迷路
ホラーかもしれません(;'∀')
エリザベスとミーシャが無数の妖精たちの眩い光に包まれたのち、その光が収まる。
ミーシャが目を開いたときには、ルビーの瞳に光が宿っていた。
「………リズ? それに、アロクロっ!? 怪我してっ、あ、あたし……」
「ミィ……よかった」
「リズ!」
エリザベスはミーシャが元に戻ったことを確認すると、力なく膝をついて座り込む。
エリザベスは身体に違和感を感じて両手を見ると、両手が透けて半透明になっていた。
「な、にこれ……?」
「リズ、逃げよう! 立てる?」
「た、てないわ……ちからが、はいらないの」
「あはは……あははははは! やはりボクの思った通りだ! 最高ですよっ、エリザベス!」
ピスティの心がねじれた高笑いが響く。
ミーシャがピスティから、エリザベスとアロクロをかばうように立ち、アロクロを傷つけてしまった剣の刃をピスティに向ける。
「あなたは今までの聖女と比にならないほど妖精と相性が格段にイイ! その証拠に身体が妖精と同一化していますよ!」
「やはり、あなたは……女神の器に相応しい」
エリザベスはピスティの歪んだ笑みで背筋が凍る。
「あんたにリズを好きにさせないっ!」
ミーシャは駆け出し、ピスティに剣を振るう。
しかし、ピスティが手をかざすと、アロクロを拘束していたものと同じ鎖が現れヘビのようにうねり、ミーシャとアロクロを一緒に縛り付けた。
ピスティがひょいと手をまわせば、鎖がしなだれて二人は放り投げられる。
「うぐっ、なんだこれ!? 放せっ、リズ逃げて!」
「エリザベスっ!!」
「エリザベス様!」
兵士たちと戦いを繰り広げていたルクスが怪我を負いながらも、兵士たちをなぎ倒してエリザベスに駆け寄る。
ルーニャも兵士を乗り越えようとしていたが、兵士の盾で腹を殴られて地面に転がった。
自分一人でもエリザベスを助けなければと、ルクスが四つ足で駆けるが、その甲斐もむなしく新たに出現した鎖が足に巻き付く。
鎖が身体に食い込もうとも、エリザベスのもとへと行こうとする。
「ぐ、あああ! エリザベス!」
「ルクス様……」
「はぁー……もう、邪魔しないでくださいよっ。これから、女神復活の儀式をしなければいけないんですよ。忙しいんですよ! あぁ、でもやっぱり、こんな鬱陶しいのも許せるくらいとっても気分がいい!」
「ピスティ卿……あなたはいったい何を……」
「フフッ、そうですね。あなたのこれからに関することですし、ご説明しましょう! 周りをご覧ください!」
この空間の周りの壁をよく見ると、陰になっていたのとミーシャばかりに目がいって気が付かなかったが、大きな繭がいくつも壁についていた。
その繭は人がすっぽり入れるほどの大きさだ。
「あの壁の繭には今までの聖女たちが保存されているんです。いやぁ、あの数を集めるのは本当に時間がかかりました。それに、女神の器足り得る人物はいなくて……」
「聖女……? あの中に人を閉じ込めているのですか!?」
「あ、大丈夫。彼女たちは生きてますよ。言ったでしょ、保存です。女神復活のためには、彼女たちの並外れた聖なる力が必要なんです」
「先ほどから、女神様の復活だなんて……そんなこと」
「できるんですよ。条件は二つ、大量の聖なる力と女神の力を司る妖精と同化した人間。今、ミーシャさんの呪いを解くために、あなたは妖精の力をたっくさん使ってくれました。おかげで影響を受けたあなたの身体は限りなく妖精に近い……」
「通常でしたら力を使えば使うほど同化が進むのですが、あなたはぜんっぜん今まで使っていなかったようですから、おかげでこんな回りくどいことをしてあなたに力を使わせないといけませんでした」
「フフ、今までの聖女は同化まではいかなくて……ですが彼女たち自身が持つ力は素晴らしい。使わないなんてもったいないのでとっといたんです」
エリザベスの身体が恐怖で震える。
ピスティは、他人を人と思っていない。
エリザベスが這いつくばってでも逃げねばと手を伸ばすが、ピスティに腕を掴まれる。
