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【完結】たしかにわたしは婚約破棄をされて隣国に嫁がされたけれど、だからって魔王を呼び出しちゃダメよ妹ちゃん!  作者: Nadi
交わり編

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身勝手

 ルクスたちは、ピスティと戦った地下へと再び戻って来た。

やはり、大聖堂前の戦いに兵士たちは手一杯のようで、行く手を(はば)むものは少なかった。


 地下に続く階段のところで息をひそませ、様子をうかがう。


 花畑のど真ん中に、先ほどまではなかった巨大な(まゆ)でできた木が生えていた。

その巨木の枝は壁の聖女たちが捕まっている(まゆ)にのびている。


その枝は脈打つように動いていて、周りの(まゆ)から力を吸い取っているようだった。

その巨木の(かたわ)らには、ピスティの姿が見えた。


 ミーシャが何かを感じとり、そびえたつ巨木を凝視(ぎょうし)する。

ルクスが、食い入るように見ているミーシャの視線に気づく。


 「あの木なかにリズがいる……絶対そう」

 「わかるのか?」

 「えっと、うん。なんとなくだけど、リズの場所がわかる」

 「よし、二手に別れよう。アロクロ殿とルーニャは周りの聖女たちを解放を、ミーシャはエリザベスの場所を探りだす。その間、俺がピスティを引き受けよう」


 三人はこくりと(うなず)いた。



 ピスティは巨木に触れ、そっと目を閉じる。


 「やっとだ……本当に長かった……」


 ぐおああああ!


 ドラゴンに姿を変えたアロクロの力強い叫び声で、空間全体までもが()れる。


 「……うそだろ? どうやってあそこを抜け出した!?」


 アロクロが壁に沿って飛び、途中アロクロに乗っかっていたルーニャが下りて、巨木の枝に飛びついた。


 「アロクロさん、どーも! よしっ、救出作戦開始です! がぶりっ」


 ルーニャも姿を変え、鋭い牙と爪で(まゆ)に続く枝を引き()いていく。

アロクロも反対側の枝を爪で引き()く。


 「やめろ!! ボクの邪魔をするなッ!」


 ピスティが鎖を出現させ、アロクロとルーニャにさし向けようとしたところでルクスがピスティにタックルをかました。


 「ぐふっ」


 地面に転がったピスティは、ルクスに手足を押さえつけられた。


 「ミーシャ! 今のうちにエリザベスを!」

 「うんっ!」


 ミーシャが巨木に足をかけて、軽々と登っていく。


 「待っててリズ、今度こそ助けるんだからっ」

 「やめろぉ! ボクの……ボクの最後の願いなんだっ! 頼むからやめてくれ!」


 ピスティの悲痛な絶叫が聞こえるが、ミーシャは無視して巨木に触れて、エリザベスの居場所を探る。

耳をあててみると、鼓動のような一定の振動が伝わってくる。


 「……ここだ。ここにいるんだね」


 ミーシャはもっていた剣の刃を巨木に向けて、深く突き刺した。

 (真っ暗だわ……何も感じない。何も聞こえない)

 (わたし、どうなってしまったの?)

 (ミーシャやルーニャ、アロクロ様………ルクス様、皆は無事なの?)


 エリザベスは暗く何も感じない時間が続いていたが、ふと目を覚ますと、(きり)がかった見知らぬ場所に立っていた。


 「……? ここは?」

 (リズー!)

 (わぁ! リズだー)

 「あれ? みんなもどうして?」


 妖精たちがふわふわと飛んできて、エリザベスの頭にとまったり、(ほお)ずりしたりする。


 「ふふ、くすぐったいよ……ねぇ、ここはどこなの? わたし……何をしていたんだっけ?」

 (めがみさまの ばしょー)

 (あっちに いるよー)

