休息
よし、よし!
第二部始めます!(∩´∀`)∩
「クッククク……やったぞジーニャ、ロギア教国からしぼり取ってやった」
「ふふふ、多額の賠償金と領地の無条件譲渡、その他もろもろ……感服いたしました、陛下」
「魔族との戦いでロギア教国が関わっていたこや、聖女を監禁していたことの公表はだいぶ渋ったが、こちらには証人が大勢いる……それに、やつらも帝国とは戦争したくはないだろう」
ロギア教国と交わした書類を見て、ルクスとジーニャが悪い笑みを浮かべている。
それを執務室で仕事をしていたエリザベスが、ほんわかと微笑ましく眺めていた。
(あんな風に笑う姿は初めて見たわ……ルクス様もジーニャも楽しそう)
ロギア教国の一件から数週間、帝国と教国の間では示談が行われていた。
ピスティを中心とした教団の一派が行ったことではあるが、ルクスとエリザベスは命の危険にさらされたため、一歩間違えば戦争が始まってしまうところだった。
しかし、戦争を起こし大きなしこりを残すよりも、示談で相手が追い詰められる間際まで、もぎ取れるだけもぎ取ろうという方針になった。
「よし、アロクロ殿に話をするか……」
「わたしも行きます。きっとミーシャと一緒に訓練場にいらっしゃるでしょうから」
ミーシャとアロクロ、他の魔族たちもいったんこの帝都の城に滞在してもらっている。
ミーシャにいたっては、帝国騎士団に入り浸って訓練にいつの間にか参加までしている。
帝国騎士たちは不思議に思いながらも、ミーシャの傭兵仕込みの戦い方に興味が湧いて一緒に訓練しているらしい。
それにアロクロは巻き込まれているようだった。
エリザベスとルクス、そしてエリザベスの専属メイドのルーニャが訓練場に着くと、騎士たちは訓練の手を止め、整列する。
そして、一斉にお辞儀をする迫力のある挨拶をされると、エリザベスは少し気が引けてしまった。
その隊列から、ミーシャがひょっこりと顔を出す。
「リズ! じゃなくて、皇妃様に……皇帝陛下!」
「ふふっ、もう、すごくぎこちないわよ。やっぱり、慣れないわね」
「うん……これは本当に身体が拒否反応をだしちゃうよ……」
しゅんとしているミーシャに、エリザベスが困ったように微笑む。
人前では呼び方を改めようとなったのだが、どうにもミーシャは慣れなようだ。
ミーシャは訓練を先ほどまでしていたのだろう、額に汗が流れている。
エリザベスは、用意していた手拭いをかぶせてあげようと思った時、その前にミーシャの頭に別の手ぬぐいがかけられた。
「お疲れさん、ミーシャ」
「アロクロ! ナロクロさんとタクトさんはどうだった?」
「生活にも慣れて、相変わらずイチャイチャしてたよ。はぁ、見てるだけでこっちの身体がそわそわする」
アロクロが手拭いでミーシャの汗を拭いてやる。
アロクロは、帝都で暮らすとき、魔族の特徴である角やしっぽは隠している。
魔族は、今でも人間に恐れられている存在であるため、なるべく正体を現さないほうが過ごしやすい。
「二人はラブラブだもんねぇ、愛称呼びとか」
「ミーシャもしたいのか?」
アロクロがからかうような笑みで顔を覗くと、ミーシャは何も言わずにそっぽを向いてしまった。
ただ、頬を赤らめて、少し手をもじもじとしているので、憧れはあるのかもしれない。
エリザベスは、その様子を見るとついつい愛しさがわいてきてしまって、ミーシャをぎゅっと抱きしめた。
「リズ、あたし汗だくだよ!?」
「いいの。だって、ミィがかわいいもの」
「ミーシャ……ミィ……うん、ミィと呼ぶかな」
ミーシャがアロクロに愛称で呼ばれると、ちょっと嬉しそうに笑ったので、アロクロもミーシャをぎゅっと抱きしめといた。
「うんうん、ミィはかわいいな」
「もっ、もう! あっつい!」
「ずるいです! あたしもミーシャとエリザベス様とぎゅっとします!」
ずっと、うずうずしながら見ていたルーニャまで加わって、三人に抱きしめられる変な団子状態が出来上がった。
