しをよく聞いてくれた。
その温かい眼差しはエリザベスが得られなかったもので、心地がよくて話が弾んでしまう。
「そうですか、エリザベス様はお菓子作りがお好きなのですね」
「はい……王国にいたころは、こっそりと妹といっしょにお菓子作りをしていたのです」
「こっそりと? お菓子作りを許さない人でもいたのでしょうか?」
「………父が厳しい人で、お菓子作りをする時間があるなら勉強をしろ、と言われてしまうので……」
「ふむぅ……そのようなことが……エリザベス様はこんなにもお優しく、努力家でいらっしゃるのにそのようなことを言うとは、仮に私が父ならばむしろいっしょにお菓子作りを楽しんでみたいものです」
リュゲルが本当に心の底からエリザベスの父に怒りを示すように、何かを悔やむように、手を固く結んで言うものだから、エリザベスはどうしてそこまで言ってくれるのかと驚いてしまった。
目を丸くして瞬きしていると、リュゲルが我に返ってくれて苦笑いを浮かべた。
「これは、失礼いたしました。つい、娘に似ているというのがどうしても他人事のように思えなくて……」
「いいえ……むしろ、ありがとうございます。クファン公爵にそう言っていただけると、心が軽くなります」
エリザベスは特に悪い感情を向けられたわけでもないし、ただほとんど知らない間柄なのに本当に心配をしてくれたリュゲルは好意的に思えた。
「本当にリュゲル公爵はご息女を大事になさっておられたのですね……ご息女が羨ましいかぎりです」
(もし、クファン公爵のような方が、父親だったら……穏やかな日々を過ごしていたのかしら……わたしには……得られなかったもの……)
エリザベスが寂しそうに微笑むと、リュゲルは心配したように眉が八の字になる。
「エリザベス様、こんなことを申し出るなど、失礼に当たるのは重々承知しているのですが……もしよろしければいつでもこの屋敷にお越しください」
「使用人もおりますが、息子は今日のように出ていることが多く、やはり寂しいものですから、話し相手になっていただけると嬉しいのですが……」
リュゲルが優しく微笑むと、エリザベスも明るい笑顔が戻って来た。
「はい、わたしでよければ、ぜひまたうかがわせてください」
「あぁ! ありがとうございます……おや、カップが空いておりましたね。気づかずにすみません。皇妃様におかわりを」
リュゲルが合図をすると、メイドがおかわりを注ごうとポットを持った。
しかし、メイドの手が震えてエリザベスのドレスにこぼしてしまった。
「大丈夫ですかエリザベス様!?」
ルーニャが慌てて駆け寄って、エリザベスがやけどをしていないか確認する。
幸い、服が濡れただけでエリザベス本人にはかかっていないようだ。
リュゲルも立ち上がって、メイドと一緒に顔を青ざめて平謝りをする。
メイドに至っては泣きそうになっていて、こちらが申し訳なくなってくるほどだ。
「私のメイドが大変申し訳ございません!」
「も、申し訳ございませんでした……」
「大丈夫ですよ。それよりも、あなたはやけどをしていませんか? 手が震えていましたから、体調が良くなかったのですか?」
優しく微笑んで、しかも心配の言葉を述べられて、ついにはメイドが泣きだしてしまった。
メイドを休ませるようにリュゲルに頼み、メイドは屋敷へと戻っていった。
「大変な失礼を……お客様用に替えのドレスがございますので、よろしければお召しになってください。そちらのドレスはきれいにしてお返しいたします」
エリザベスがどれだけ遠慮してもリュゲルは頑なであったし、なによりそれで申し訳ない気持ちが晴れればよいと、着替えさせてもらうことにした。




