臆病
はぁ、ほっこり(/ω\)
エリザベスとルクス、アロクロ、ルーニャは馬車でロギア教国に向かっていた。
大所帯になっては動きにくいのと、あくまでも交渉のため、ある程度の護衛と使用人のみで移動をする。
本来ならばエリザベスとルクスは新婚旅行をする予定で、国をあけるのは問題はなかった。
しかし、旅行気分には到底なれそうにはない。
エリザベスは、宿の寝室で落ち着かないせいか、立ったり座ったりを繰り返していた。
「ミィ……ひどい目にあっていないかしら……」
「言葉は悪いが、大事な人質だ。無碍に扱うことはないだろう」
「……そう、ですね」
ルクスが落ち着かせるようにエリザベスの背中を撫でる。
エリザベスはルクスの温かい手にほっと息をついて、柔らかく微笑んだ。
「そろそろ眠ろう。明日も移動だ」
「そう、ですね……そうします」
二人で寝台の前まで来て、やっとエリザベスの頭に「同じ寝台で眠る」という考えが浮かんだ。
(わっあぁ! 失念していたわ! ま、まさか今夜が初夜!?)
エリザベスは気持ちの整理が追い付かず、頭がぐらぐらしてると、顔にでていたのかルクスが苦笑する。
「さすがにしないぞ……」
「そ、そうですよね」
「全てが終わって、そなたの気持ちの整理がついてから、気兼ねなく抱きたい」
「へっ!?」
「寝ようか」
ルクスににこりと微笑まれ、手を引かれるまま寝台で二人は横になった。
しばらくしても、エリザベスは心臓がばくばくとなってしまって、眠れる気に全くなれなかった。
(眠れない! あんな、さらりと言われると……うぅ……)
横をちらりと見ると、ルクスは背中を向けていて、静かな吐息だけが聞こえる。
ふと、首周りのもふもふにエリザベスの視線が移った。
あまりにも眠れなくなってしまったエリザベスに、いらぬ考えがよぎる。
(ルクス様……頭を撫でた時……すごく、もふもふだった)
(眠っていらっしゃるなら……少し、だけ……こっそり……いやいやでもまた寝ぼけて首を噛みつかれそうになったら)
エリザベスは、少し身体をずらしてルクスに近寄る。
じーっとルクスのもふもふを見つめると、身体がうずうずしてくる。
(ゆ、指先だけ……)
そーっと手を伸ばす。
そして、お目当てのルクスの首元のもふもふに指をうずめる。
(気持ちいい……あったかい……ふわふわ)
「えへへ」
嬉しさのあまり、小さい笑いがもれた。
「エリザベス、我慢しているんだ。頼むから……」
ルクスの悶えているような声が聞こえてきて、エリザベスは驚いて手を引っ込める。
「ひゃっ! も、申し訳ありません! 起きていらしたのですね……」
「正直、心落ち着いて眠れる状況でないから、眠るまで時間がかかりそうだ……」
エリザベスは、今まで一人で気を張って眠っていたルクスが急に他人と眠るとなると、気を遣うのだろうと今になって考えが至った。
「わたしがいると落ち着かないですか? でしたら、わたしが別の部屋で……」
エリザベスが身体を引いて寝台からおりようとした。
しかし、その前に背を向けていたルクスが寝返り、エリザベスを抱きこんでしまった。
エリザベスは、すっぽりとルクスの胸にうずまってしまう。
「離れようとするな」
ルクスの声が耳の傍で聞こえる。
エリザベスは、顔だけでなく全身が熱くなって、鼓動も速くてうるさくて、ルクスに聞こえてしまうかと心配になった。
「そなたは、どうか俺の傍からいなくならないでくれ……」
ルクスのか細い声が聞こえた。
その言葉は願いでもあり、悲痛な心の叫びでもあった。
まだ、彼の孤独を理解しきれていない。
それでも、自身の心だけでも応えようと、エリザベスは、ルクスの背に手をまわす。
頬をすり寄せて精一杯の愛をみせる。
「ルクス様を独りになんてしませんから……」
しばらく、抱しめ合っていると、ルクスの高い体温がじんわりとエリザベスに移って心地が良かった。
「ルクス様はいつも温かいですね。こうやって抱きしめてくださると、わたしまで温かくなって、とても心地が良いです」
「そうか……」