 「女神様が?」


 妖精に連れられるまま歩いて行くと、足が水に触れた。

不思議と冷たくない。

しかし、ドレスは()れて重くなると困るので、裾を持ち上げてついて行った。


 「待って、みんな!」


 しばらく歩くと、(きり)にうっすらと人影が見えてきた。


 「誰かいる……?」

 「いらっしゃい、かわいいエリザベス」

 「?……貴女様が、女神様ですか?」

 「えぇ、そうよ」


 桃色の髪の美しい女性がゆったりと椅子に座っていた。

そして、彼女には妖精の羽と同じような虹色の透き通る羽が背から生えている。


ティータイムにぴったりな美しい彫刻(ちょうこく)が彫られた白い机と椅子が不思議なことに水面に浮かんでいる。


 彼女は優雅(ゆうが)にお茶の時間を楽しんでいたようで、紅茶や美味しそうなお菓子が机に並べられていた。


 「さ、そんなところで()れていないで座って」

 「はっ、はい」


 エリザベスは言われるまま椅子に登って、座った。

神なる存在が目の前にいるだなんて信じられず、緊張で身体が強張る。


もじもじとしていると、女神は穏やかに、にこりと微笑んだ。


 「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよ。そんなだいそれたものじゃないのだから」

 「で、ですが……女神様は全ての命を想像された尊いお方だと、存じております」

 「あー、そんなこともしたわね。あまりにも暇だったから」

 「えっ、暇……だったから、ですか」

 「えぇ、そう」


 女神は自身がしたことなど、なんてことがないように言い放つ。

エリザベスは女神という存在が想像と違っていて、困惑した。


 「あの、女神様。わたしはどうしてここにいるのでしょう?」

 「あなたは妖精と同化してしまって、さらには私に身体を乗っ取られかけているから、消えかけているのよ……もうすぐ消滅するんじゃないかしら?」

 「しょっ! わたしは……死んでしまうのですか?」

 「まぁ、似たようなものね」


 また女神はなんてことがないように言うと、紅茶を静かにすする。

エリザベスの顔は真っ青になり、身体が(ふる)えている。


 「そんなっ、なんとかならないのでしょうか……」

 「うーん……別に私は復活なんてしなくてよいのだけど……あの子がねぇ」

 「あの子?」

 「今はどんな名前を使っているのだっけ?」


 女神がそこらを飛んでいる妖精に(たず)ねる。


 (サエウム)

 (ピスティ!)

 「あぁ、そうそう、サエウム・ピスティ」

 「彼のことをご存じなのですか!?」

 「もちろん。だって、あの子を作ったのは私だから」

 「作った? 確かに女神様は命の創造をなさったとは……」

 「あの子は特別。私が話し相手に妖精をもとにわざわざ作ったのよ。でも、あの子は命なんかじゃないのよ」

 「妖精をもとに……?」


 女神は妖精を手のひらにのせる。

次の瞬間、女神が容赦(ようしゃ)なく手のひらの妖精をくしゃりと(つぶ)すと、エリザベスは小さく悲鳴をあげた。


 「なっ、なにをなさるのですか!?」

 「大丈夫よ」


 女神が手のひらを広げると(つぶ)された妖精は元気がなさそうにしていたが、しばらくすると潰れた羽がぴんと伸びて再び空中を飛び始めた。

エリザベスが心配そうに妖精を手のひらにのせて優しく()でる。


 (くしゃりされた いてて)

 「大丈夫?」

 (だーじょぶ)


 エリザベスが女神を(にら)む。

女神は悪びれる様子もなく、クッキーをかじっていた。


 「妖精は死ねないの。そもそも、生きてもいないから、死も存在しない。土や水と同じ」

 「ですが、痛みを感じます。喜んだり悲しんだり……この子たちには心があるのですよ」

 「あら、怒っているの?」

 「………この子たちはわたしを何度も助けてくれた大事なお友だちです。お友達が傷つけられて平気な人などいません」


 エリザベスはまだ気持ちが落ち着かずに、妖精を守るように抱いて女神を(にら)む。


 「そんなに(にら)まないでよ。わかった、私が悪かったわ。あの子の説明をしたかっただけなのよ」

 「……ピスティ卿が妖精をもとに作られたとは、どういうことですか?」

 「そのままよ。人間の姿には近いけれど、もとは妖精。歳も取らなければ、身体が崩れても修復される。でも、私が姿を変えてしまったからか、あの子は複雑な心が芽生えた……あの子を作って、さすがに生きるのに飽きてきたから私だけここに来たのだけれど、あの子をそのままにしておいたのは失敗だったかしらねぇ」


 女神は、ひじを机についてため息をつく。

なんとも無責任な考えに、エリザベスはますます女神に(いきどお)りを感じる。


 「なら、ピスティ卿はとても長い間、独りで生きているということですか……?」

 「生きているのは死がおとずれる者だけに使う言葉よ。あの子はただ、存在しているだけ」

 「ただ……存在しているって……」

 「でも、驚いたわ。まさか私を復活させようだなんて、もうとっくに生を終えてゆっくりしているというのに……そのためにいろいろやってしまったみたいだし」


 女神は、いかにも迷惑だと言わんばかりに大きくため息をついた。

エリザベスの目には、目の前の女神が実に自分勝手な存在だということと、ピスティにも彼なりの苦悩があったのだということを想像してしまった。


そんなこと考えてはいけないと思いつつも、気持ちの波が収まらない。


 「考えたことはありませんか……ピスティ卿の気持ちを……」

 「うふふ……まさか、同情しているの? 今、あの子にあなたは消されかけているのよ?」

 「ピスティ卿を許すことは決してありません。大事な人たちを傷つけて、追い詰めて……でも、あなたのピスティ卿に対する態度は良いものとは思いません」


 エリザベスはまっすぐ女神の目を見て伝えた。

この気持ちが女神に生み出されたのに捨てられたピスティに対する哀れみなのか、無責任な女神への怒りなのかもわからない。


 女神はじっとエリザベスの瞳を見つめると、にこりと優しく微笑んだ。


 「あなたは妖精やあの子にも寄り添おうとしてくれるのね。なるほど、気に入るわけか……」


 「じゃあ、エリザベス……あの子のために、あなたの身体貸してもらうわね」

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