陰謀
説明回っ!( ;∀;)
「うえっ!? お母様!? どうしてここに!?」
「あら、ミーシャ。エリザベスのもとに向かったのではないのですか?」
「いやっ、そうなんですけど……ちょっと待って! あり得なさすぎるっ」
「落ち着きなさい。焦っていても解決することなどありませんよ」
「えぇっ、お母様は落ち着きすぎです!」
「母はこれでも驚いてはいますよ」
灯りの主はミーシャとエリザベスの母、エミリアだった。
エミリアは屋敷では見たことがないズボン姿で、大きな鞄を背負い、まるで探検家のようだ。
まさかのエミリアとの出会いに他の三人も動揺する。
目を丸くしたルクスが口を開く。
「え……ディーワ夫人。何故ここにいらっしゃるのですか?」
「もう夫人ではございません。離縁いたしましたので、私はエミリア・ナギヤですわ、陛下」
「えぇ!? お母様、離縁なさったのですか!?」
「えぇ」
いくつもの何故!?のせいでミーシャは頭がパンクして、くらくらする。
「ナギヤ殿、そなたはいかにしてここに落とされたのか? まさか、それとも……」
「落とされたのではなく、自分の足でここにたどり着きました……魔王様のご様子を見るに、陛下たちはここに故意に入れられたのですね」
「アロクロのことも……知ってたの?」
「えぇ……歩きながら話しましょうか。あなた達が何故ここにいるのかも聞かせてください」
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エミリアを先頭に四人がついて行く。
「なるほど、そのピスティという者が女神の復活を……」
「はい、信じられないようなことですが……」
「信じられないことですが、現実に起こっているのでしょう? 女神の復活でエリザベスが器になると言っていたとなると、あの子が無事で返されるとは思えませんね。早くここから出て、復活を阻止せねばなりません」
「お母様はどこからここに?」
「ここに入るのは入り口はいくつかありますから意外と簡単でした。ですが、一方通行で戻ることはできません。そして、出口は一つだけ……」
すると、エミリアが懐から一冊の手帳を取り出して、ミーシャに渡した。
ミーシャが手帳をぺらぺらとめくってみると、そこにはびっしりと文字が書いてあって、時折、文字が荒くなっている。
「その手記は私のひいおばあ様のものです。そこに全て書いてありました。ここへの侵入方法も出口も、魔王様のことも……かつての争いで何があったのかも」
話に出されて、ルクスに抱えられているアロクロが顔を上げる。
「ひいおばあ様は当時の聖女様のお世話係をしておりました。聖女様は大変強い聖なる力をお持ちになって、多くの人々を救った、と私が幼い頃はひいおばあ様からよく語られたものです……本当に熱弁しておりました」
「その手記には、聖女様の活躍や生活、何気ないことまで書かれていて、ひいおばあ様にとって本当に聖女様が憧れだったようです。そのためか、字が細かく興奮して書いた箇所が読みづらく、解読に時間がかかりました」
ミーシャは、文章に書いてある「聖女様カッコいい!!」という文字を見つけて、げんなりした。
「そして、その手記には魔族の方たちを何故、本に封印したのかも書かれておりました」
「じゃあ、その聖女がオレを封印したあいつか……」
「はい、当時の聖女様は争いが起こることを未然に防げず、苦肉の策であなたがたを封印することを選んだのです」
「どういうことだ? オレたちを封印するのが、策?」
「あの本は、聖女様のお力で守られ、大抵のことでは燃やしたり破壊したりすることもできないようになっています。封印を解かない限り、あなたがたが命を落とすことはない……」
「まさか……本に封印することがオレ達を守る手段だったとでも言うのか」
「はい……当時、貴方様は魔王と謳われるほど絶大な力をもって人間と戦った。しかし、たとえあなたがお強くとも人間の数は多く、争えば争うほどあなたのお仲間も、人間もどちらも死者は多くなるばかり……どちらかが滅ぶまで争うことは不毛です」
「………だが、妹は死んだじゃないか、弟は死んだじゃないか……誰が恨みを晴らしてやれるんだ。どうするのが正解だったんだ……」
アロクロの行き場のない怒りで拳を強く握り、声が掠れる。
ミーシャがアロクロの傍まで行って、その手をゆっくりとほどかせた。
「魔王様……あなたの妹様も弟様も生きている可能性があります」
「は?……いき、ている?」
「手記には、争いのキッカケになった魔族の女性と人間の男性。その二人を本に封印した、と書いてあったのです」
「本に……? そんな、あいつらは大量に血を流して、最後には崖から落ちて……海に」
「細かい状況はわかりませんが、聖女様は二人が命を落とす寸前で本に封印し、命を取り留めたのです。本当にぎりぎりだったと」
「そんなっ……だったらなんで、教えてくれなかったんだ」
「聖女様は魔族にとっては敵の立場、そして、聖女様自身、大切な方を人質にされ、常日頃から監視をつけられて自由のない生活をしておりましたので、あなたがたに接触することがかなわなかったのです……ですが、無理にでもあなたに本を渡しておけば……と苦悩なさっていいたそうです」
「………」
アロクロは気持ちの整理がつかないのだろう、黙ってじっと考え込む。
ルクスの肩を叩いて「もう傷は塞がった」といって下ろしてもらった。
ミーシャが寄り添ってアロクロを支える。
「あの、お母様。そもそもどうして聖女様が敵だったのですか? 魔族と戦っていたのは、人間至上主義者たちだったんでしょ?」
「人間至上主義者の集団をロギア教団が裏で支援していたのです。その支援の主導者はリア・カスティ。聖女様はカスティに人質をとられていたのです」
「っ!……その名前だ。あのピスティと名乗っていた奴……あいつは人間なんかじゃない。オレはあいつを肉片になるまで粉々にして殺したのに、ぴんぴんとしてやがった。姿も当時から変わっていなかった」
「ピスティ……彼のことは裏で何を考えているかわからない、と聖女様も考えつつも、その目的まではわからなかったようです……」
話しながら随分と歩いてきた。
何も景色が変わらないのでミーシャは不安に思っていると、アロクロの瞳が突然ギラリと光った。
「………ある。気配がある。仲間の気配がある。しかも、一つや二つじゃない」
「えっ、でも、どうしてここに?」
「そういえば、言いそびれましたね。私がここに来た理由ですが、本を探しに来たのです。一部をひいおばあ様に託し、一部は残念ながら行方不明に……その他の本をこの大聖堂の最深部に保管していたのです。そして、いつか彼らが安心して暮らせる時期が来た時に封印を解いてほしい。それが聖女様の望みでした」
「じゃあ……もしかして、そこにアロクロの妹や弟がいるかもしれない?」
「えぇ」
ミーシャが期待に溢れた顔でアロクロを見ると、アロクロの瞳にも、もしかしたらという希望の光があった。
「この先です。その本が保管されている場所に出口もあります」