「まだ眠れないので、お話ししてもいいですか?」
「あぁ、いいよ」
「ルクス様は、幼い頃はどんな方でした?」
「そうだな……情けないのだが、悪夢を見た時には一日中父上や母上にくっついていたくらい、臆病で弱虫だった」
「可愛らしいではありませんか。それに、きっとそれが普通なのですわ。誰だって、不安な時には親しい方に傍にいてほしいものです」
「そう、なのか……」
「はい」
「そう、か……」
「もっと聞かせてください。何をして楽しかったのか悲しかったのか、お友だちのお話しとか、お好きな食べ物とか……」
ルクスは、少しずつ自分のことを話してくれた。
少しの期間母と共に、平民と同じように過ごした時期があったこと。
そこでジーニャとルーニャと出会ったこと。
肉も好きだが、甘いお菓子も好きなこと。
大事な思い出から、何気ない話まで、エリザベスは全てが大切に思えて仕方がなかった。
「不思議なものだな、俺個人に対してこんなに興味を持たれるとは……」
「好きな人のことは知りたくなるものです……が、その、積極的すぎましたでしょうか……」
「いや、そなただからか……嬉しく感じる」
エリザベスは、嬉しそうに微笑んでぎゅっとルクスを抱きしめる。
そして、いつの間にか規則的な寝息をたてていた。
(眠ったか……)
(そなたは、こんなに俺を慕ってくれるが俺はいつまでも臆病な男でしかない)
(そなたを守れなくなる日がきてしまったらと、不安で仕方がない……)
ルクスは、目をつむって腕の中にすやすやと眠るエリザベスのぬくもりを感じながら、眠りについた。
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馬車の旅を終えて、ロギア教国の首都に着いた。
町は空から見れば大聖堂を中心に円を描いており、白色を基調とした建物で統一されていて、その統制された美しさにため息がでる。
馬車が大聖堂の前まで着くと、神官たちがエリザベスたちを出迎えた。
ルクスとエリザベスが馬車から降りると、神官の一人が前に立ち、にこやかに話しかける。
「ルクス皇帝陛下にエリザベス皇妃様、ようこそいらっしゃいました。長旅でさぞお疲れでしょう。大聖堂では遠方からいらっしゃる方のための宿泊場所もありますので、そちらをお使いください」
「出迎えありがとう。だが、長居はするつもりはない。要件を早く済ませたい」
「……さようでございますか、ではこちらへ。あぁ、護衛騎士の方たちは大変申し訳ないのですがここは神聖な場所です。武器の持ち込みは許されていませんので、武器をお預かりします」
護衛で連れてきていた騎士たちの顔色が曇る。
ルクスも一度顔を曇らせたが、ここでごねてはミーシャに会うこともかなわないだろう。
(武器を没収するつもりだったのだろうが無駄に手放す必要はないし、もし俺たちが外に出るのが遅ければ騎士たちが動けるようにしておくべきか……)
(武器がなくとも俺やアロクロ殿、ルーニャは戦える……)
「話し合いに来たのだから、ぞろぞろと大聖堂の中まで騎士らを引き連れはしない。外で待機させておこう。そこの従者とメイドだけ連れて行く」
ルクスが視線を向けた方には、角やしっぽを隠して大人しくしているアロクロと人懐っこい笑顔をみせるルーニャがいた。
「……かしこまりました。ですが、念のため身体検査を、これは決まりですので……」
「俺も皇妃もか?」
「大変失礼なのは重々承知ですが、なにとぞご理解を」
身体検査を口実にエリザベスと別々にされるだろうと懸念したが「ルーニャと一緒に受けますから、もし何かあればすぐに呼びます」と、エリザベスが小声で言った。
不満そうにしていたルクスだったが、身体検査中は部屋の前で自分が待機することを条件に了承した。
何か起こるだろうかと思って警戒してたが、ルーニャの武器をとられたくらいで終わった。
ルーニャは「ちぇ、一本くらいいいじゃん……」とふてくされていたが大人しく武器を渡した。
エリザベス、ルクス、アロクロ、ルーニャの四人は神官を先頭に大聖堂へと足を踏み入れた。




