本当の気持ちは
少し休憩室で休息をしたかったエリザベスだったが、令嬢たちの件で思わぬ時間を食ってしまい、そのまま踵を返して会場に戻ることにした。
(なんだか休憩をする気持ちでもないし、陛下がお待ちになっているのだから、もう戻ろう)
会場に戻ると遠くにルクスの姿を見つけた。
しかし、温かくなった心がある光景まで視界に入ってしまい一瞬で心が冷えてしまった。
ルクスがたくさんの令嬢に囲まれて話している。
「あ……」
エリザベスから思わず声がもれる。
その声には絶望が詰められていた。
(陛下は世継ぎがいるとは言ったけれど、別にそれはわたしでなくともいい。他の人間の側室を迎えれば確率だって上がる)
(考えれば簡単にわかることなのに……わたし、目を逸らしていたのだわ……)
エリザベスは、ルクスのもとに向かう気にはどうしてもなれなくて、気持ちが落ち着くまでテラスで風にあたることにした。
テラスにでると、夜になった外の真っ暗で冷たい空気に頭が冷える。
後ろの祝賀会のにぎやかな雰囲気とはまるで別の切り離された空間に思えた。
(わたしは、一体何を勘違いしていたのだろう……)
(陛下はこんな不甲斐ないわたしを罵ることもしないし、暴力を振るうこともしない。とても優しくしてくださった)
(でも、それはきっとわたしだからじゃなくて……陛下のお人柄で、誰にだって向けられる優しさだったんだわ)
「泣いちゃだめ……こんなことで、泣いちゃ……だめ」
「大丈夫、大丈夫……いつだって我慢できたんだから」
エリザベスの鼻の奥が痛くなる。
瞳がうっすらと濡れてくるのがわかり、それを必死で我慢しようと唇を噛みしめて、更に手で口を塞ぐ。
しかし、また血が出てしまってはいけないとゆっくりと力を抜く。
(いけない。また、陛下に心配をさせてしまうところだった……)
目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返し、無理やり落ち着きを取り戻させた。
(もう、戻らないと……)
さすがにルクスを一人にさせすぎてはいけないと、会場に戻ろうと振り返ると、焦った顔をしたルクスがテラスに飛び出してきた。
「へ、陛下? どうなさったのですか?」
「エリザベス……よかったここにいたのか」
「少し冷たい風にあたりたくて……そうだ、次は陛下が休憩されますか?」
エリザベスは、先ほどまでのぐちゃぐちゃな気持ちを隠しきれずに、ぎこちない笑顔でルクスに話しかける。
ルクスは、眉をひそめてエリザベスの顔をじっと見つめていた。
「……いや、俺は大丈夫だ」
「そうですか。そうですわ陛下、今後側室の方を迎えられると思いますが、わたしにお気遣いはなさらなくて大丈夫ですよ」
無理やり元気を引きだして、明るくなんてことはないように振舞う。
ルクスから言葉を聞くよりも、自分から言ってしまった方がずっと楽だと思った。
「今日だって、陛下にふさわしい方がたくさん……」
「いらっしゃい……」
「………」
「……どうして、ですか?」
「どうして、陛下がそんな傷ついた顔をなさるのですか?」
側室という言葉がでて、エリザベスが話し進めるにつれて、ルクスの表情が沈み、心がナイフで切られたように苦しそうな顔をしていた。
エリザベスは、笑顔を貼りつけることなんて、できなくなってしまっていた。
「俺は側室を迎える気など毛頭ない」
「そう、なのですか……」
「俺にはそなたがいれば、それでいい……」
「え………」
「………エリザベス、俺はそなたが」
「………」
「…………」
「すまない。本当に自分勝手で情けないが……心を整理する時間がほしい」
「少しだけ待っていてほしい……頼む」
ルクスは気持ちをかみ殺すように、ぐっと息を飲み込み、頭を下げた。
エリザベスも気持ちが追い付かずに、困惑するばかりだ。
しかし、ほんの少しだけルクスの言葉に希望を見出してしまって、エリザベスはこくりと頷いた。