「あつい、あつい、あついってば!」
「こら、ミーシャが困っているだろう。さすがに離れなさい。アロクロ殿、話があるんだ。いいか?」
「あぁ、かまわない」
ルクスにちょっぴり叱られるとエリザベスとルーニャは、名残惜しそうに離れた。
そして、ルクスとアロクロで話し合いに行ってしまった。
「ミィ、少し休憩しない? お菓子を作ってきたの」
「うんっ、リズの美味しいお菓子は久しぶりだなぁ」
ルーニャがてきぱきと庭園に大きな布を敷いて、クッキーやお茶の準備をする。
陽ざしが当たらないように傘を広げる。
「ありがとう、ルーニャ」
エリザベスとミーシャが隣どうしで座り、エリザベスが「ルーニャも食べましょう」というと、ルーニャもにぱっと笑って座った。
三人がお茶を飲み、お菓子を食べてゆったりとした時間を過ごす。
「それにしても、アロクロとルクスさんは何の話してるんだろ?」
「ロギア教国から賠償金と領地を貰ったのだけれど、その領地が以前、魔族の人たちが住んでいた土地なの。争いで空いた土地を裏で支援していたロギア教国が奪っていたのね……それで、その土地をアロクロ様たちに返そうって……区分としては帝国の領地になるけれど」
「じゃあ、アロクロたちは住んでいたところに帰れるんだね」
「えぇ……魔族に対する恐怖心はこれからゆっくりなくしていくことしかできないけれど、とりあえず安心して住める場所ができてよかったわ」
「うん、うん……! ほんとにありがとうリズ。ルクスさんにもお礼言わなきゃ」
ミーシャが笑顔で泣きそうになりながら、こくこくと頷く。
しかし、エリザベスは微笑みながらも、少し寂しそうな顔をしている。
それに気づいたミーシャが目をぱちくりとさせる。
「どうしたのリズ? 何か……あ、もしかして……」
ミーシャはエリザベスの寂しい顔の理由に見当がついて、俯く。
「ミーシャがアロクロ様と一緒に行ってしまったら、また離れ離れになる……と思ったら寂しくなってしまって」
「うん……寂しい」
「けれど、これも仕方のないことなのよね。わたしもミィも新しい生活が始まっているもの」
「うん、いいことなんだけど……でも、やっぱり寂しいな」
二人がしゅんとしていると、見ているルーニャまでしゅんとしそうになったが踏ん張った。
そして、励ますように、にぱっと笑う。
「まだ、ミーシャが滞在しているうちにたっくさん思い出を作ってはいかがですか? 楽しい思い出いーっぱい!」
ルーニャの提案にミーシャとエリザベスの目が輝く。
「うんっ、そうしよ! ね、リズ、町に遊びに行こうよ! ルーニャと三人でさ。もちろん、忙しいと思うけど、時間を作ってさ」
「うん、行きたい! ドレスを新調しないといけなかったからその名目で出かけましょうか。ふふ、昔ミィと一緒に屋敷を抜け出したことがあったわね。どうしてもお祭りが見てみたくって……」
「後でお母様めちゃくちゃ怒ってたね。無表情の圧がすごかった」
「お母様は……心配なさっていたから……」
ふと、エリザベスの瞳が暗くなった。
(でも、その後……お父様が……ううん、思い出すのはやめよう)
瞳が沈んだのはミーシャも気づかないほど一瞬で、すぐにいつもの笑みが戻ってきて、今さっきまでの暗い表情などなかったかのようだ。
・
・
・
「うぉい!! 入れろ! わしを誰だと思っているっ!」
「落ち着いてくださいっ」
城の門前で、みすぼらしい格好の男が暴れ怒鳴り散らしているのを門番たちがなだめすかす。
「ぜぇ、ぜぇ、わしは皇妃の父なのだぞっ! それをわかってこの対応をしているのかっ!?」
「本日は皇妃様のお父上様がいらっしゃる予定を聞いておりませんので……今確認しておりますが、何か証明するものをお持ちですか?」
「っぐう……会えばわかるっ。エリザベスを連れてこい! 父が困っているのだからっ、当然助けるべきだろうが!」
無理に男が門番を突破しようとしたので、警告の後に門番は男を連行した。




