帰ろう
※胸くそ、流血、注意です
それからラナは、キラリの家で遊ぶことが増えた。
ラナは部活帰りにキラリの家で時間が潰せるし、キラリも話してみれば趣味に熱いが面白い女の子だった。
キラリの両親は海外出張らしく、兄弟もおらず、いつも家はキラリ一人だ。
キラリの部屋でラナは大きいクッションにもたれかかり、ぼーっとキラリのやっている乙女ゲームを見ていた。
「ほらっ、めっちゃかっこいいでしょ! アロクロ様!! うあああ! いげめん!」
「ん、顔がいいね」
「ほらっ! 解放の呪文、復唱! Surgit!」
「さーじ」
「ちがうっ! もっと開放する気持ちを込めてっ! 愛を込めてっ!」
ラナは基本何に対しても反応が薄いのだが、反応が返ってこないわけではない。
それをキラリがテンション高く返してくれるので、ラナにとってそれがありがたくて、楽しかった。
ぼーっと見ていた画面に、桃色の髪と青い瞳の女性が映る。
「ねぇ、キラリ。この子、悪い子なの?」
「まぁ、ゲームでいう悪役ポジションだよ。性格キツイし、嫉妬がヤバいし、でも、アロクロ様を解放するのはうらやま」
「ふーん……どうして、そんなんなっちゃったんだろう? 婚約破棄されたから?」
「え? うーん、婚約破棄をされたのがキッカケだけど……設定資料集が今度発売されるから、そこに細かい設定が書いたるかも。あっ、楽しみすぎるっ!」
「そうなんだ」
ラナは、画面越しで泣いている桃色の髪の女性が、心に引っかかる。
だが、いくら考えても彼女の心の裏は見えるはずがなかった。
「ごめん、そろそろ家戻る」
「えっ……そっか、じゃあまたね……」
「ん、また来る」
ラナが家に戻った時、両親はいつものように言い争いをしていた。
「本当にうんざりだっ、もう離婚届を書いてくれっ」
「なんでよっ!? ちょっと新しい服買っただけじゃないっ」
「こんな女と結婚した俺が馬鹿だったよっ! 子どもさえできなければ籍なんて入れなかったのにっ、お前が薬を飲まないからっ」
「あんたが子供ができるようなことしたんじゃない! アタシだけのせいにしないでよっ」
ラナの鞄を握っていた手から力が抜けて、どしゃりと鞄が床に落ちた。
灰色に見えていた世界がより暗くなっていく。
「あたしが……あたしが邪魔だったんだ」
「お父さんとお母さんの幸せを邪魔していたのは……あたし……か」
やっとラナの気配に気づいた両親がリビングのドアを開けた時には、ラナは家を飛び出していた。
両親が呼びかける声がもう届くことはなかった。
視界が夜の暗闇よりも暗い。
さらに涙で視界が濁っていく。
何も見えなくともとにかく逃げてしまいたくて、気持ちがぐしゃぐしゃで、とにかく走り続けた。
「ハァっ、ハァっ、ハァ……」
「っ!?」
強い光を身体に当てられたと思った時、大きなクラクションの音と衝撃が全身に走った。
気付くと地面に倒れていて、身体の周りが温かい水で濡れている。
(あ……血、か……)
(死ぬのかな)
(まぁ……いいか)
(あたし、生まれてこなかった方がよかったみたいだし)
(でも……)
(さみ……しい……な)
ラナの視界が真っ暗になった。
ミーシャの前世、カミシロ ラナは、交通事故で息を引き取った。
・
・
・
「……酷すぎる」
「こんなの……悲しすぎる」
エリザベスはどうしてかわからないが、ラナの記憶が目の前で現実のように繰り広げられていた。
しかし、エリザベスの姿はラナや他の人間にも見えていないようだった。
何かに触ろうとしても触れられず、いくら話しかけても反応がない。
何故こんな状況に陥っているかわからなかったが、それよりも目の前で心が殺され、命が終わった女の子を助けてあげたかった。
何度も彼女の涙を拭おうとしたし、抱きしめようとしたがそれらは叶わなかった。
ラナの記憶はガラスを飲み込むように痛々しく、悲しく、見ていられないほどだった。
エリザベスにもその痛みが伝わってきて、とめどなく涙が流れてくる。
「きっと……きっとあの子がミーシャの前世なのね……ミーシャ、こんな辛いことを一人で抱えて」
「ミーシャ……」
泣いているエリザベスの耳に、自分とは別のすすり泣く声が聞こえてきた。
「この声……ミーシャ!?」
エリザベスは、辺りは方向がわからないほど真っ暗になっていたが、必死に耳を澄ませてすすり泣く声のもとに走った。
すると、見慣れた金髪の幼い女の子がうずくまって泣いている姿が見えてきた。
「ミーシャ……ここにいたのね」
エリザベスがミーシャの隣に座り、優しく抱きしめる。
「あたし……ミーシャ・フォン・ディーワとして生まれて、しばらくして前世の記憶を思い出したの」
「さっきの……友達としていたゲームにリズがいて、リズはゲームの中では不幸になると決まっていた」
「でも、そんなの嫌だった。あたしの知っているエリザベスは優しい姉だもの……」
「でも、結局……婚約破棄も祝賀会のことも……あたしがリズの幸せの邪魔をしていたんだって」
「あたしが……うまれて……こなければ………」
エリザベスは、小さなミーシャを愛情を分け与えるように、より優しく抱き寄せる。
「よく聞いてミィ……わたしね、あなたといるととっても心が温かくなるの。どれだけ王妃教育で辛くたって、どれだけお父様に怒られたって、ミィといれば不思議となんだって頑張れた」
「ミィはずっとわたしのことを大事にしてくれて、そのおかげでわたしの心が死なずにすんだ。好きな人だってできた。だから、とても幸せよ……」
「ミィがいたからだよ。ミィがわたしを生かしてくれたの……」
「生まれてこない方が、なんて悲しいこと言わないで……あなたはこの世界で、たくさんの人に愛されているのだから……ね?」
いつのまにか幼いミーシャは、歳が元通りになっていた。
エリザベスを力いっぱいに抱きしめ返して、子供のように鼻水が出るほど泣きじゃくる。
「うあああああん」
「たくさん頑張ったね、大変だったね」
「う、うん、ううぅ、ああああぁ」
「ありがとう……生まれてきてくれて、ありがとう……ミィ」
「一緒に帰ろうね」




