補い合う
あっあー!(/ω\)
ミーシャが馬車で母エミリアと穏やかな時間を過ごしている一方で、エリザベスは羞恥心と戦っていた。
馬車にルクスと一緒に乗ったまでは良かったが、乗り込んでからが大変だった。
「ルクス様、待って……くださいっ」
「……」
ルクスは姿を狼から人間に近いものに変えたと思えば、エリザベスを抱え込み、口づけの雨を降らせていた。
額から瞼に軽く、頬に続き耳たぶは少し噛まれた。
エリザベスとよほど離れたくないのか、がっちりと両腕が腰にまわされている。
エリザベスは混乱と恥ずかしさで耳まで赤くなる。
しかし、思考がぐるぐると回るばかりでなぜ突然こうなってしまったのか、まったくわからない。
(どっどうなさったのかしら!? いきなりこんなっ)
「あのっ、本当にどうなさったので……んっ」
唇を重ねられて、言葉が遮られた。
何度も角度を変えられて、唇を軽く食まれるとエリザベスの肩がぴくりと跳ねる。
離れたと思えば、首筋に口づけをされ、身体が甘くとけていく。
エリザベスは、理由はよくわからないものの、もうそんなこと考えられなくなるくらい頭がぼーっとしてきた。
(なんか……頭の奥がしびれてくる)
頭の後ろを支えられながら、ゆっくりと押し倒された。
ルクスは、止まることなく、エリザベスの首元を強く吸ったり、甘噛みし始めた。
ぴりっとした痛みがして、思わず声がもれて、目じりに涙が浮かんだ。
このまま本当に止まってしまわないのではと、ふと頭の隅に浮かんだ。
そして、なによりルクスが何も話さないのが不安で仕方がなかった。
「ルクス様……ルクス様……少し、止まってください……」
「………」
ずっと無言なのが少しだけ怖くなって、なんだか泣けてくる。
「ルクス様、お願いです。何か言ってください………少し……こわい、です」
「っ!………」
ルクスはやっととまった。
ただ、顔をみせないようにうずくまっていき、表情がわからない。
しかし、ルクスの耳はしおれているし、肩が震えて、鼻をすする音も聞こえる。
エリザベスは、驚いて、目をぱちくりとさせた。
「泣いていらっしゃるのですか……?」
「……怖がらせて、すまなかった」
ルクスが離れていこうとするので、エリザベスはその前にルクスの頭を抱きしめて倒れた。
「エ、エリザベス!?」
「そのままで……」
エリザベスは頭を優しく撫でる。
「ルクス様……どうしてその貴方様の心が波立っているのか、教えていただけますか……?」
しばらく黙って泣いていたが、ぽつりぽつりと話し始めた。
「………そなたが女神に身体を乗っ取られた時、絶望で目の前が真っ暗になった。そなたの笑った顔が二度と見られないのかと、また、大切な人を俺は守れなかったのかと……」
「本当にそなたがいるのかと不安が押し寄せてきて、そなたの存在を確かめたくて、歯止めがきかなくなった……」
ルクスは声が震えて、手をぐっと握りしめている。
ルクスの涙でエリザベスの胸のあたりが濡れているのがわかる。
「怖い思いをさせてしまって、申し訳ありません……」
「そなたは何も悪くないんだ。俺が弱いだけで……そなたには情けないところばかりみせているな……」
「それでもいいではありませんか……弱くても、情けなくとも……人は強さも弱さも両方持ち合わせる、と本で読みました」
「弱いのに、強いのか……?」
「はい、貴方様は他者を守るために立ち上がれる強さがあります。人に優しくできることも、また強さですわ。それに自分の弱さを知っている人は、素晴らしいのですよ。だって、知らなければ克服することも、誰かに補ってもらう選択も考えつきませんから」
「………」
ゆっくりとルクスが起き上がると、お互いの視線が重なる。
少し目が赤くなったルクスは驚いたような顔をしていて、エリザベスは愛おし気に微笑んでいた。
にこにこしながらエリザベスは頭を撫でてきて、その手に頭をゆだねるとルクスは落ち着きを取り戻した。
ルクスがエリザベスの撫でる手を包み込んで、口元に持ってくる。
以前、狼の顔でされた時と違って、ルクスの唇の感触が直接する。
しかも、何度も音をたてて手のひらや指、手首に口づけをされた。
エリザベスにだんだんと恥ずかしさが戻ってきて、頬が赤く染まる。
「あ……の……」
「エリザベス、そなたの言葉で心が軽くなる……どうして、そなたの言葉はこんなにも響くのだろう」
「お役に立てたのなら……その、嬉しいです……」
「……エリザベス、今度はきちんとそなたを愛したい。いいだろうか?」
「ぁ、ぁぃ……」
金色の瞳は熱を帯びていて、エリザベスの心臓がどきりと跳ねて、身体全体が熱くなる。
質問されているのに、口は、はくはくと動くばかりで、答えがでてこない。
しかも、ルクスの瞳に見つめられると「いいえ」なんて言えるはずもなかった。
エリザベスはルクスの頬を撫でて、こくりと頷いた。
・
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宿に到着し、エリザベスたちが馬車から降りる。
ミーシャがエリザベスの格好に目を丸くした。
「リズ……どうしたのその恰好」
「へっ!? えと、寒くて、ルクス様に外套を借りたの」
「ふーん……」
エリザベスは外套を身体にまいていて、その恰好を見てミーシャが不思議そうに首を傾げた。
寒いといいつつ、エリザベスの顔は赤い。
傍らに居る狼の姿に戻ったルクスは、なんだか満足そうにしっぽを左右にゆっくりと揺らしていた。
ミーシャが、んーっと首を傾げていると、急にアロクロに頭をわしゃわしゃ撫でられた。
意味もわからずわしゃわしゃされて、むすっとしながらアロクロを睨む。
「ミーシャはそういうところも可愛いな」
「な、なによ?」
「とにかくミィ、ほらご飯食べましょ? お腹減ったでしょ?」
「うん、ぺっこぺこ! お母様も一緒に、ね?」
ミーシャがエミリアを見ると、エミリアはこくりと頷いた。
エリザベスは、エミリアをみとめると穏やかに微笑んだ。
(よかった……ミーシャとお母様、壁がなくなったみたい)
ふと、隣をむくと、ルクスと視線が合う。
先ほどの馬車のこともあって、「ひぅっ」と声がもれて視線を外した。
恥ずかしさで、頭から湯気がでてしまいそうだ。
(しばらくは……ちょっと、まともに顔が見れない、かも……)
これにて第一部はおしまいになります。
まだまだ続くんじゃよ
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