「逃がすわけないじゃないですかぁ……ボクの長年の望みがこれで叶う」
「いやぁ、離してっ」
「くそっ! その汚い手でエリザベスに触るな!」
ルクスが叫ぶがピスティは、不気味に笑うだけだ。
「さて、そろそろ邪魔者には退散願いますか……ご存じですか? この大聖堂のさらに地下には迷路が広がっているのですよ。罪人を罰するためのね。ボクは無意味な殺しは嫌いなので、代わりにそこに送ってさし上げます。まぁ、そこに出口はないんですけどねぇ」
ピスティが手をかざすと、ルクス、ミーシャ、アロクロ、ルーニャの足元が光る。
光に包まれると、四人はその場から姿が消え去った。
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ルクス、ミーシャ、アロクロ、ルーニャは大聖堂の最深部に広がる地下迷路に送られた。
周りの岩肌は特殊な鉱石を含んでいるのか、ほんのりと光を帯びている。
空気は寒々としていて、自分たち以外の音がない。
ルクスやアロクロとミーシャを繋いでいる鎖はピスティの力で作られたものだったのか、強く拘束する力がなくなった。
ルクスは自力で鎖を引きちぎり、ミーシャたちの鎖はルーニャが破壊した。
「ありがとう……えーっと」
「エリザベス様の専属メイドのルーニャです、妹様!」
「ありがとう、ルーニャ。ミーシャでいいよ。別に爵位とかもないし、ただのミーシャ」
「わかりました、ミーシャ!」
ミーシャは微笑んでお礼を言い、アロクロに肩を貸して立ち上がる。
「本当にごめんなさい……アロクロ、あたし……」
「謝るのはオレの方だ……全部あのクソ野郎のせいだってわかってる。嫌な思いさせたな」
「あたしなんて全然………助けに来てくれてありがとう……」
ミーシャが微笑むとアロクロも優しく微笑んだ。
「とにかく出口を探そう。あの変態野郎からリズを助けないと……えっと……」
ミーシャの視線がルクスに向く。
ルクスは、怒りなのか不甲斐なさを悔いているのか、壁に拳をぶつけた。
壁にひびが入った。
「あ、の……ルクス?さん」
「なんだ……」
「あたし、あなたのこと誤解してた。リズを苦しめる、悪い人なんじゃないかって、でも違った。リズを大事にしてくれていたみたいだし、あたしのことだって助けにここまで来てくれた」
「だが、それでエリザベスは危険に陥っている……こんなことならば、彼女を置いてくるべきだった。それをしなかった俺はただの愚か者だ」
「それは、リズの意志を尊重してくれたんでしょ?……リズのことだから自分で行きたいって言ったんじゃないかって、思ったんだけど……いつも、リズは自分の意見を言うのは得意じゃなくて、汲んでくれる人も少なかったし……だから、助けられたあたしが言うことじゃないけど、リズはルクスさんがここに来るのを許してくれたのは、嬉しかったんだと思う……」
「………」
「もちろんこれから脱出して、リズを助けて、あの変態をぶん殴るよ! それで……みんなで帰るの」
ルクスは、寄っていた眉間の皺がゆっくりとほどけていく。
そして、ミーシャが肩を貸していたアロクロを軽く抱えた。
「う……荷物みたいな気分だ」
「文句を言うな。この方がミーシャの負担がなくなるだろう。出口を探すまで我慢してくれ」
「出口か……ないなら作ればいい。壁の薄そうなところをぶち壊して外に出るのもありだ」
「ふむ、頭に入れておこう」
「よしっ、じゃあ出口を探すもしくは作るため、出発!」
ミーシャはにこっと笑顔になって、拳を掲げた。
そして、四人はしっかりと歩み始めた。
暗くてもよく目が見えるルクスとルーニャがミーシャをはさむようにして歩く。
しばらく歩くと、三人分の足音とは別の足音が聞こえてきた。
「……誰かいる」
最初に気付いたルクスが注意を促し、慎重に歩みを進めると、暗い道を照らす灯りが見えてきた。
その灯りの主を岩陰に隠れて確認するとその意外過ぎる人物に、ミーシャは驚きの声を上げることになる。




