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【完結】たしかにわたしは婚約破棄をされて隣国に嫁がされたけれど、だからって魔王を呼び出しちゃダメよ妹ちゃん!  作者: Nadi
エリザベス編2

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好き嫌い

 (執務室……今日は陛下もここでお仕事だったはず)


 扉を目の前にすると緊張がこみあげてきて、エリザベスは(つば)を飲み込んだ。

だが、ここで立っているままではいかず、扉を叩いた。


 扉が開くと、顔を出したのはルーニャの兄、ジーニャだった。


彼もルーニャと同じく(とが)った耳と小麦色の肌に若草色の瞳と髪だが、落ち着いた(りん)とした雰囲気をもつ青年だ。


 エリザベスと後ろのルーニャを確認すると、ジーニャは執務室の扉を大きく開けて、二人を迎え入れる姿勢をとった。

奥にはルクスが仕事机で書類に向かっているのが見えた。


相変わらず周りに妖精が何匹か飛んでいる。


 ルクスは狼の顔の鼻筋に(しわ)が寄って厳しい顔になり、ちらりとエリザベスを見たが、すぐに書類に視線を戻してしまった。


それがエリザベスは少し寂しく思えて、心がちくりと針で刺された。


しかし、ルーニャがジーニャの腕を引っ張って、扉を閉めさせることでエリザベスの視界は(さえぎ)られた。


扉を閉めるとジーニャは何事かと迷惑そうな顔をしてルーニャを(にら)むがルーニャは全く気にしていないようだ。


 「ジーニャに用があってきたの」

 「僕に?」

 「ほらこれっ! エリザベス様と一緒に作ったのクッキー! しかも、可愛いのよ、ねこちゃんにいぬちゃんにとかげちゃんもクッキーで作ったの」

 「とかげ……」


 ルーニャが嬉しそうにクッキーを詰めた包みを差し出すと、ジーニャはそれを受け取って少し目を細めて包みを見つめた。


 「お前が料理とは……」

 「エリザベス様と一緒に作ったんだから味も美味しいのよっ。食べて、食べて!」

 「今食べるわけないだろう。申し訳ございませんエリザベス様、妹が迷惑をかけてばかりで」

 「そんなことないわ。ルーニャのおかげで毎日楽しいもの」


 エリザベスは、兄弟の会話をにこにこして微笑ましいなぁ、と思いながら聞いていた。

ふと、エリザベスも包みを持っているのがジーニャの目にとまって、慌てて扉の取っ手に手をかけた。


 「もしや、皇帝陛下にお渡しする予定でございましたか? ひきとめてしまい申し訳ございません」

 「あっ、違うの……いいえ、本当はお渡ししたかったのだけど、わたし、陛下が甘いものが好きかどうか知らないまま作ってしまって……お忙しそうだし、迷惑になるだろうからまた今度にするわ」


 少し寂しそうに微笑むエリザベスを見て、ジーニャは眉がぴくりと上がった。


 「………エリザベス様は陛下のことお嫌いになっていないのですね」

 「え? そう、そうね。陛下のこと嫌いだなんて思ったことはないけれど……」


 突然の質問にするりと答えが出て、そんな自分に驚いた。


 (そうだ。わたし、陛下のこと嫌いじゃないわ。むしろ、好感がある?)


 再び考え事に(ふけ)りそうだったが、これ以上ジーニャの時間をとっていけないことを思い出した。


 「ごめんなさい、お仕事中なのに長話してしまって」

 「いいえ、むしろ私の妹に付き合わせてしまい、申し訳ございませんでした」



 エリザベスとルーニャの姿が遠のいて見えなくなってから、ジーニャは執務室の扉をそっと開き、入った。


 「行ったか」

 「はい。お話しされなくてよかったのですか?」

 「特に話すことはない」

 「エリザベス様はそうではなさそうでしたが」

 「………」

 「陛下、差し出がましい提案ではございますが、エリザベス様と一度お話しされてみてはいかがでしょうか?」

 「下手に彼女との距離が縮まれば、余計に目をつけられて危険な目に合う確率が増えるだけだ……俺には敵が多すぎる」

 「……未だに出自差別意識のある貴族たちですね。実績を出しているというのに、いつまでたっても考えを変えない」

 「自分たちの地位を(おびや)かされることを恐れているのだ。そのような状況になれば、どのような者でも必死になる」


 ルクスは、鼻をすんすんとならし、空気の香りをかいだ。


 「彼女たちがきてからいい香りがするな……」

 「あぁ、クッキーです。エリザベス様と妹が作ったそうで」

 「………………」

 「陛下?」

 「………何でもない」


 ルクスは食べ物に対して好き嫌いをみせることがなかったのだが、まさかのクッキーに反応したので、ジーニャは目をぱちくりさせた。


 「………お召し上がりますか?」

 「いい、お前のだろう」

 「さようですか……」


 (少し耳が()れている。本当は召し上がりたかったのか……)


 ジーニャは、ルクスの心境の変化に、心の中で密かにほくそえんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  …皇帝陛下の反応が狼ではなくワンコになっている。  デレも近し。
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